A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第57話


そのまま更に息を潜め続ける事、心の中の宣言通り5分。庭園の手入れをする庭師が来なかった事は幸いだった。

(もうそろそろ良いだろう)

本当は1時間位待ちたかったのだが、そこまで待ってしまうとあのメモに書いてあった計画が実行されないとも限らない。

なので5分をリミットとして、リオスは慎重に辺りの様子と気配を窺いながら茂みの中からスタートした。

(人間の気配と死角には要注意だ)

正面の入り口からは当然入って行ける訳が無いので、リオスは庭園の脇を通って何処か入れそうな場所が

無いかを探してみる。町の人間には城に裏口があるかどうかなんて聞ける訳が無い。

(そんな事を聞いたら怪しまれるのは必至だからな)

素早く、しかし慎重に。

相反するこの2つの条件を、難しいながらもそこは今までの軍人としての経験と勘でリオスはこなしながら入り口を探し回る。


(……ん?)

庭園を抜けて城の右手から進んでそうして探し回っていると、使用人達が利用するのだろうと思われる通用口の様な場所があった。

ここには門番が配置されていない。

(ここから入れるかも知れないな)

木製の小さなドアの横の壁に張り付き、ドアの向こうの気配を注意深く窺う。

(大丈夫、クリアだ)

そっ……とドアの取っ手に手をかけると、案外すんなりとドアは開いてくれた。

城の警備がこんなんで良いのか、とリオスは思いながらもこれで城内への侵入は成功である。

それでもまだまだ油断は出来ない。

城と言うだけあって至る所に警備兵が配置されているだろうし、こんな事であればもっと時間帯をずらすべきだったかと

今更になってリオスは後悔。


でも後悔出来ない理由も勿論ある。

(料理を運ぶ馬車が今の時間に来てしまったから、俺だってこうしてここまで着いて来るしか無かったんだ)

目の前には左の曲がり角が1つ。勿論うかつに飛び出す事は絶対にせず、曲がり角の端にさっきの入り口の時と同じく

張り付いて曲がり角の先を窺う。

(ふむ、やはり皇帝の住む場所の事だけはあるな。衛兵の配置も抜かりは無さそうだ)

ここから見えるだけでも、通路の先にある幾つものドアの手前に2人の衛兵がしっかりとそれぞれ配置されている。

これはこのルートからの進入は無理そうだな、と思い別のルートを探す事にした。

(無理だと感じたら退く。これも立派な戦術だ)

むやみやたらに強行突破して自軍の戦力を失う等、指揮官としては失格以外の何者でも無い。

とりあえず今しがた入って来たばかりのドアから外に出て、後ろに立つ強固な城の壁を見上げる。

(壁を上るのは……俺はアメリカンコミックのヒーローやクライマーじゃないから無理だ。それから正門側に向かっても意味は無い。

だったらもっと裏に回ってみるか)

こんな所でぼやぼや時間を取られる訳にもいかない。


そして、リオスは入れそうな場所を再び発見した。

(ここはどうだ?)

最初にこの世界に来た時と同じく、窓から中に潜入する作戦だ。

と言っても窓に飛び付く訳では無く、1階の窓が少し開いていたのでそこから潜入する作戦に出た。恐らく換気か何かで

開けっ放しにしていたのかもしれないが、ラッキーな事には違い無い。

(人の気配は……?)

さっきと同じく、注意深く窓から見える範囲で中の様子を窺うリオス。人の気配はしないし、人影が動いた等の目から入って来る情報も無い。

(だが慌てるな。死角で見えない事も多々あるからな)

人の気配なら大体の感覚で分かるが、死角の情報は目から見える範囲では絶対に分からない。

そうで無ければ「死角」とは言えないからだ。


最初から少し開いている窓を、白い手袋をはめた指を使って更に音を立てない様に慎重に大きく開く。

そのまま素早い身のこなしでスルッと窓から部屋の中に潜り込み、足音も最小限まで抑えて部屋の中を見渡す。

部屋は豪華な調度品が置かれていたり、壁に掛かっている値打ち物らしい絵画等が目に入ったものの、そこまで重要な部屋では

無いんじゃないかとリオスは考える。

(この広さでこの少しの豪華さ。城だと言う事を差し引けば、恐らくここは客用の部屋か何かかな)

部屋の外へと出る為のドアは見渡す限りで1つ。さっきと同じく衛兵がドアの横に配置されている可能性が高いが、それでも

外に出て行かない事には何も進展が望めないので意を決してリオスは部屋の外へと出てみる事に。


だが、そこで部屋の外に違和感を覚える。

(気配は……ん?)

人の気配がまるでしない。これはどう言う事だろうか?

まさか……とリオスの脳裏に嫌な予感が過ぎる。

だけど用心する事は忘れず、リオスはそのドアをそっと開けてドアの横の様子を見てみた。

(衛兵が居ないな……)

これはラッキーと捉えて良いのか、それとも何か悪い事の前触れなのか。

物音を立てない様にしながら廊下へと歩を進めるリオス。料理が運ばれそうな場所と言えば厨房なのだが、その厨房が

何処にあるのかはこの城の人間では無いリオスは当然見当が全くつかない。

(とにかく探し回れるだけ探し回ってみるしか無いだろう。何も無いのが1番良いのだがな)


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