A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第6話


リオスが使っているのはブラジル生まれと言われている、元々は囚人が脱走する為に開発したとされている

格闘術として現代の地球では有名になっているカポエイラだ。「カポエラ」と良く表記される格闘技……と

言うよりはダンスの様なエンターテインメント性が大きい武術であるとされている。

ただし生まれた背景は良く分かっていない。

アフリカで生まれたと言う説もあるのだが、一般的にはブラジルで生まれた説の方が支持されている。

黒人が奴隷として働かされ、奴隷は囚人として牢の中に収容される。その囚人は手かせによって手が

使えなかったので、手かせをつけたままダンスの練習をする振りをしていた結果としてアクロバティックな動きになったと言う。

ただし、このエピソードについてもまた不確定な物である為に想像上のものでは無いかと言う事も良く言われるのだが、

それでも非常に独特な動きをする武術の1つである事に変わりは無い。


カポエイラの基本のステップとされている「ジンガ」は「よちよち歩き」と言う意味を持っているが、この動きが非常に

サンバのリズムや動きと似ている事からも、ダンスのトレーニングに見せかけた武術のトレーニングをしていたと言われる

エピソードに拍車をかけている1つの原因とされる。

一般的なイメージとしては「常に逆立ちをしながら戦う」武術と誤解される事も少なくは無い。 実際の所では当然

その様なスタイルでは無いが、手を使った攻撃はやはり少ないし足技が中心の武術であると言うイメージは正しい。

最近では空手やムエタイ等の他の格闘技との交流も行われているので拳法的なモーションも取り入れられる様に

なって来たカポエイラだが、やはり世間一般的なイメージのアクロバティックに、そして独特のリズムで相手を翻弄させる

その戦い方は他の追随を許さない位の物であると言われる。

そしてリオスがこのエンヴィルーク・アンフェレイアにやって来る前の地球の時間であった2016年11月18日から

丁度2年前の2014年11月には、ユネスコによって何とこのカポエイラが無形文化遺産に登録されたと言うエピソードを持っている。


レフェリーの声が上がっていきなりバトルがスタート。

そんなカポエイラを17歳から習得して、もう今年で18年目になるリオスがまだ状況を呑み込み切れていない内に

短剣使いの男がリオスに向かって来る。

「くっ……!」

そのまま向かって来た男相手にやられる程リオスも野暮では無い。

すぐに短剣を持つ男の右腕を右足でキックして弾き、そのまま一気に男に近付いて膝目掛けて関節技をかける。

低い体勢からでも攻撃範囲が広いのがカポエイラの特徴だ。

男の左膝にかかったリオスの足が素早く動き、男の体勢を崩す。

「うわあ!」

そんな声を上げて男が倒れ込んだ所で、リオスは手を使ってそのまま側転して男の身体目掛けて強烈な膝を

半月の軌跡を描きながら振り下ろす。

「ぐふ……!」

背中から脇腹にかけて男に足をヒットさせたリオスは、止めとばかりに男の背中に乗って後ろから首を全力で締め上げる。

「ぐぐ、ぐえぇ……!!」

男がバンバンと片手で床を叩き始め、レフェリーがこれ以上は試合続行不可能と判断してストップがかかった。

「そこまで! 勝者は21番だ!!」


この闘技場に初めてやって来た存在のリオスは見慣れない顔の為、ギャンブルで言えば結構な大穴的存在だったらしく

黒髪の男は札束の入った袋を抱えて満面の笑顔で受付からリオスの元に戻って来た。

「いやぁ、結構儲けさせて貰ったよ」

はいこれあんたの取り分、と言いながらリオスにそこそこの札束を差し出す男。

しかし、リオスには気になる事があった。

「それはどうも。だが、気になるんだがな」

「何が?」

「どうして俺に声をかけた?」

何でこの男は自分に、とリオスが疑問を感じるのも無理は無かった。


その疑問に、男は当たり前の様に答える。

「見慣れない格好をしているから、俺は気になって声をかけた。そんな理由じゃ駄目かな?」

「……いや、結構」

「それじゃあもうひと勝負するか?」

「勘弁してくれ……」

今戦ったばかりだろとリオスがかぶりを振るが、男はハハハと笑う。

「ジョークだよジョーク。これだけあれば俺は十分さ。それじゃあ俺は行くよ」

そうして満足そうに札束を数えながら出口に向かって歩いて行く男の背中に向かって、リオスは無意識に声をかける。

「最後にもう1つ」

「え?」

「俺はリオスだ。あんたの名前は?」

その問い掛けに、男は一瞬キョトンとしてから答えた。

「俺はホルガー。町の便利屋さ。何かあったら声をかけてよね。それじゃ!」

ホルガーと名乗った男はさわやかに挨拶をしてそのまま出口に歩いていってしまった。

とにもかくにも、これでひとまずは生活には困らなさそうである。

まさかカポエイラや軍隊格闘術の経験がこんな形で役に立つとは、とリオスは思わず1人で苦笑いを漏らした。

しかしこの後、金も手に入った事だしまずは何かを食べてから宿探し……と思っていたリオスに思いもよらない事態が襲い掛かって来る!!


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