A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第13話
その日は結局1日中雨が止む事は無く、コラードの家で夕飯をご馳走になって翌朝も朝食をご馳走になる。
「今日は良い天気ですね」
「そーだな。この世界でのスタートを切るには最高の天気と言って良いだろう」
今日が良いスタートになります様に、とロシェルは呟いてから今日の予定をコラードと一緒に立てる。
「それでは、まず私がこのペルドロッグのギルドで幾つかの依頼を請け負って来る。その中から君は自分に
出来そうな依頼をこなすんだ」
が、ここで新たな不安がコラードの頭をよぎった。
「そう言えば、君はこの世界の文字が読めるのか?」
「……え?」
言われてみれば確かにそうだ。自分が生まれ育って来た地球の文字と、エンヴィルーク・アンフェレイアの文字が違う
可能性だって充分に考えられる。
そもそも、こうして自分が異世界人のコラードと普通に会話出来ている事すら不思議なのに……とロシェルは今更ながら
色々と都合の良いこの展開に気がついた。
「えーと……それはまだ分からないですね」
「ふむ……では、これは読めるか?」
世界地図の紙の裏側に、サラサラと羽根ペンを滑らせてコラードは文字を生み出して行く。
それを見たロシェルの表情が明らかに驚きのものに変わった。
「こ、これは……」
「読めるのか?」
「私はコラードだ……」
「おお、読めるのか」
良く分からないが、どうやら文字は読めるらしい。
描いてある文字の形は自分が普段使っているローマ字の羅列とは程遠い物であるが、その意味や読み方がスッと頭の中に
入って来るイメージだった。
「文字が読めるのであれば一安心か。君には魔力や魔術が関係無い荷物の配達等の簡単な仕事を任せようと
思っていたのだが、これなら問題無さそうだ」
「ですね」
後はコラードから紹介して貰った仕事を上手くこなす事が出来るかどうか、それが問題だ。
「良し、それではこの家で少し待っていてくれないか」
「え? 出かけるんですか?」
「ああ。ギルドで仕事を探してくるから少し待っていてくれ」
「あ……はい……大体どれ位かかりそうです?」
「んー、30分位か。ここからギルドはそう遠く無い。都には何箇所かにギルドの受付が存在しているから、仕事を紹介して
貰ってもその位で戻って来られると思う」
コラードはそう言い残して家を出て行ってしまった。
(俺1人か……どうしよう?)
まさか家の中を物色して回る訳にもいかない。かと言って、他に特別やる事も無い様な状況だ。
「しょうがねー、スペースが少しある事だし……トレーニングでもするか!」
口にそう出して自分自身を奮い立たせる。
考えてみれば、この後に依頼をこなす為に身体を動かさなければいけないのでそのウォーミングアップを兼ねて……と
ロシェルはムエタイのトレーニングを始める事にする。
トレーニング、と言ってもこの家の中のスペースには限りがあるし、コラードも30分位で帰って来ると言っていたので本格的な
物は勿論出来そうに無い。 だからロシェルは基本的なトレーニングをする。
ムエタイの基本であるパンチやキックは元より、肘と膝を使った攻撃やブロックのシミュレーションもするし、コラードに見せた時とは
また別のコンビネーションもトレーニングしておく。
本来なら今の白い軍服姿では無く、動きやすいTシャツやハーフパンツ等で動くのがトレーニングの常識なのだが、今の
ロシェルにはこの服しか無いので仕方が無かった。 余り汗をかくと今度は制服が臭くなってしまうので、赤い腕章が左腕に通っている
上着と白い手袋は外して、スピーディーだけどパワーは最小限に抑えたトレーニングでしっかりと基本を忘れない為に身体を動かして行く。
勿論、攻撃する側のシミュレーションだけでは無くて攻撃「される」側、つまり今の攻撃主体のコンビネーションの中に組み込まれている
ブロックやディフェンスのテクニックに主体をおいて、相手からの攻撃をさばいたり避けたりする事も頭の中で自分なりに考えておく。
そしてブロックしてから反撃に出るのは勿論の事、ブロック出来なかった場合にそこからどうやって体勢を立て直して反撃に移るかと
言う事も重要だとロシェルは考える。
(もし俺がこの世界でムエタイを使って戦うとすれば……何らかの試合形式ならまだしも、何処かでストリートファイトになってしまった
場合にはそれこそルール無用のデスマッチになるだろうな。って事はだ。今のスポーツとしてのムエタイでは無くて、古代のタイで使われていた
古式ムエタイのテクニックを重視したトレーニングが重要だろうな)
この世界の人間がどうやって戦うのかはまだ実際に実戦を見ていないので分からない。少なくともコラードに見せて貰った斧の使い方から
してみれば、このエンヴィルーク・アンフェレイアでは武器を使って戦うのが当たり前な気がしないでも無い。
そう考えたロシェルは、コラードへの頼み事を頭の中で思い付いた。
そのコラードへの頼み事と言うのは、自分がこの先この異世界エンヴィルーク・アンフェレイアで生きて行く為に必要な事の1つであったのだ。
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