A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第47話
「……あ、あれって!?」
ウォルシャンが空の一角を見上げて指を差すその方向には、バッサバッサと音を立てて
舞い戻って来る灰色のワイバーンとその背中に乗っている狼頭の男が。
「やっと戻って来たのか」
落ち着いた口調ではあるが、その声色の中には安堵の感情も含まれているのが分かる
エイヴィリンのセリフにウォルシャンも同調しながらワイバーンの着陸地点に駆け寄った。
「遅かったな、結構」
「何かあったのか?」
帰りの遅さに対して疑問を呈する2人だが、ガレディの口から思いも寄らない答えを聞く事になる!!
「何かあったなんてもんじゃない!! 居たんだよあいつが……さっきのあの男を俺は見かけたんだ!」
「え?」
「何だって!?」
絶句する2人。
その事に付いては勿論もっと詳しく話を聞きたい所なのだが、ガレディは
「ワイバーンで移動しながら話そう」と提案する。
なのでガレディの提案に従い、ワイバーンに再び乗り込んだ2人は北に進路を取って今度は
ルリスウェンの隣国であるリーフォセリア王国へと向かう。
「あの男はどうやら近距離の転移魔術を使えるらしくてな。……ああ、転移魔術って言うのは
転送陣が無くても一瞬で違う場所にワープが出来る魔術なんだが、その魔術を使って
今度はまた何処かに行きやがった」
「何処かって……それは分からないのか?」
エイヴィリンの疑問に、ガレディはズボンのポケットからゴソゴソとオレンジ色に輝く小石を取り出した。
「……何だこれ?」
それを受け取ってしげしげと眺めるウォルシャンに、ガレディは石の説明を始める。
通報に行った町の中でその男と出会った時、逃がすまいと思って揉み合いになったんだが
その時に奴のポケットからそれを手に入れた。結局その男は俺の一瞬の隙を突いて
逃げ出してしまったんだが、その石なら俺にも見覚えがある。それは今から向かう
北のリーフォセリア王国で採れる鉱物なんだ」
「これが?」
「そうだ。何でそれをそいつが持っていたのかは分からないが、それ位しかヒントが得られなかったからな。
だからリーフォセリアに行けばその男のヒントが掴めるかも知れない」
あの若い男が本当にそのリーフォセリアにこれから向かうのか、と言う事は100パーセント
確定した訳では無いので、それも空振りに終わってしまうかも知れない。
しかし、少しでもあの男に繋がる様なヒントがあるのなら今はそれに縋り付くだけだ。
刑事だって僅かな手掛かりから執念の捜査で犯人を追い詰める事があるし、バウンティハンターである
エイヴィリンとウォルシャンの2人にも元刑事だった人間の知り合いが居たりしてそう言ったエピソードを
聞いた事があるので納得する。
「リーフォセリア王国か……。さっき説明を少しだけ聞いたけど、もう少し詳しく説明してくれないか?」
実際、一気に色々と説明されても記憶に残るのはその中の数パーセント位にしか過ぎない。
人間の記憶と言うものは良い事はすぐに忘れるが悪い事はなかなか覚えてしまって忘れられない。
そして「良い事」でも「どうでも良い事」もすぐに忘れてしまう。
だから村長から聞かされたリーフォセリア王国の説明を、今このワイバーンの上でもう1度ガレディからして貰う。
「世界地図で言えば1番左上に存在しているのがリーフォセリアだ。国の中央に大きな山があるのが特徴でな。
アイクアルには及ばないけどそれでも世界最大級って言われている位の広さの領土を持っているのが
自慢になっている国だ。一言で言えば軍国。軍事力で国力を拡大しているって言っても良い」
「軍国か……」
元軍人のウォルシャンはそのリーフォセリアの実態に親近感を覚える。
そんなウォルシャンを横目で見ながらガレディの説明は続く。
そうだ。後それから何か情報収集をしたいと思ったらリ、ーフォセリアの王都カルヴィスで行えば手に入らない
情報は無い、と言う位の情報網がある。それこそ冒険者ギルドに向かえば期待出来るかも知れないな。
左上の自分の領土だったら海沿いも勿論全て掌握しているので、軍事国家と言われてはいるけど
農業や漁業も盛んなのも見逃せない」
「と言う事はまさに、オールラウンドタイプの王国と言えるな」
軍事力があって、その上農業や漁業も盛んで、そして情報網も発達しているとなればもしかしたら
あの若い男の情報も手に入るかも知れないし遺跡の場所もすぐに分かるかも知れない。
ワクワクドキドキするエイヴィリンだが、ここでガレディは1つの警告を出して来た。
「ああそうだ、東のソルイール帝国とは砂漠で区切られているのが特徴なんだが、ソルイール帝国は
村長が話していた通り異世界人と思われる魔力が無い男によって事件が起こったから、
なるべく砂漠には近づかない方が良いだろうな」
「それは分かってるさ」
リーフォセリアの次は異世界人の話があるソルイール帝国だろうと思っていたのだが、その話からすると
ソルイール帝国に入るのは結構厳しいかも知れない。
とにかくまずはリーフォセリアで情報を集める事を目的にした3人を乗せ、ワイバーンは
翼を動かして北へと空を進むのだった。
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