A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第59話


「何時から俺が怪しいと分かった?」

黒ずくめの人間はその黒い衣装を顔の布を含めて全て脱ぐ。

そして、リオスの目にはあの滝つぼで離れ離れになってしまった便利屋の見慣れた赤いシャツに

茶色いズボン、黒い皮手袋の格好が久しぶりに目に入った。

「最初に違和感を覚えたのはあの火事のエピソードの時。色々とつじつまが合わない部分が多かった。

壁の向こうに遺体を放置しっ放しって言うのも変だし、ただの便利屋をそんなに簡単に屋敷に

招き入れる筈も無さそうだしな」

「他には?」

「滝つぼのある山に昇る前に、君は何処か必死になって俺を山に登らせたがっていた。

が、俺が落石作業を手伝う事にしたから、水を汲みに行く振りをしてあの魔物をけしかけて、俺が山に

向かう様に仕向けた。そして滝つぼであの集団と戦う時……いや」

そこでリオスは一旦言葉を切る。

「あの集団は君の仲間だ。そして、戦う時に滝つぼに向かって俺を突き落としたのは……君だろう? その君の

仲間が何故あそこに居たか。恐らくこれもあの町の騎士団員と手を組んで罪を見逃してくれたんだろうし、

あのメモも俺が騎士団に渡してしまった事からとっくに処分されているだろうからな」


けど、とそこで否定の接続詞を出してから更にリオスは推理を続ける。

「俺があの滝つぼから落ちた事で安心したか? 俺が死んだと思ったか? 残念だが俺も前線で戦って来た軍人の端くれ。

並の鍛え方はしていないのでな。それとあの魔物……ギローヴァスもあの村の有志達によって討伐された。

そしてとある町であの火災が起きた屋敷に居たと言う人間に会う事が出来て、事件の真相を知った。その屋敷の人間は

君に襲いかかったんじゃ無くて、逆に君か君の仲間が屋敷に潜入して殺した」

その推理に、ホルガーは感心した様に首を縦に振って邪悪な笑みを見せる。

「冷静なあんたらしいや。当たってるよ」

「なら聞かせてもらおうか。何故こんな事をした? そして、今までの権力者達に対する殺人事件を起こして来たのも

全て君達の仕業だな?」


リオスがそう問い掛けると、ホルガーはフーッと息を吐いて話し始める。

「正確には滝つぼの奴等はみんな俺の部下だよ。それからあんたが今しがた倒したこいつ等もな。城の至る所で部下を

暴れさせて衛兵の目を引きつけ、その間にここから逃げ出すつもりだったんだがな。俺が無事なら幾らでも殺人は続けられるしよ」

そう言いながら、ホルガーは腰のハンマーを外して手に取った。

「けど、まさかあんたが生きてるとはね。おかげで俺の計画は破綻寸前だ」

「何の計画だ?」

「俺達アンハイサー盗掘団の目的は、町の有権者達がこぞって色々な遺跡を調査に向かっていた事を知ってね。

それで遺跡荒らしの俺達の宝を横取りされたらまずいんだよ。だから、これ以上調査の手が入らない様に調査を行っている

権力者達を殺した。ああ……それと調査とは関係無い有力者も騎士団の目を逸らす為に殺害した」

「えっ……?」

無関係な人間まで、自分達の利益の為だけに殺害するとは。


思わず絶句するリオスに、ホルガーは更に衝撃的な内容を伝える。

「指輪制作のショップの店員もアリバイ工作の為に、俺があの店に居たって言う事を騎士団に説明した仲間だった。

まぁ、そのショップ店員も今しがたあんたが倒したんだけどな」

そう言って、ホルガーは自分の足元に倒れている人間達の顔の布を次々と剥ぎ取る。

その布の下から現れたのは見慣れた顔ばかりだった。

あの最初の街でリオスを牢に入れた騎士団員4人、今ホルガーが話していたショップ店員、そして茶髪の男に

スキンヘッドの男、赤髪の女に紫髪の女。

「騎士団員の件は、どうやら俺の予想通りの様だな……」

「そーだよ。こいつ等も裏で俺と繋がっていたって訳。まぁまぁ鋭いな?」


しかし、リオスにはまだ引っかかる事があった。

「何故便利屋として町の人間達に役立っていた君が、遺跡荒らしなんかを?」

その問いに、ホルガーは当然と言わんばかりの口調で答える。

「遺跡荒らしをする理由? そりゃー情報収集の為さ。便利屋だと名乗って色々な依頼を受ければ、自然と情報だって沢山

集まって来る。それからこれは俺自身の気持ちなんだけど、最初は本当に俺は便利屋として活動していた。この盗掘団を組織する前にな」

そこで一旦言葉を切って、ホルガーは苦々しい表情でリオスに続ける。

「その便利屋として活動する事に飽きた。命の危険もあるのに、町のみんなからは感謝はされど生活は楽にならない。となれば遺跡で

色々な宝を見つけてそれを闇市場に流して金を得たかった。その為に仲間も沢山集めたんだ。それを邪魔する奴は例え

皇帝だろうと始末する。今回は失敗したが、俺は逃げおおせてまたいずれやってやるさ!!」


そう言い終わると同時にホルガーは片手のハンマーを一旦もう片方の手に渡して、自分の足元に転がっていたナイフをリオスに向かって投げつける。

「くっ!?」

寸での所で身体を捻って回避したリオスだったが、ホルガーはその隙に踵を返して傍のドアの中へ。

当然リオスもこの連続殺人事件の主犯を追いかける。

「くそっ、逃がさん!!」

傍の部屋の窓から外に出たホルガーを追いかけて、リオスは城の裏門へと走って行く。

裏門がある事すら知らなかったが、何故か見張りが1人も居ない。

(不自然だな……?)

だけど今はそんな事を考えている余裕は無いので、ホルガーの背中を視界に捉えつつリオスはコートの裾をひらひらとなびかせて走って行く。


そのままホルガーを追いかけて裏門を抜け、城の裏手に広がる雑木林を少し進んだ所にある広場にやって来た。

「……さぁて、ここなら邪魔は入らねぇぜ。裏門の兵士達も俺の部下が引き付けておいてくれたからな。そして俺の正体を知られた以上、あんたは

もう生かしてはおけない。本当は何時でも殺そうと思えば殺せたんだけど、俺と2人きりの状態であんたを殺してしまったら俺が疑われるからな。

だからあの滝つぼで殺そうとしたんだよ」

そう言ってハンマーをゆっくりと構えるホルガーに、リオスも当然カポエイラのファイティングポーズ……ジンガの構えを取った。

「ついでに言うと、あんたを鉱山跡で殴り倒したのも俺だよ。けどその後に俺の部下が嗅がせた、あの幻覚作用で発狂者が続出している薬が

何故あんたに効かなかったのかは分からない。……が、ここであんたをぶっ殺してしまえばそれで終わりだ!!」


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