A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第37話
まだここで諦める訳には行かない。手合わせだって立派なバトルだ。
その思いがロシェルを立ち上がらせて、コラードの方へと足を進ませる。
「ふっ、はっ!」
今度は先にコラードの方から斧を振るって来たので、ロシェルは今回は無闇に手を出す事はせずに
少し様子を見る事にする。
(くっそ、長いな!)
こうした長い武器と言うものは今の地球ではなかなか見かける事は少ない。
ファンタジーな世界と言うだけあって、こうした武器はこちらの世界ではオーソドックスなものである事は
間違い無いのだが、現在の地球においてはもう300年も400年も前の武器であり今ではよっぽどの
事が無い限りこうした武器は使わない。
鉄パイプ等で殴りかかって来るならまだ分からないでも無いが、戦場では銃やナイフ等の小ぶりな武器が
使われるしそもそも今の戦場と言うものはテクノロジーの発達による情報化の知恵比べの
舞台だ……とロシェルはギリッと歯軋りをする。
(確かに異世界に来るなんて事は想像出来っこねーけどよぉ!! まさか、こんな所で今のテクノロジーの
進化が逆に足かせになるなんて!!)
今の時代はパソコンを始めとしてどんどん物の大きさが小振りになっている。当然武器だって例外では無い。
例えばこれが何処かの原住民族相手であればそうした訓練も積んでいたのだろうが、海軍の演習では
海賊相手でもここまで長い武器を使う相手を想定した訓練はやっていない。
(味方も敵も、お互いに船の上で戦うって事を第一に考えてみたらこんな長いもんは使えねーだろうよ!)
でも、幾ら心の中で嘆いた所でコラードにその嘆きが届く訳でも無ければこの状況が変わる訳でも無いので
何とかして反撃のチャンスを掴もうとロシェルは必死に斧の攻撃を避けて、間合いを見極めつつチャンスを待つ。
(そうだ……チャンスを待つんだ。大佐ならこんな時、絶対にそうする筈だ!!)
冷静沈着な性格の大差の戦法を真似て、じっくりと相手の動きや癖を観察して、相手のウィークポイントを
徹底的に突く事をロシェルは決めたが、この後にコラードはロシェルの予想だにしない動きを繰り出して来る。
「はっ!」
一瞬の隙が見えた。
飛び込めると確信してロシェルはコラードに接近を試みたが、コラードは次の瞬間背中に手を回して
ギラリと光る物をロシェルに投げつける。
「うあ!?」
投げつけられたものはこれも鍛錬用に刃を潰してあるナイフ。斧と一緒に用意してくれる様に事前にコラードが
クリスピンに頼んでおいたのだ。
そのナイフのおかげで接近を許されずに動きを止めてしまって隙だらけになってしまったロシェルの足を、今度は
斧では無くコラードの足が思いっ切り払い飛ばした。
「うぐっ!」
再び背中から地面に倒れ込んでしまうロシェルだが、すぐさま起き上がるのでは無く地面を横に転がって追撃から逃れようとする。
だが、コラードの方がどうやらスピードで速かった様だ。
転がろうとしたロシェルが目の前に見たものは、自分の右肩の更に上側、つまり自分から見た顔の右横スレスレで
大きな音を立てて叩きつけられた鍛錬用の斧だった。
コラードはロシェルの顔を目掛けて振り下ろす事も出来たのだが、それをあえてせずに顔の横に振り下ろしたとなれば……。
「そこまでっ! 勝者、コラード・モラッティ!!」
ロシェルにとっては敗北宣言が、コラードにとっては文字通りの勝利宣言が審判のクリスピンの口から響き渡りこの
手合わせに決着がついた。
(……負けた……)
もう少し良い勝負が出来ると自分では思っていたロシェルだが、その自信とムエタイ使いのプライドをこの手合わせに
よって粉々に打ち砕かれてしまった。
プライドを砕かれて打ちひしがれながら立ち上がるロシェルの耳に、コラードからの失望と嘲笑が入り混じったセリフが届く。
「正直、向こうの世界での軍人でしかも前線に立っていた事もあるって言うからそれなりに出来る人間かと思っていたのだが、
私は君の事を少し買い被り過ぎていた様だな」
「前線って言っても色々あるんですけどね……」
そんな事を口走ってみても、結局ロシェルが負けてしまった事に変わりは無い。
しかも今回は手合わせだったから良かったものの、これがもし実戦だったとしたら殺し合いだったのだから最後の斧の
振り下ろしであのスキンヘッドの大男みたいに頭を叩き割られて絶命していたのだ。
そうなれば、地球に帰る前にロシェルはこの世界で死んでいたと言う事になる。
(正直、ムエタイ使いとしてそれなりにテクニックを覚えて試合経験を積んで来たとは言え……所詮はスポーツ格闘技。
決められている試合のルールに乗っ取って戦うから、確かに命を落とす事はあっても殺し合いをしにムエタイをしている訳じゃ無い……)
だけど、この世界の人間は人間だけでは無くて魔物も相手にすると言う事を先程の書庫で読書をしている時にコラードから
ロシェルは聞いていたので、心の中でこの言葉が彼を支配していた。
(覚悟が違うのか……生きるか死ぬかと言う、戦場での覚悟の差の違いが!!)
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