A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第60話(最終話)


あの鉱山跡の薬にはそんな効果があったのか、と思っても自分には何も異常が無いから何も言えない。

そして、その薬を嗅がせて来た人間達を束ねていた盗掘団のリーダーが自分に向かって来ているのでリオスも応戦する。

「らぁああああ!!」

雄叫びを上げてホルガーが突っ込んで来るが、そんな事でリオスはびびらない。

スッと横にかわしながら足を振り上げるが、ホルガーも上手くしゃがんでかわす。

ハンマーを2本持っているので、道具がある分リーチが長いのが厄介な所だとリオスは判断しながらホルガーの動きを観察する。

(魔術が使えないと言うのは本当の様だな)

魔術らしき技を出す気配が微塵も感じられない。それに滝つぼの時と違って、今回は純粋に1対1のバトルで邪魔も入らない。


(だけど油断は禁物だ!)

あの時の宿屋で戦い方を聞いていたとは言えども、まだ自分が知らない戦い方をして来る可能性がある為に油断が出来ない。

ハンマーを振るって来るだけで無く、時折りハンマーを振るった勢いで回し蹴りもして来る。

それを冷静に見ながらかわし、リオスは勝つ為のパターンを頭の中で何通りもシミュレートする。

(俺の方がスタミナでは不利。だから短期決着!!)

カポエイラで鍛錬して培った非常にしなやかな身体、それからハンマーでの攻撃が届きにくい低い体勢からの攻撃で決めに行く作戦に出る。

「ふっ、ふっ!!」

息を吐きながらハンマーを振り回して来るホルガーに対して、そのハンマーをかがんで避けつつ地面に手をついて左足で斜め上に回し蹴り。

「ぐう!」

腹にヒットしたリオスの足に一瞬ホルガーは表情をゆがめるが、立ち上がって来たリオスに対して再びハンマーを横薙ぎに振るう。


その横薙ぎに振るわれたハンマーをかがんで回避し、続けてリオスから見て右から振り戻されたハンマーを避けながら

上手くタイミングを合わせて片手側転の要領で右足を振り出すと、その振り出された右足がハンマーを振り抜いた状態のホルガーが

絶対に反応も回避も出来ないスピードで側頭部に襲い掛かる。

「ぐご!!」

恐ろしい勢いのリオスの足が見事にクリーンヒットし、側頭部を押さえてホルガーが苦しむ。

「もう諦めろ。御前の負けだ」

ギブアップする様にリオスは言うが、それでもホルガーは痛みを抑えながら再びリオスに向かって来た。

「これ以上やると……死ぬぞ」

「くっそがああ!! 俺の計画はまだ終わってねぇーっ!!」


ハンマーを必死に振るうが、大振りになるホルガーの攻撃。しかしここからのカウンターは今しがたやったばかりなので相手に

読まれる可能性が高いとリオスは踏み、一気に決着をつける事に決めた。

振るわれるハンマーを右、左と小さくかがんで回避。そして3回目のハンマーを持つホルガーの右手を自分の左手で

ブロックしつつリオスはホルガーの頭を両手で掴む。

「ぐ!?」

人間の頭は重いので、そこをヘッドコントロールでホルガーの身体ごと捻って彼を羽交い絞めにし、問答無用とばかりに

ホルガーの首の骨を捻ってへし折った。

「ぐげっ……!!」

奇妙な声がホルガーの口から漏れたのを最後に、彼の身体はずるずるとリオスの手の中から崩れ落ちて地面に

ゆっくりと横たわって絶命した。

「……バカな奴だ」

そんなホルガーの亡骸を見下ろし、リオスはポツリとそれだけ呟いた。


「それじゃあ、俺はこれで」

帝国騎士団の人間達に後は全てを任せて、リオスはこの帝国とはまた別の国に向かおうと歩き出す。

この帝国でもう少し情報を集めておきたかったのだが、帝国騎士団の協力もあって遺跡に関する情報が載っている

文献を見せて貰ったり帝国の詳しい学者に話を聞く事が出来たので、後は他の国の情報も集めてみると

良いだろう、とこの国の皇帝直々にお言葉を頂いた。

(まさか身体検査をされるとは思っても見なかったが)

情報を提供する代わりに、リオスの身体の事を調べたいと言う事で身体検査をさせられたのであったが、魔力が無い事以外は

どうやらこの世界の人間と変わりが無かった様である。

結局、武器を触ると変な音と光と痛みが出るあの現象については分からずじまいだったのだが。

しかも、それは武器だけに留まらず何と防具でも駄目だった。

(俺は本当に、この身体1つで勝負するしか無いって言う事か)


中世ヨーロッパの世界を舞台にした映画や小説であれば、こうした軍服やスーツと言った動きにくい服装で戦う事は有り得ない。

リオスも軍人だからこそ良く分かっている事で、戦闘訓練の時にはきちんとそう言う服装に着替える。

勿論、こんな世界に来る事は全く想像もしていなかったので結果的に今の服装でこうしてこの世界に居る訳なのだが、この先自分は

しっかりと生きて地球に帰りつく事が出来るのかどうか、と漠然とした不安に襲われていた。

それでも、今の自分はとにかく地球への手がかりを求めて進んで行くしか無い。

(このままこの帝国に居たって事態は進展しないだろう。だったら苦労をしてでもそれしか俺には今出来る事が無いからな)

何時か地球に帰る事を目標にして、リオスは果てしない道を歩き出す。


異世界人の物語は、セカンドステージへと進み出す……。



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