A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第36話
「では……始めっ!」
「ふっ!」
クリスピンの号令が噴水の前に響き渡り、最初にロシェルがその性格ゆえに先制攻撃。
ムエタイ特有のテクニックであるダッシュからのジャンピングニーをあの路地裏の時と同じく繰り出すが、
コラードもボーっとしている訳では無くて横に少し身体をずらして回避。
「ほう……良い飛び込みだ」
そう呟いてコラードは反撃に転じる。
とは言えロシェルの使うムエタイの間合いとコラードの使う斧の間合いでは結構な差があるので、
コラードはロシェルから少し距離を取ってから攻撃をしようとする。
勿論そこはロシェルも分かっているので、コラードに距離を取らせまいと素手の格闘戦の利点である
身軽さから来る素早さを活かしてリーチの短さをカバーする。
「ぬっ、ぐっ! ふっ!」
下段ローキックをかわされても、その勢いのまま回転してハイキックに繋げる。
そのハイキックでコラードが後ろにのけぞったのを見て一気にロシェルは接近し、ムエタイの特徴として
余りにも有名な膝蹴りをコラードの脇腹やみぞおち目掛けて繰り出す。
この膝蹴りにも正面を蹴るものや斜め上に蹴り上げるもの、はたまた真横に向けた膝を繰り出して
相手の攻撃をブロックするもの、相手に密着してその相手の膝をひたすら蹴って有利な展開に持ち込むもの等、
一言で膝蹴りと言っても攻撃から防御まで色々なバリエーションが存在する。
しかし、コラードは鎖かたびらを着込んでいるのもあって余りロシェルの膝蹴りでダメージを受ける様子は見られない。
(ぐっ……効果が薄いか!!)
ロシェルもこのまま膝蹴りを続ければ、逆に自分が膝を痛めてしまう危険性があると判断して別の攻撃を考える。
だったら別の所を狙ってやるよとばかりに、ロシェルは膝蹴りを止めて今度はローキックを中心にコラードの下半身を
容赦無く蹴り付ける。 当然コラードも足を上げてかわしたり、足でブロックしたりとただボーっとしている訳では
無いのでしっかりその辺りの対策をしているのだが、段々ここでロシェルの顔に焦りの表情が見えて来た。
(か、硬い……!!)
何時もの通りムエタイの試合で繰り出すローキックをしている筈なのだが、コラードは予想以上に硬い肉体を
持っている様でダメージを受けている様子はこれも余り見られない。
「くっ……!!」
負けじとバシバシとローキック、それから脇腹目掛けてミドルキック、そして側頭部目掛けてのハイキック等を
繰り出して行くものの、コラードのブロックと耐久力をここから崩して行くのは厳しそうだと言う焦燥感をロシェルは覚える。
(ちきしょう! 体格もウェイトも向こうの方が上かよ!!)
そんなロシェルの様子を見て、ついにコラードが動く。
「大体分かった。ではこちらからも行かせて貰うぞ!!」
ロシェルの右ミドルキックを左腕で上手くキャッチしつつそう宣言したコラードは、足を挟んでいる左腕をそのまま
前へとずらして行ったかと思えば自分の右足でロシェルのもう一方の足を払う。
「くっ……!」
同時に掴んでいる足を放されて後ろへと倒れこむロシェルだが、素早く転がりつつ起き上がる。
「ぐぇ!?」
その起き上がった瞬間に、素早く繰り出されたコラードの斧の先端がロシェルの腹をど突いて後ろへと盛大に
吹っ飛ばされて、ゴロゴロとロシェルは転がった。
(い……っ!!)
みぞおちにクリーンヒットして息も絶え絶えなロシェルだが、まだ試合続行と判断されたのかクリスピンからのストップはかからない。
コラードはコラードで手合わせだと分かっているからか、それ以上の追撃はしないで斧を構え直してロシェルが
立ち上がって来るのを明らかに待っている。
「くぅ……!!」
曲がりなりにも、自分だって14歳からムエタイを習って来て今年でもう15年目になるのだ。
立ち技最強の格闘技として名高いムエタイ使いの自分が、そう簡単に易々と負ける訳には行かない。
そのプライドがロシェルを再び立ち上がらせる。
「根性はある様だな」
その様子を見てコラードがポツリとそう呟き、再び斧を構え直した。
今日の朝から着ている白い軍服はさっき地面を転がったせいで薄汚れているが、ロシェルはそんな事を気にする暇は無い。
だけど手合わせは手合わせだと言ってもさっきの地面を転がった衝撃は身体的にも、そして精神的にもロシェルを蝕んでいた。
(か、かなり強い……!)
体格差や体重差もそうなのだが、流石はベテラン冒険者なだけはあってかきっちりと斧の特性を生かした戦い方を
して来るコラードに対して、かなり精神的に追い詰められて行くロシェル。
その精神的ショックは次第にリズムの乱れを呼び、攻撃や防御のキレやスピードに影響が出るばかりで無く更にネガティブな
感情までもロシェルに与える事になってしまう。
(くそっ……限界か!?)
このままじゃ勝てないのか。ここで負けてしまうのか。
目の前の強大な手合わせの相手を見据え、ロシェルは不安を打ち消すかの様に握った拳にギリッと力をこめた。
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