A Solitary Battle Another World Fight Stories Final stage第3話


「俺の家族は……みんな……人殺しの人間……」

「そうだ。御前はこの組織に拾われた以上は家族と同じ様になって貰わなければならない。

ヘマをしたとは言え、御前の家族は良くやってくれていたからな。だけど流石にこれで3回目の

失敗となればこちらも容赦は出来ない。そんな家族と同じDNAを継いでいて、そして同時に

その家族の仇でもある私の組織を憎むのであればそれで良い。しかし、私の組織の存在が

無ければ御前の家族の生活は成り立っていなかった訳だし、御前が生まれる事も無かった。

伊達に20年以上組織であの家族を世話して来た訳では無いのだからな」

それに、とボスは続ける。

「ガキの言う事を万が一信じる様な頭の悪いサツにタレ込まれたり、下手に恨まれたりでもして

他の殺し屋を雇われでもしたらまた面倒な事になるからな。だったらその前に私の組織で

抱き込んでしまえば良い。優秀な殺し屋になれるかどうかは、これから先の御前次第だ。

それともこの男みたいに今ここで無様な姿になりたいか?」

10歳のエイヴィリンは首を横に振る。

この瞬間、1人の殺し屋の卵が生まれた。


それから11年……21歳になったエイヴィリンがそれまでに殺した人数は150人を超える。

最初は殺し屋としてのアシスタントを経験しつつ殺しの基礎の基礎から習い始めて、

初めて人を殺したのは10歳の時にボスの元に来てから2年後の12歳の時だった。

自分が人を殺した。

その事実だけでも気持ち悪くなり、仕事の後に人気の無い場所で吐いた。

何度も抜けさせて欲しいと言った。

だけど、人を殺さなければ食べる物もくれなかったし寝る場所も与えられなかった。

まずは与えられたミッションの中で人を殺す事。それから普段の生活があった。

その普段の生活の中では、子供が学校に通っていなければ何かと色々な団体や警察から

目を付けられる可能性があると言う事で、組織がそのまま元の学校に通わせていた。

組織の人間が「親戚」と言う形でエイヴィリンを引き取り、そしてエイヴィリンの通う学校にもスパイとして

何人かの組織の人間を紛れ込ませ、至る所に監視を付けてエイヴィリンが

逃げ出さない様に……いや、逃げ出せない様にしていた。


結局高校卒業まで、表向きは普通の学生だが裏では子供ながら殺し屋として「仕事」をさせられていたエイヴィリン。

年を重ねるに連れて組織のサポートも無くなって行き、殺しの仕事で独り立ちが出来る様になるまでになる。

その殺しの仕事以外にも、例えばターゲットに関しての情報収集であったり時にはライバル組織のスパイとして

潜入したり、自分に後輩が出来てその後輩を指導する立場になったりと傭兵紛いの事もさせられる様になった。

全ては「生きる為」に。

1度や2度の失敗程度なら、程度によっては組織も目をつぶってくれる。

しかし何回も失敗する様であれば「それ」はもう用済みになり、あの最初のショッキングなシーンの時の様に

今度は自分が誰かの目の前で殺されかねない。

だから必死で人を殺した。情報を集めた。後輩の教育もした。スパイになった。

その全てが怖かった。だけど生きて行く為には仕方が無かった。

普段の生活を「ギブ」して貰う為には「仕事」の結果で「テイク」しなければならなかったからだ。


しかしそれ等の仕事の内容よりも、もっとエイヴィリンは怖かった事がある。

それは「仕事」をこなして経験を積んで行く「自分自身」だった。

慣れと言うのは怖いものだが、エイヴィリンにもまさしくそれが当てはまったらしい。

ハッキリとした正確な時期までは覚えていないものの、おぼろげながら記憶を手繰ってみれば……確か

人を殺し始めてから1年もすれば感覚はほとんどマヒしていた気がすると言うのはエイヴィリンの経験だ。

それまで怖かった感覚が少しずつ……本当に少しずつ薄れて行き、何時しかターゲットを殺す為なら

何処まででも執念深く追い回す殺人マシーンと周りから言われる様になっていた。

15歳の時にはもうそうやって言われていて、時には恐ろしい物を見る目つきで見られた事もある。

15歳と言えば世間一般的にはまだ子供の部類に入る。

アメリカでは州ごとによって犯罪を犯した者の顔写真や名前が公開される年齢が違う。

その一方で飲酒や喫煙はこれも州によって若干の違いはあるものの、概ね21歳から許可が下りる。

運転免許は16歳から、結婚は18歳からと言う様に15歳と言うのはまだ周りから見れば子供だ。


だからその分ターゲットに近づきやすいと言う利点があったので、組織のボスにとってエイヴィリンや

他の同年代の殺し屋の存在は貴重だった。

例えば道に迷った子供を装ってターゲットに近づけさせ、ナイフで心臓を一突きにさせたり。

例えばそうした子供の殺し屋にわざと治安の悪い場所を歩かせて、ギャング連中に麻薬等の

勧誘をさせてから上手く取り入り、麻薬を全て横取りにした挙句に近場で待機していた子供の

サポート役の大人達が麻薬工場を爆破したり。

子供も時と場合によっては十分に使える存在だと言う事を、エイヴィリンも含めた組織で活躍する

全ての人間にボスは知らしめていたのだ。

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