A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第7話


「貴様等、全員その場で動くな!!」

「げっ、おいやバイ、騎士団の連中だ!!」

にわかに地下闘技場が騒がしくなる。

何だ何だとリオスが思う暇も無く、チャレンジャー達や運営側の人間達がバタバタと慌ただしく

出口に向かって走り出す。 まさかこれは……とリオスは先程のホルガーとの会話を思い出しながら

自分も出口へと駆け出した。

(確かあのホルガーとか言う男、ここは違法な闘技場だと……!!)

そう、騎士団の摘発だ。

1度は心の中でこんな違法な闘技大会に参加などするものかと思ったリオスだったが、結局背に腹を

変える事は出来ずに参加してしまった。となれば捕まってしまうと圧倒的にまずい事になってしまうのは目に見えている。

しかもリオスは闘技に参加しただけで無く、相手のチャレンジャーを倒してしまった上に賞金の分け前まで

ゲットしてしまっているので更にまずい状況になる事は容易に想像がつく。

今は全力で逃げるのが得策だろうと脳が判断し、出口から階段を上がって他のチャレンジャー達と一緒に町中を

騎士団員達から逃げ回る破目になった。


「ちっ……!」

思わず舌打ちを漏らしながら、なるべく人目につかない場所へと逃げ込みたいリオス。

しかし返してもらったネクタイに黒いコートがその動きを若干制限する。しかもこの町の事はさっぱり分からないので

最初にあの路地裏であの3人組から逃げ切れた事だって奇跡に近い。

でも良く考えてみれば、今の時間帯ではそれを逆手に取る事が出来るのでは無いか……とリオスは考えて再び路地裏へと逃げ込んだ。

リオスは手近な路地に逃げ込んでそこにある大きなゴミ箱に飛び込む。

この際、服が臭くなるとかそんな野暮な事は言ってられない。捕まる方が圧倒的に大きな問題だ。

それにこの黒いコートであれば闇に紛れて隠れる事が出来るので、ゴミ箱のフタの隙間から自分の長髪がはみ出さない様に

細心の注意を払いながら隠れた。

(行ったか……?)

外からはまだバタバタと慌ただしい足音が聞こえる。結構な人数があの地下闘技場に居たから騎士団も大勢の人員を導入して

来たのだろうと言う事は想像に難く無かった。

足音が遠ざかって行き、それでもなお周囲に人の気配が無くなるまでリオスはゴミ箱の中に隠れる。

冷静な性格であるが故に用心深い一面を持つリオスは、こう言うシーンでも抜かりは無い。


やがて、ゴミ箱の外に人の気配や人影が無くなった事を十分に確認して、リオスはやっと外に出る事が出来た。

偉い目に遭った、とゴミにまみれた自分の軍服の汚れをパンパンと手で払い落とし、その後も路地裏から脱出しても最後まで

絶対に気を抜かずに宿へ向かった。あの地下闘技場での自分の試合が終わって、ホルガーと別れた後に宿の場所をあらかじめ

聞いておいたのであった。

それでもこの町の地理には当然リオスは詳しく無い為、1度闘技場の近くまで戻って位置関係を思い出し、それでも迷いながら

ようやく宿屋へと辿り着いたのはすっかり陽が落ちた夜の事だった。

カウンターで宿代を払い、割り当てられた部屋の簡素なベッドにコートを脱いでネクタイを外し、ようやく一息つく事が出来た。

「疲れた……」

思わずリオスの口からそんな呟きが漏れる。

いきなり変な世界に来てしまっただけでは無く、このまま地球に戻れるのかどうかの保証よりも先に、金を稼ぐ為の手段も

不安定なこの状況下ではリオスの精神的負担もマックスに近かった。

(そもそも自分はこの先、生きて地球に帰る事が出来るのだろうか? それよりも、俺はこれからどうすれば良いのだ?)


考えてみれば、リオスはこの世界でどうするべきなのかのプランが全く無い。

今回の闘技場でのバトルで金は幾らか手に入れる事は出来たが、だからと言ってその金も無限にある訳でも無い。

まだこの世界にやって来てから1日目ではあるが、いずれは絶対何処かでぶち当たってしまう問題なのだ。

(考えるよりも先に……ああもう駄目だ……)

宿が確保出来た安心感からか、こんな訳の分からないエンヴィルーク・アンフェレイアと言う異世界のトリップしてしまった精神的な

疲れがたっぷりリオスにはある。 そして路地裏で戦って逃げて町中を情報収集で歩き回って、闘技場で戦って騎士団に追い回されて

また町中を逃げて、宿屋に戻る為に歩き回った肉体的な疲れもその精神的な疲れと一緒に一気に襲って来て、その疲れは

睡魔となってリオスの意識をすぐにブラックアウトさせて行った。


目が覚めたのは夜中だ。

合同演習の疲れもプラスされていた為に朝までぐっすり眠る……とはいかなかった様で、脳が興奮状態にある為かリオスの意識は

目覚めてから覚醒するまでそう時間は掛からなかった。

これも異世界に来てしまった事の興奮が醒めていないと言う事なのだろうかと思いつつも、その時リオスの腹の虫が騒ぎ出した。

(ああ、そう言えば腹も減ったな……)

リオスはベッドから起き上がり、ネクタイを若干きつめに締めてコートを羽織る。この様にネクタイをきつめに締めてしまうのはリオスの癖の1つだ。

軍人たるもの、身だしなみには気を配って厳しくあれとそうリオスは軍でしつけられて来たせいなのか、もう身体にこの動きが染み付いてしまっているのだった。


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