A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第56話


その翌日、秋祭りの当日。

帝都グラディシラはメインストリートを始めとした幾つもの通りに出店が並び、大道芸人や商人達が

パフォーマンスをしたり商売の声を張り上げたりしていて賑やかだった。

しかし、リオスにとってはそんな秋祭りを楽しむ余裕など微塵も無い。

(俺にとっての運命の日になるかも知れん)

その思いを胸にしながら、リオスはセンレイブ城の近くまでブラブラと歩いて行く。

だが、余りセンレイブ城に近付き過ぎてしまうと逆にこちらが不審人物として騎士団に拘束されてしまうので、

ある程度距離を取った所にある平民街の区画でリオスは時間を潰していた。


(この辺りがギリギリか)

城の周辺は貴族の屋敷が多数立ち並んでおり、これ等の屋敷の人間達が殺される様な展開ももしかしたら

あったのかもしれないと、不謹慎ながらもリオスは考えていた。

(この帝国で、最も権力がある人間と言えばやはり皇帝だろう。そこから大臣やその他の臣下、それに位の高い貴族か)

だからこそ、今までの連続殺人事件が権力者ばかりを狙ったものだったのでこの辺りの人間が狙われても

おかしくは無いだろうと言う結論に達した。

(実際に実行犯に会ってみないと、分からない事も沢山あるだろう)

身なりは元より、異世界人と言うこの世界では異質な存在である自分は怪しい事この上無いし、それ以上に身体の中に

魔力が無い理由をセンレイブ城に居るであろう門番に説明出来る訳が無かったからだ。


センレイブ城に向かうのは夜まで待てば良いんじゃないかとも1度考えてはみたのだが、それだと城に潜入する肝心の時間が

あのメモに書いて無かったので何時潜入するか分からない。

(料理を運ぶ料理屋も分からなかった。町の人間達に聞いてみたら、何件かはセンレイブ城御用達の料理屋があるには

あったが……毎年御用達は違う料理屋だって言うからな)

うーん……と考えたリオスは、一か八かの作戦を思い付く。

(センレイブ城に向かう事の出来るルートは限られている。確か、城に続く道は北の方にある門で区切られているらしい。

だから、そこを通る料理屋の馬車を尾行するしか無さそうだ)

念の為に、その料理屋の名前と馬車の目印も聞き出してある。だけど、城に料理を運ぶ時間については流石に分からなかった。

(とにかく夜までこの辺りで待つとしよう)

ウダウダ考えていても余計に頭をこんがらがらせてしまうだけなので、小腹が空いた事もあり出店の食べ物を物色しながら

リオスはその時を待つのであった。


そうして待ち続ける事およそ2時間。

リオスの目の前を1台の馬車が通って行く。かなり大き目の馬車で、リオスが目星をつけていた店のロゴが馬車の荷台の幌に描かれている。

(あれ、か?)

その馬車が進む先はセンレイブ城への道。間違い無い!

目星をつけて確信したリオスは、音をなるべく立てない様にしてそのまま馬車の後ろへと駆け寄ってスパッと食料が沢山積まれている

荷台へと飛び乗る。幌のおかげで気が付かれ無くて良かったが、まさにギリギリのタイミングとスペースだった。

(後は城の近くまで案内して貰うとしよう)

何とか荷台に身を潜ませながら飛び降りるタイミングを計る。そのまま乗って行ってしまえば検品の時に見つかってしまうからだ。


そして、周りの景色も一目で見て分かる位に高級な屋敷が立ち並ぶ区画に入った。貴族街だ。

もうすぐ城だ。

(あのメモに書かれている事が本当ならば、城の中で俺の運命は決まるかもな)

残酷な運命なんて、あってたまるものか。

あの滝つぼから生還出来た自分なら、今回もきっと上手く行くだろう。

普段はここまでリオスはポジティブに考えたりはしない。どちらかと言えば慎重に考えてから用心深く行動するタイプなので

別の部隊に属しているシラット使いでもある同期の軍人と良く比較される事が多い。

(あいつもあいつでポジティブと言うか、楽観的過ぎるのが問題だがな)

そんな事を考えているとまた荷台から見える景色が変わる。どうやら開きっ放しの城門を超えて城の入り口近くまで接近して来たらしい。

リオスは幌の端に掴まって、半身を乗り出して前方の様子を見た。

(あそこなら……)


馬車のスピードが落ちる前に……と思い、素早く着地したリオスは前方に転がりながら受け身を取ってそのまま城門の前にある

庭園の茂みに身を潜めた。

「ふぅ……」

何とか第1関門は突破できたが、問題はここからどうやって城に潜入するかだ。

茂みに隠れながらリオスは周りの様子を探り始める。

(巡回の兵士とかが居るかも知れない。ここで5分程待ってみて、そこから侵入するタイミングやルートを出来るだけ掴むとしよう)

あの1番最初の路地裏の事、それからホルガーを尾行して捕まった事を思い出しながらリオスは息を潜め続ける。

路地裏で兵士を倒した後に窓に飛び付いて逃げ切った事は、リオスの中でまだ記憶に新しい。

(潜入はやっぱり得意じゃないけど、ここまで来たらもう後戻りは出来ないだろう。やれるだけやってみるしか無いな)


A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第57話へ

HPGサイドへ戻る