A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第24話


なかなかそう上手い具合に情報が集まらないのを実感しながらも、

とりあえずその手配書があるのなら見せて貰えないかと頼む2人。

しかしその手配書も回って来て少しの間は保管しておいたらしいのだが、半年を過ぎてからは

「もう見つからないだろう」との事で捨ててしまったそうである。

「魔力を持たない人間への興味がある、と言っていた割には行動が一貫しねーのな」

ボソッとそう呟くウォルシャンに、村長の白ライオンは苦笑いをこぼすしか無かった。

その武術大会に出て来た白い上着の男のエピソードには、まだ少しだけ続きがあるらしい。

「それにその男はトーナメントを優勝しただけで無く、その後の騎士団長との戦いでも

騎士団長を倒してしまったらしいからな」

「えっ?」


また騎士団長の話? と思った2人だが、その後の獣人の話を聞いてみるにはこうだった。

トーナメントを勝ち抜いて優勝した人間には、帝国騎士団長と戦う権利が与えられる。

それは騎士団長が自ら挑戦者と戦って勝利を収める事で、エスヴァリーク帝国騎士団から

洗礼を受けるのと同時にこれから騎士団に入団する者としての心構えや覚悟等を見極められるイベントだ。

そのエキシビジョンマッチとも言えるイベントでは、実際に今まで帝国騎士団長が全て勝利を収めて来ていた。

だから今回も優勝者が負けて騎士団長が勝つ、と言う流れになるだろうと観客の誰もが予想していた。


だが、現実は違った。

騎士団長相手にもその男は1歩も退かず、やはりガンガン攻めるスタイルでむしろ騎士団長を劣勢に

持ち込んでしまう位のバトルを最初から観客達に披露。

騎士団長が使うのはロングソード、一方の優勝者の男は素手と言う明らかなそのリーチの差をものともせず、

騎士団長からなるべく離れない様にして常に自分のペースと間合いを維持する。

最後には明らかに威力のありそうな攻撃で騎士団長がノックアウトされてしまい、騎士団長が武器も

持っていない人間に敗北してしまう……と言う大番狂わせがこの瞬間に起こったのだと言う。

「その威力のある攻撃って言うのがどう言う攻撃なのかが分かれば、大体どんな武術を

使っているのか見当はつくんだがなぁ……」


ただ単に「威力がある素手の攻撃」ならば幾らでも2人は思いつく。

筋肉で固められた肉体を持つボディービルダ−が思いっ切り殴りつけるだけでも、

それはもう「威力がある素手の攻撃」になってしまう。

それ以外の詳細な技の表現が無いので、どう言った攻撃でノックアウトしたのかが分からないなら

そこでその話は終わってしまった。

「それでその白い上着の奴はどうなったんだ?」

「今までの説明だと、武術大会の上位進出者はその帝国騎士団に入る権利が与えられるって

言う事だったから……その男は騎士団とやらに入ったのか?」

それだったら会いに行くのは余り苦労しなさそうだと思う2人だが、獣人は首を横に振る。

「いや、騎士団に入るどころかその後に行われる予定だった表彰式にすら姿を見せる事無く、そのまま姿を忽然と

消してしまったとの話だ。魔力が無い人間だと言うのはその男と対峙した武術大会の参加者や審判も知っていたから、

表彰式の後に事情聴取を受けて貰う筈だったのに……と騎士団長が悔しがっていたそうだ」


要するに、その白い上着の男もソルイール帝国の殺人犯と同じく行方不明らしいのだ。

「帝都からどっち方面に向かったとか、そう言う情報はあるのか?」

「いや、その知り合いは武術大会の翌日にはもう帝都を出てしまっていたからそれも詳しくは知らないらしい。

ただその後にその男の手配書が国中に配布されたって言うから、その男も手配書が回る様な事を

仕出かしたのか……あるいはただ単純にエスヴァリーク帝国がその男の存在に興味を持って

捕まえたいだけなのか、と言う所か」

「じゃあその男も行方不明のままなんだ」

「ああ。こっちの情報についてはこれ位しか知らないぞ」

「そのソルイールから逃げたって言う奴が何処かで変装してエスヴァリークまでやって来て、そして武術大会に

参戦したって可能性もあるが……結局それも憶測にしか過ぎないしなぁ」


いずれにせよ、この世界にその魔力を持たない人間が1人……あるいは2人居る可能性があると言う事だ。

「そう言う理由で魔力を持たない人間は狙われる。御前達の様にこの世界の事を何も知らないまま出て行くのは

非常に危険だろう。特に注意した方が良いのはやはり魔法王国カシュラーゼだ。あそこには近付かない方が良い。

あそこは国民が全員魔術を使いこなせると言っても過言では無いし、王国騎士団も魔術師が権力を持っている者が

多いからな。そこに魔力を持たないで生きている人間が行ったとなれば、カシュラーゼは何としても

御前達を捕まえに来るだろうしな。あの国に長く住んでいる者達にとって魔術を否定されるのは、自分の存在や

生き方を否定されるのと同じ事なんだと思う」

白ライオンが真剣な顔つきでそう言うと、アメリカ人もイギリス人もやはり頷くしか無かった。


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