A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第61話


「何か、ここに来てやたら駆け足ですね」

町の酒場の長いテーブルの一角でそう呟くロシェルに対して、彼と同じガラダイン王国軍所属の

アイベルクと彼をここまで送って来たクリスピンが口を開く。

「全くだな。まさかここにロシェルが居るとは思ってもいなかったが、それ以上に違う世界に

来てしまった事のショックの方が私は大きい」

未だに信じられないと言う口調でアイベルクがそう言うのだが、その隣に座っている

グレリスからあっけらかんとしたトーンの声が投げ掛けられた。

「ここは俺達の世界とは違うんだ。俺達の世界じゃ通用しねー様な事があるのは当たり前の話なんだろうよ」


グイッと景気付けに酒を煽るグレリスだが、そんなグレリスの斜め向かいに座っているウォルシャンが

そのセリフを耳にしてエヴェデスの方を向いた。

「俺は俺で、まさかナチスの格好をした人間に出会うなんて思わなかったけど」

エスヴァリークの城で出会った時にグレリスが真っ先に突っ込んだ事を、今度は同じヨーロッパ……しかも

隣国であるウォルシャンにそう言われて、エヴェデスは戸惑いとムッとした感情が入り混じった表情で振り向く。

「だからこれは変装用だ。エスヴァリーク側に逃げた時の俺の格好はこの袋に入っている連邦軍の制服だからな。

今日は丁度この格好してたから、こうして突然国外に向かうのにも余り心配はしていないが……

でもそう言われてみれば、俺の爺ちゃんがナチスの軍人だった事も確かにショックだぜ」

実際はその事よりもこの世界に突然やって来て、魔力を持っていない人間だと言う事で散々

追いかけ回された事の方が強く印象に残っているのだが……。


エスヴァリーク帝国に入ってあの城に向かう時も、もしかしたらまたカシュラーゼの時みたいに

なるんじゃないかと思って何時でも逃げ出せる様にしていた。

結果としてはこうして同じ様な境遇で、この異世界にやって来た人間達に出会えたので

不安材料はその時に取り除かれた。

ヨーロッパの人間からすると、自国ドイツも含めてナチスドイツに対して良い感情を持っている人間の方が

少ないのが事実だとエヴェデスも分かっている。

だからこそエスヴァリーク帝国ではなるべく連邦軍の制服で居る事にしていたのだが、何日も取り替えないと

臭くなるので城で用意してくれた簡素な服装やこのナチス親衛隊の制服に着替えて過ごしていたのである。

エスヴァリークは大国故にカシュラーゼも迂闊に手出しは出来ないとセバクターから聞いていたのだが、

散々追い掛け回されたエヴェデスは1ヶ月の間で数度、夢の中でまで追い掛け回されて

飛び起きた事もあった程だった。


そんなエヴェデスの斜め向かいに座っているアルジェントは、自分達のヴィサドール帝国軍が

1番人数が多い事に不信感を持っていた。

「俺達地球人は全部で11人だが、ヴィサドールが1番多くねえか?」

「……確かに」

リオスの副官であるアイヴォスも同じ感情を抱いている。

11人中、実に4人がヴィサドール帝国軍。3分の1以上を占めている割合になる。

次に多いのがバウンティハンターの3人で、それからガラダインの2人、最後にドイツ軍1人と

ロシア軍1人で合計11人の計算だ。

「演習に参加しているのが、私達ヴィサドールが1番多いからって言う理由なんですかね?」

レナードの言う通り、今回の演習に参加している4ヶ国の中ではヴィサドール帝国軍が1番参加人数が多い。

だからこの世界に来てしまったメンバーが多いのも、単純に考えてそんな理由だからとしか思い浮かばなかった。


そして話し合いを終えて、援軍の到着までじっくりと身体を休める事にしたメンバー15人。

しかし、物事はそうそう都合良くは行ってくれないらしい。

酒場から宿屋に移動して援軍を待ちつつ、来るかも知れない戦いに備えてじっくりと休息を取ろうとしていた時だった。

町には異常事態が起こった時にそれを知らせる警鐘が何ヶ所も存在しているのだが、真夜中に

突然其れ等がカンカンカンカンとほぼ同時に鳴り始めたのである。

15人の中で最も眠りが浅いグレリスがそれに気が付いたのを切っ掛けに、他の地球人達や

この世界の人間達も目を覚まして行く。


「……んだょ……んな朝っぱらからよぉ〜……」

変な起こされ方をしてイライラしつつ、ようやく夜が明けて来た時間帯なのを窓から見て確認したグレリスは、

その時間帯よりももっと重大な事にすぐに気が付いてしまった。

「……あ?」

あちらこちらで空がオレンジ色に薄く輝いている。

いや、それだけならまだしも明らかに炎が渦を巻いている所が何ヶ所も見受けられる。

そしてそれと一緒に聞こえて来るのは人々の悲鳴と怒声とバタバタと走り回る足音。

何かのイベントなんかじゃ無い。これは明らかな異常事態だ。

「……何だ、これは……?」

異常事態だと言う事は分かったものの、まだ寝起きで頭が覚醒していないグレリス。

しかしそのグレリスの横で同じく窓の外を見つめ始めたセバクターとアイヴォスが、持ち前の冷静さで

何が起こっているのかを本能と感覚で察知した。

「敵襲か!?」

「何か様子がおかしい。とにかく様子を探るのが先決だ!」


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