A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第12話
「隠れているのは分かるんだ。今から3つ数えるから、それまでに出て来なかったら
隠れている場所にこのパイソンの弾全部を撃ち込んでからじわじわと殺してやる。……1!」
エイヴィリンはカウントを始める。
「2!」
後1秒。
「3!」
カウントが3になったその瞬間、ウォルシャンの隠れている木箱に向かってエイヴィリンはトリガーを引く。
だがウォルシャンは3のカウントと同時に木箱の陰から飛び出し、側にあった椅子をエイヴィリンに向かって投げつけた。
「……っと!」
放物線を描いて飛んで来る椅子をしゃがんで避け、その避けた体勢のままコルトパイソンのトリガーを引いて、
ウォルシャンの左膝を的確に撃ち抜いた。
「ぐあっ!」
膝を着いてしまうウォルシャンだが、エイヴィリンは容赦せずに今度は左肩を撃ち抜く。
「ああっ!」
ドサリと倒れ込んだウォルシャンに向かって、エイヴィリンは側に捨ててあったロープを手に取ると
コルトパイソンの銃口を向けながら歩いて行く。
「く、来るな!」
「やだね」
エイヴィリンはウォルシャンに素早くのしかかると、腕を一纏めにして頭の上で縛りつける。
更に側にある汚いタオルを手にとって、それを口に押し込んだ。
「良い格好だな。逃げ切れるとでも思ったのか?」
「う、うーっ! うっ!」
暴れるウォルシャンだが、肩と足を撃たれていては本来の力を発揮できない。
それを見て、エイヴィリンは一旦彼を立たせると強烈な鉄拳を3発彼の腹に向かってかます。
「うごっ!?」
「俺は言った筈だ。3で出てこなければなぶり殺しにすると。カウントに間に合わなかったのは御前の責任だ……なっ!」
次は思いっ切りミドルキックを腹にかまし、ウォルシャンが衝撃で前屈みになった所で足払いを掛けて転倒させる。
「ぐうぅ……」
ウォルシャンの呻き声を、やたら嬉しそうなエイヴィリンの声が遮る。
「さぁて、これで御目当ての情報も回収したし? 後はじっくりと勝利の美酒でも呑ませて貰うとするか。……ただし」
そこで一旦言葉を切ったエイヴィリンがウォルシャンに銃口を向けると、彼のその顔が驚愕と絶望に変わる。
「御前を殺した後でな」
「ひっ……わああああああ」
タオルが口から落ちて叫び声が上がるウォルシャンだが、それに構わずエイヴィリンがトリガーを引こうとした……その時。
ピリリリリッ、とエイヴィリンの携帯電話がズボンのポケットの中でけたたましく鳴り響いた。
「ちっ、何だこんな時に……もしもし?」
ウォルシャンに目線と銃口を向けたままエイヴィリンが電話に出る。
しかしその後に彼の顔が驚愕の表情になり、そしてだんだん青ざめて行く。
「な……は、う、嘘だろ? おい、ちょっとま……」
電話が切れたのか、エイヴィリンはダラリと電話を持った左腕を下ろす。
その様子に恐る恐るウォルシャンは事情を聞いてみた。
「な、何があったんだ……?」
そしてエイヴィリンの口から出てきた言葉は、ウォルシャンにとってこの後の人生の運命を変える言葉になった。
「組織が、壊滅した……」
「は?」
「俺の組織が御前の軍に潰されて、壊滅したんだ!」
「は……はははははっ!!」
ウォルシャンは笑いながら、力を振り絞って呆然としているエイヴィリンの足を取る。
「ぐあっ!!」
そしてマウントポジションを取って的確に地面に押さえ付けた。
「残念だったなぁ? 我がイギリス軍の底力を思い知った様だな」
にやりと笑みを浮かべながら、右のパンチをエイヴィリンの顔面へ。
「ぐあ!」
「さぁて……俺がさっきやられた分をお返しさせてもらおうか」
コルトパイソンを奪い取り、銃口をエイヴィリンに向けるウォルシャン。
だが、そんなウォルシャンに思いもよらない事実がエイヴィリンからもたらされる。
「それはどうかな? 俺を殺しても御前の行き場所は無い」
「何?」
「御前の部隊も俺の組織に全滅させられたらしいぜ。つまり軍に戻る事は出来ても、
御前の知り合いはもう居ないって訳だ」
「なっ……」
今度はウォルシャンが絶句する番になった。
(そうなってしまえば、自分が軍に戻る意味も無い……)
2人の間に微妙で複雑な空気が流れる。
「……つまり俺達は、2人とも根無し草になったって事か」
「そうだ。それに俺には家族ももう居ないからな。……今更虫の良い話だが、俺達でコンビを組まないか」
「は?」
何をバカな事を、とウォルシャンは思ったが、エイヴィリンは続ける。
「2人で賞金稼ぎになるのはどうだ。永住権の事とか大変だろうけど、形振り構っていられないだろ」
「あ……」
エイヴィリンの冷静な提案に、ウォルシャンは妙に納得した。
その後エイヴィリンとウォルシャンは共にテキサスに移り住み、共同生活をしながらバウンティハンターの
職に就いて日々を過ごしている。殺しのテクニックや捕縛のテクニック、それに軍隊格闘術やカンフーや
太極拳も教え合って日々バウンティハンターとしてのスキルを磨く毎日。
元殺し屋と元軍人の共同生活は、こうしてこの廃墟からスタートしたのであった。
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