A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第14話


(後で武器屋に連れて行って貰うとするか。そして、俺も武器を使って戦うのが最も安全だろうからな)

流石に立ち技格闘技最強と呼ばれる事の多いムエタイでも、武器を持っている相手に武器無しの

素手オンリーで戦うのは幾ら何でもきつい。

ロシェル自身も近接の格闘術であれば余程の事が無い限りはそうそう負けないと自負してはいるものの、

武器を持っている相手にはリーチの長さで最初から負けているのでなかなか懐に飛び込んで行けないだろうと

言う結論に達した。

(ナイフとかだったらまた話は変わって来るんだろうけど、例えばコラードさんのあの斧が相手だと思うと……

ああ、無理だな。そもそも、この世界には地球には無い様な武器が存在している可能性だって充分に考えられる

訳だし、それに……魔術だったか。その魔術が戦いの中に活かされている確率もほぼ100パーセントだろうな)


どんな魔術がこの世界で使われていて、戦場で使われる魔術は一体どれ程の攻撃範囲と威力を持っているのか?

それを考え始めると、段々とロシェルの心の中にネガティブな感情が生まれて来てしまう。

もしかすると、自分はこの世界で上手く生きて行く事が出来ないのでは無いか?

幾らムエタイや軍隊格闘術を極めても、地球では有り得ない様な攻撃方法があったらそれに対応しきれずに

殺されてしまうのでは無いのか?

そんなネガティブな感情がロシェルの頭の中を埋め尽くしそうになった所で、一旦落ち着く為に深呼吸をしてロシェルは

気持ちを落ち着かせる。

(待て待て……落ち着け俺。一旦戦いの事は考えるのを止めにした方が良いんじゃねーか? ってか、そもそもこの世界で

俺が必ずしも戦わなければならないって言うのが決まった訳じゃねーだろうし、まずは当面の生活費を稼ぐ為に簡単な

依頼をこなす事が今の俺のやる事だろーよ……)


そう、別に何も戦わずとも生きて行く術は幾らでもある筈だ。

自分が戦っても対抗出来ない相手なら、対抗出来る相手に任せれば良い。

金を稼いでおけば、コラードの様な傭兵を雇ったり馬車等の移動手段を使ったりしてエスヴァリーク帝国に向かう事だって

出来る筈だ、と考えるロシェル。

(戦う事ばかり考える事は無いんだ。戦いが前提にあるって考えてしまうから色々とネガティブな気持ちになっちまうんだ。

別に戦わなくてもコラードさんからの依頼をこなして金を稼ぎ、そして確実に……出来れば安全にエスヴァリーク帝国まで行く。

それで良いじゃねーか)


日々のトレーニングは重要だが、そのトレーニングばかりしていても何も地球に関しての情報は入って来ないだろう。

(何故か知らないけれど、とにかく文字が読めるだけまだ救いがあったしな)

だったら時間が出来た時に図書館にでも行って、地球へ帰る為の手がかりが無いかどうか探してみるかと思うロシェルだったが、

ふとここで気がついた事がある。

(あれ、そう言えばコラードさん遅いな?)

すでに30分以上は経っている筈なのに、まだコラードが仕事を求めて出て行ったきり戻って来る気配が無い。

ギルドが混雑しているのか、それとも何かのトラブルにでも巻き込まれたのか?

でも自分がここを動く訳にも行かないので、ロシェルはもう少しだけ待ってみる事に決める。


だが。

「すまない、遅くなった」

そう決めたロシェルが再びトレーニングをしようとした時、家の入り口のドアが開いてコラードが帰って来た。

「あ、お帰りなさい。時間掛かりましたね?」

「ああ……ギルドが混んでてなー。新人の冒険者の登録が重なってて、結構待たされたよ」

そんな事をぼやくコラードの手には、幾つかの紙の束が握られていた。

「ほら、君にも出来そうな依頼を幾つか持ってきたから、この中から選んでくれ」

「ありがとうございます!!」

元気に礼を言ったロシェルはコラードからその紙の束を受け取り、自分の出来る依頼をピックアップする為に目を通し始めた。

「あ、これなんか良さそうですね」

「小包の配達か。良いんじゃないか? この都の地理を覚えるのにも良いだろう」


その地理、と言う言葉でロシェルは先程自分が考えた幾つかの頼みをコラードに申し込む。

「あ、そうそう。時間があったら俺、図書館とか行ってみたいですね。それから武器屋も」

「図書館……? ああ、もしかして君の世界に戻る為の手がかりを探すとかそう言うあれか?」

「そうですそうです! この都に図書館ってありますよね?」

その問いかけにコラードは頷いた。

「ああ、あるよ。依頼の合間にでも行ってみるが良い。ちなみに入館料とかはかからないから心配するな。ただし、

君の求めている情報があるかどうかは分からないぞ?」

「それは分かってます。でも、もしかしたらって事もあるかもしれませんから俺はそれに賭けてみるだけですよ」

元々は先程までのネガティブな感情が頭の中を支配する事は日常では余り無く、どちらかと言えばポジティブな性格の

ロシェルの屈託の無い笑顔での返事にコラードも思わず口元を緩めて薄い笑みを浮かべてしまうのであった。


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