A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第54話


「……それはそうとして、君の言っている推理通りだとするのなら……コルネールが偽装工作を行ったり

部下を集めたりシミュレートをしたりして、それから計画を実行に移す事も出来ると言う訳だ。

カシュラーゼはワイバーンの移動手段で上空を通過しただけとも言っていたが、それも嘘だったとして

本当はカシュラーゼで人員を集めていたとするのなら……」

「ますます怪しいって事よね」

最初は確信がまだ持てないと言っていたが、アーシアはもうコルネールが黒幕であるとうすうす感づいている様だ。

「しかし謎なのはその動機だな。何故ヴァーンイレス解放軍の部隊長ともあろう人間が

その様な事をするのか、本当に理解に苦しむものだ」

まだコルネールが裏切り者だと決まった訳では無いので、あくまでこれは推測の話にしか過ぎないのだが。


アーシアはそれでも、今まで一緒に解放軍の人間として活動して来た事もあるし何より自分の元恋人と

言う事もあって信じたくない気持ちが心の中に残っているのは事実だった。

「元々私の彼氏だから、私だって信じたくない気持ちがあるわよ。でも今のお互いの推理で、その線がかなり濃厚なのよね」

「私には彼氏とか彼女の事情は複雑そうだから、その辺りの事情は分からないし首を突っ込む気は無いが、

結局は信じたくない気持ちも信じる気持ちも個人の自由だ。だが……」

一旦言葉を切ったアイヴォスは、忠告の意味も込めて一言だけ呟いた。

「自分が後悔しない様に選択するんだ」

「……分かってる。貴方はこれからどうするの?」

「私はこのままエスヴァリークに向かう。これ以上は私の介入出来る状況では無いからな」

部外者の立場であるアイヴォスは、後はヴァーンイレス王国騎士団内部の問題なので自分はこれで身を引くべきだと考えた。

「そう……分かったわ。貴方も気を付けてね」

「ああ。後は頼むぞ」

そう言ってアーシアにクルリと背を向け、アイヴォスは出入り口のドアを開けて外に出る。


……前に、2人が居る倉庫のそのドアが蹴り破られたのはその瞬間だった。

「ぐおっ!?」

油断し切っていたアイヴォスはドアが蹴り開かれた衝撃で、そのドアに思いっ切り弾き飛ばされて後ろに転がった。

アイヴォスは状況が呑み込み切れないながらも、常日頃から軍人として鍛えているその身体を使って素早く

起き上がりつつ刀を構えようとしたが、その前に不気味に輝く槍の先端がアイヴォスの喉元に狂い無く突き付けられる。

「ちょっと行動するのが遅すぎたみたいだな」

「貴様は……」

日本語で「噂をすれば影」と言う言葉をアイヴォスは勉強した。

意味は「人の噂をしている時に、他ならぬ当人が噂をしている場に現れる」との意味を持つことわざだ。

それが今まさにこうして現実になってしまった。


「へーえ、どうやら全部ばれちまったみてえだな」

「コルネール……何時から話を聞いていたの?」

「魔物云々の話からだなー。全く……そんな奴にこの世界の常識を教える前にさっさとここから逃げりゃ良かったのによ。

最近お前がウロチョロしてるって俺の部下から色々話が上がって来ていたから、探してたらここに辿り着いたって訳さ」

ニヤニヤと嫌らしい顔つきのコルネールは、アイヴォスに槍を突き付けたままアーシアの質問に答える。

そして、アイヴォスは自分に今こうやって槍の先端を突きつけているコルネール以外にも人影が複数人ある事に気がついた。

さっきドアを蹴り破ったのがコルネールだった……と言うのはアイヴォスはうすうす気がついていたが、ゴロゴロと後ろに

転がってしまった事で足音が複数ある事に気が付かなかったのだ。

ドカドカと派手にこの倉庫の中に踏み込んで来たのはコルネールを含めて全部で4人。

コルネールは最初にあのアーシアの家で出会った時と同じ、赤いエンブレムが付いている

黄土色に近い茶色のコートを着込んでいる。


しかしそのコルネールと一緒に踏み込んで来た連中は、どう見てもカシュラーゼ王国軍の格好をしているでは無いか。

窓から太陽の光が少しだけだが差し込んで来るし、倉庫の中には壁掛け用のランプも設置されているので格好が良く分かる。

「凄く長い説明ごくろーさん。アーシアは良く頑張ったよ。そして色々と嗅ぎ回ってくれてたみたいでなぁ? このメス犬がよぉ!!」

「……やはり、貴様はヴァーンイレス王国軍を……」

確信を持ってしまったアイヴォスのセリフに、コルネールは何の迷いも無い表情で頷いた。

「ああ。俺はもうヴァーンイレス王国なんて見限ってる。このまま占領されてる様な国に居たって、俺の人生は

惨めに終わっちまうだけだからなぁ?」

「何で、何で裏切ったのよぉ!?」

アーシアは残りの3人のカシュラーゼ軍の格好をしている人間と獣人に囲まれながら、それでもコルネールに向かって叫んだ。

その叫び声を聞いたコルネールは「はっ」と鼻で笑うと、アーシアに対して自分の本音をぶちまける。

「夢とか希望なんかじゃ世の中渡って行けねぇんだよ。現実ってそう言うもんだろ?」


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