A Solitary Battle Another World Fight Stories 2nd stage第11話


そんなコラードの見た目は豪快な、しかしやっている事はかなり正確な斧裁きに驚愕したロシェルは、いよいよ

コラードとの手合わせを迎えようとしていた。

「それじゃあお互いにテクニックも見せ合いました事ですし、手合わせを始めますか?」

「そうだな」

2人は頷き合い、家の前のスペースで少し距離を取ってからそれぞれの構えを取る。

……が、そんな2人の元に思わぬ乱入者がやって来てしまった。

「……ん!?」

2人の頭や腕に、ポツリと当たり始める水滴。

雨が降って来たのだ。非常にタイミングの悪い事に、この2人の手合わせの開始に合わせて降り出してくれたと言う事である。

「……うーわっ!?」

1粒1粒が大粒のその雨は、あっと言う間に叩き付ける様な豪雨となった。

「手合わせは中止だ。中に入ろう」

「はい!」

こんな大粒の雨が降って来てしまう様な天気であれば当然手合わせ等出来はしない。

こればっかりは仕方が無いとやむを得ず、2人は家の中へと逆戻りするしか無くなってしまったのであった。


「やれやれ、酷い目にあったぜ。せっかくこれからって時に……」

コラードから差し出されたタオルでガシガシと頭を拭きながら、ロシェルが悪態をついた。

そんなロシェルの様子を見て、コラードが口を開いた。

「仕方が無い。これがこの国独特の天気だとでも思ってくれ。こうしていきなり大粒の雨が降って来る事はこのルリスウェン公国の

民の間では当たり前だからな。おちおち外で洗濯物を干す事も出来やしないんだ」

その代わり、水不足の心配は全くと言って良い程しなくて良いんだがな……とコラードが自分のそのセリフの最後に付け加える。

それを聞いて、ロシェルの頭に1つの疑問が浮かんだ。

「そう言えば、この世界にも海軍とかってあったりするんですか?」

「海軍? ああ、あるよ。騎士団の1つとして海上騎士団って言う部隊が何処の国でも組織されている」

「海上騎士団ですか……」

「それがどうかしたのか?」


訝しげにそう聞くコラードに、ロシェルは自分の思っている事を言ってみる。

「俺は海軍の軍人ですから、そうした海軍の組織がこの世界にもあるのであればこの経験がこの世界で働くのに

役立つのでは無いかと思いまして」

しかし、それを聞いてコラードは苦々しい表情をその顔に浮かべた。

「……すまんが、それは無理だと思うぞ」

「えっ?」

どうしてです? と聞くロシェルにコラードはこの世界独特の理由を織り混ぜて現実を1人の若者に突き付ける。

「まず、最大の理由としては君が異世界からやって来た存在であるからだ。これが足かせになるだろう。この世界では

魔術が当たり前の様に使われており、人間の体内に魔力があるのが当たり前だ。当然、騎士団の人間として活動するので

あれば怪我や病気にかかるリスクは店で何か物を売ったりして暮らしている町の人間よりも遥かに大きい。その時に治癒魔術を

体内に送り込んで体内の魔力とその治癒魔術の魔力を反応させなければいけない。だが、君から魔力が感じられないとなれば

その恩恵は受けられないだろうから、いちいち物理的に治療して……とは出来ないだろう。遥か昔からだが、この世界の人間は

怪我をした時や病気にかかった時にはなるべく治癒魔術を使う様に教育されているからな」


聞いていて頭が痛くなって来そうな位の、そのコラードの長々としたその説明をロシェルは自分なりに解釈する。

「ええと……つまりその、怪我や病気には魔術を使うけど、俺は魔力が無いからその時点で役立たずだと?」

「そうなるな」

キッパリと言い切ったコラードは、更に残酷な事実をロシェルにぶつけて行く。

「それと、この世界にはギルドと言う団体がある。町での依頼をこなすにはギルドに登録する事が必要になるのだが、君の場合は

それも無理かもしれないな」

「へ?」

「ギルドへの登録に際して、魔力の大きさを魔道具……ああ、魔術を使用した道具の事だ。その魔道具で魔力の大きさを測定

するのだが、君の場合は魔力が無いって言う事になるだろう? そうした人間は過去に例を見ない存在だからな、この国では。

となれば、君をギルドで登録してくれるかどうかが問題だ」


そのコラードの事実説明にロシェルは納得しかけたが、まだ希望はある筈だと信じてこう聞いてみる。

「あー……で、でも俺にも出来る仕事とかありません? ほら例えば荷物を運んだりとか、何かを作るのを手伝ったりとか」

「まぁ、あるにはあるけどやはり登録が出来なければな……。最悪の場合は大公の御前に突き出される事になるかも知れないが、

その覚悟があるのならって所か」

コラードは依然渋い表情のまま。ロシェルも釣られて不安げな表情になる。

「ちなみに……大公の御前に連れて行かれたら俺、どうなってしまうんですかね?」

「色々想像はつくけど、まずは異世界人と言う事で徹底的に調べられるだろうな。その内に他の異世界人が現れた国から呼び出しの

要請がかかるだろう。魔力の無い人間に騎士団長を倒されている訳だし。そうなるとますます厄介で面倒な事態になるのは避けられないな」

何処か哀れむ様な表情で、自分の予想をロシェルにぶつけるコラードだった。


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