A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第23話


今すぐにでも地球に帰りたいが、どうやらそうもいかないらしいのが今の現状。

ひとまずはもっとこの世界の事を良く知って、それから世界を回って元の世界に帰る為の情報を集める。

それでも帰れないと分かったら……もう諦めるしか無いだろう。

少しでも地球に帰れる可能性があるのならそこに繋げて行きたい。

そう言った思いをエイヴィリンとウォルシャンが白ライオンを始めとした獣人達にぶつけてみると、

最初にウォルシャンとトラブルを起こしていたあの獣人が「そう言えば……」と何かを

思い出したらしいリアクションをする。

「どうした?」

「そのソルイール帝国の魔力を持たない人間の話なんだけど、俺の旅行好きの知り合いから

それに似た奴の話を聞いた事があるぞ」

「似た奴だって?」


もしかしてその殺人逃亡犯の目撃情報があったのだろうか?

そう思って続きを促す2人だが、男の言い分はその殺人逃亡犯の話とはまた違うものだった。

「あ、いや……似た奴って言うのはその男に似ている格好とか顔つきの奴を見た訳じゃなくて、エスヴァリークって

言う国で行われた武術大会に突然現れたって言う、魔力を持たない人間の話だよ」

「え……?」

その話だと、殺人を犯して逃亡している男とはまた別にもう1人魔力を持たない男が居る事になる。

「ならそっちの話についても教えてくれ、頼む」

アメリカ人がそう頼むと、その獣人は旅行好きの知り合いから聞いた話の記憶を思い出しながら話し始める。

「俺も随分前に聞いた話だからうろ覚えの部分がある。それでも良いなら話すけど」

「何かヒントが得られるんだったら教えてくれ!!」


旅行好きの知り合いから聞いた話、と言う事で自分と親近感を覚えたイギリス人も地球に帰りたいが為に

必死に頼むその姿勢を見て、獣人は苦笑いを漏らしながらその武術大会の男の話をスタート。

「この世界の騎士団の人員や傭兵達は剣や槍を始めとして、武器を使った戦い方が主流だ。素手でも

戦える様に訓練をするんだが、あくまでも素手は武器を失った時の最終手段にしか過ぎない。

しかし、その武術大会に現れた男は武術大会の最初から最後までその素手の姿勢を崩さなかったから

余りにも印象が強かったらしい」

「ああ、だろうな」

武器による戦いが主流なのであれば、素手オンリーで戦う人間の存在はそれこそ異端だろう。

「それは何時の話なんだ?」

「1か月半程前だ。1年に4回武術大会が行われるのがエスヴァリークって言う国でな。季節の変わり目辺りに

行われるからその武術大会がそれぞれの季節への衣替えや食事のメニューの移り変わりの目安にもなる。

秋の武術大会に参加して来たその男はいきなり優勝だ。初参加で全くノーマークだったその男がだぞ?」


やや興奮気味に話す獣人からは、エスヴァリークの武術大会の話が更に出て来る。

武器を使う者ばかりとは言え、完全に素手で戦う人間はその時まで初めての経験だったらしい。

いや、実を言えば前にもそうして素手で戦いを挑んだ人間や獣人は居たのだがその全員が予選敗退、

1番良い所まで行っても1回戦敗退が最高記録だったのだと言う。

だがその男は武器を持った相手にも怯む様子を見せずに、むしろガンガン攻め込むタイプでまず予選を突破。

そして決勝トーナメントに入ってからもそのスタイルは変えずに次々と対戦相手を撃破して行く戦い方で

一気にトーナメントの頂上まで駆け上がってしまったのだと言う。

「武器を持った相手に、素手で真正面から挑むのはかなり厳しくないか?」

「ああ、普通はこちらも武器を持つか背後から一気に奇襲を掛けるか位だな。その男の戦い方は

その知り合いは覚えているか?」

戦場に近い職業に身を置いていた2人としては自然とそっちの話題にも興味が移る。


だが、獣人の男は首を横に振った。

「いや、その知り合いは武術大会をちょうど開かれていたから見たと言うだけで戦いそのものが好きって

訳じゃないらしい。だから戦い方までに関しては素手で戦っていた、と言う事位しか覚えていないんだそうだ」

「そう、か……それじゃ男の容姿については?」

1か月半も前の事なのでそれもおぼろげではあるらしいが、白い上着に黒だったか茶色だったかのズボンを

履いている茶髪の男だったらしい。

「観客席も舞台から離れた場所だったから良く見えなかったんだそうだ。だから見た目の年齢とかまでは

知らないと言っていた」


ならばと聞く方向を変えてみる。

「さっきのその……ソルイールの中年の男なんだが、そっちの奴は騎士団長とか国の英雄を倒せる程に

凄い奴ならどう言う戦い方をしていた……って言うのは手掛かりに無いかな?」

中年の男の戦い方が分かればそれも手掛かりの1つになるので聞いてみたかった地球人の1人だが、

村長の白ライオンは首を横に振る。

「戦い方まではこちらも聞いていない。騎士団長と英雄をその男が殺したって言うのはどうやら

事実らしいのだが、素手で戦っていたと言う話しか無いし手配書も回って来たんだが似顔絵の他には

背格好とか服装とかしか書いていなかったな」

「うーん、そうか……」


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