A Solitary Battle High Speed Stage第1話
人は、何の為に生きるのだろう。
何の為でも良いじゃないか。
例えそれが……自分の為であったとしても。
だからこそ、今の俺は自分の為に必死に生きようとしているのだから。
アメリカはアリゾナ州で生まれ育ち、現在はカリフォルニア州サンディエゴに住みながら売れない役者で
何とか生計を立てて居るのが、ニール・クロフォードだ。
確かに役者として舞台に立ったりテレビドラマの端役で出演をしてはいるものの、基本的には副業もしなければならないので
役者の仕事が無い時はサンディエゴでガソリンスタンドの仕事を副業としている。
そんな彼にはある1つの特技があった。それは毎朝のトレーニングを欠かさず行っているカラリパヤットだ。
2016年の今年の1月26日で35歳になった彼が、20年前からそのインドの伝統武術を習っている。何故この広いアメリカでインドの
伝統武術なのかと言うと、それは20年前の彼が学校でいじめにあっていた事から全てが始まった。
かつてはジュニアハイスクールで、暴力的ないじめを受けていた彼に手を差し伸べてくれたのが近所に住んでいた移民のインド人で
カラリパヤットの達人だった。その男はいじめられていたニールをあっと言う間に助け出し、そんないじめられっ子だった彼に自分の知っている
カラリパヤットの全てを教えてくれた。
そうしてニールは20年経った今でもカラリパヤットを続けており、そのカラリパヤットで培った身体能力を生かしてスタントマンとして活動したり、
悪役としてすぐに倒されてしまう雑魚敵等の役を貰ったりしている。
ニールはその日も副業のガソリンスタンドの仕事を終え、そのガソリンスタンドの仕事でスケジュールが埋まりつつあるスマートフォンの
スケジュール帳を見ながら夜の浜辺へと向かっていた。彼の勤務するガソリンスタンドは海の近くにあり、今日は特に客が多くて疲れたので
海へと向かって海風に当たりたいと考えている。たまには気分転換だって必要だ。
そしてそこに行く目的は1つでは無かった。気分転換の為にただ単に浜辺に行ってボーっとするのでは無く、そこは地面が砂になっている為に
やり易い事があるのだ。と言っても本場の地面は土。その上で今からやりに行く事と同じ事をするので違うと言えば違うのだが。
その砂浜の上に辿り着いたニールがする事、それはカラリパヤットの基本的な8つのポーズでストレッチをする事であった。
カラリパヤットは流派によって微妙に違うのだが、基本的にやる事に関しては何の変わりも無い。他の武術と同じで、型の練習もその1つだ。
カラリパヤットは8つの動物のポーズを使って身体のストレッチをして、そこから身体をほぐして行く。この8つのポーズはそれぞれ戦いに使う事も
出来るポーズもあれば、身体を休める為に使うポーズもあるし、体幹を重点的に鍛える事の出来るポーズもある。そうしたポーズ全てが身体の
全体を満遍無く鍛える事が出来、柔軟性も養う事が出来る為にしなやかで、かつバランス感覚に優れた身体を作る事が出来るのだ。
そのポーズ以外にも、道場礼拝と言って神に祈りを捧げるポーズを連続して行うものも存在している。独特な動きがカラリパヤットには多い為、
こうしたポーズの連続は余り外で行う事が出来ないのが現状ではあるのだが。ましてやサンディエゴはアメリカでも有数の世界都市。
浜辺には日中でも夕方でも人間の姿が多いので、そうした人目のある所でうかつにこう言ったポーズをする事が出来ない。なのでニールは
外ではその道場礼拝を師匠と一緒にやる事はあっても、自分1人で練習する時は家の中でやるのが日課の1つになっている。
今日は夜で、そして浜辺と言う事もあり人気は微塵も感じられないと言うのが今ここでそのポーズの練習をしようと言う理由であった。
しかしこの場所を選んでしまった事、プラスこの時間帯を選んでしまった事が彼の人生を大きく変えてしまう事になる等、この時のニールは
勿論全く予想出来ない事だった。
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