A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第25話
報告書も無事に届けて城の自室へと向かったロシェルは、明日からの聞き込み調査で何を聞けば
良いのだろうかと言う事を騎士団の人間に頼んで持って来て貰った紙に羽ペンで纏めていた。
この先の自分の事に関わって来る事である為、しっかりと今の内に考えを纏めておいた方が良いだろうと考えての事だった。
(町中から騎士団に見張られているとなれば、おおっぴらに聞き込みは出来ねーけど……やっぱりこうやって
地道に活動するしか無いからな)
配達での荷物の受け渡しや肉体作業の合間に何とかして情報を少しでも聞き出せればそれで良いのだろうが、
果たして上手い事行くのだろうかとロシェルは不安になってしまう。
だけど、そんなネガティブな思考をブンブンと首を横に振って打ち消そうとする。
(……いやいやいや、何弱気になってんだ俺は……らしくもねぇ。やる前からこんな気持ちじゃあ、上手く行く筈の
物事だって失敗する確率が高くなるだろーがよ。ネガティブな感情はそれだけで判断力や行動力の低下を招いてしまう
ものだからな。勿論俺だって人間だから完全にそう言う考え方をしないかって言われればそんな訳はねーけど、感情の
コントロールは出来るさ……)
くれぐれも何もかも根掘り葉掘り聞き過ぎて突っ走り過ぎない様にしなきゃな、とは以前に個人的な付き合いがある
ガラダイン王国陸軍大佐からの教えだった。
自分の性格を他人から見てみると意外と気がつかない部分があったりするので、そう言う自分が気がついていなかった
性格に対してロシェルにアドバイスをくれたのがその大佐なのだ。
(大佐……今何をしてんだろ)
突然自分があの演習の場所から姿を消したと知ったら、大佐は一体どんな反応をするのだろうか?
そんな考えがロシェルの頭の中をグルグルと駆け巡るものの、とにもかくにも大佐にまた出会うならばこの異世界から地球に
しっかりと帰還するのがまずは何をおいても第一条件だと気合いを入れる。
(何時帰れるのかは分かんねーが、絶対に俺は元の自分の世界……地球に帰ってやるんだよ!!)
そんな気合いの入った決意を胸に、次の日のロシェルは依頼の合間合間にちょこちょこと情報を集めていた。
しかし、その成果はどうも芳しくない。
確かに事件そのものは大きなものだったし、事件現場もペルドロッグに住んでいる人間であれば知らない者は居ない程の
有名な場所だった。 それでもその館の不気味な雰囲気や柄の悪い連中が出入りしているらしいとの情報も多いだけあってか、
日中でも近づくのはそれこそその柄の悪い連中を始めとして、ロシェルの様な荷物の受け渡しに来る人間だったり、孤児院の
運営をしているせいか子供達の姿を目撃する程度だったと言う。
その情報を聞いて、ロシェルは違和感を覚えていた。
(孤児院やってて、それで子供連中を見掛けるのは別に不思議でも何でもねーけど……柄の悪い連中が出入りしているって
なれば色々考えられるよなぁ?)
例えば、その孤児院に借金があってそう言う連中に取り立てをさせているとか。
例えば、孤児院経営の裏側で何かの危ないビジネスに手を染めている人間が居るとか。
例えば、柄の悪い連中が子供達の世話をしていたとか。
(そう考えると、良い方向のパターンも考えられるし逆に悪い方向のパターンも考えられるぜ。そういや、一方的な決め付けは
視野を狭めるから常に色々なパターンを想定する事が成功への道になるんだ、って大佐に教えられたな……)
その大佐のレクチャーを思い出して、この事件に関してはまだまだ調べられる余地がありそうだと心の中で確信する。
(気になるぜ。もっと聞き込みが必要だな)
このまま調査を続けて行く事で、自分への疑いが晴れる時がきっとやって来るだろうと信じる。
なのでロシェルは引き続き、この事件に関しての調査を続ける事にする……筈だったのだが、その後にまた依頼の合間に
聞き込みを続けていた時に思わぬ横槍を入れられてしまう事になる。
「貴様、何やらコソコソと色々嗅ぎ回っているらしいな?」
夕暮れ時、城へ戻ろうとして大通りを歩いていたロシェルはさっきから何者かに尾行されている気配を背後に感じ取っていた。
(何人だ? 3、4……7人位か?)
気配を隠すのは余り上手く無さそうな奴等だと思いつつも、このまま尾行され続ければ城に戻る自分の姿がばれてしまう。
それはまずいと思ったロシェルは一旦大通りから路地裏に逸れて、尾行して来る人間達を振り切ってから城に戻るつもりだった。
だけど、そんなロシェルの目の前に1人の白い布で顔を隠した背の高い男が現れてそう声をかけて来た事から、
ストリートファイトの幕が上がる事になってしまった。
「あのよぉ、コソコソしてるって言ってもそっちみたいに気配を隠すのが下手な訳でもねーよ。それに俺の事ならもうこの都じゃ有名だし、
何よりも何もやっていない、容疑者の目星を付けられた人間が無実の為に奔走するのは間違いじゃないと思うけどな、俺は……さ!!」
最後のセリフを言い切ると同時に、サッと男の横をすり抜けてロシェルは路地裏の奥に向かって駆け出した。
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