A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第53話
その一言から始まって、内容をアイヴォスが読み上げて行く。
「あいつが最近、陰でコソコソと何かをやっているのは気が付いている。どうも半年位前から何かを
やっていたみたいなんだけど、ここ最近はたびたび姿を消すから気になっている。まだ確証が
持てないんだけど、コルネールの動きには気をつけろよ……」
そこでメモは終わっていたが、半年前と言う部分に引っかかるものをアイヴォスは感じた。
「半年前って言えば、コルネールは旅に出たって言って無かったか?」
「そうね。アイクアルから右回りに旅をしていたのは私も知っているし、何かあればすぐに連絡を取れる様に
伝書用の鷹も持って行ったしね。それにその鷹で手紙を時々送って来てくれたわ」
「だが、もしその鷹が偽装だったりしたら……」
2人の間に不穏な空気が流れ始める。
「鷹の手紙が偽装工作の為に使われたと仮定するなら、半年間もあれば色々とヴァーンイレス王国の内部を
調査したりカシュラーゼ軍の偽造工作だって出来る。様々なシチュエーションを想定してのシミュレーションだって
十分に時間が取れるだろうから練習も出来る筈だ」
しかし、それを聞いていたアーシアが首を横に振った。
「でも、確か貴方と同じく魔力を持たない人間の話も知っていたしコルネールも貴方にその話をしてくれたわよね。
それって現地じゃないと手に入れられないものだと思うわ。私だって、その話はソルイールで傭兵の活動をしていた
知り合いが話してくれたから知ってる訳だしね。帝国の英雄の話も一緒に聞いたし、現地で色々聞かないと
知りえない情報もあるかも知れないわよ」
アイヴォスはそのアーシアの話にも突っ込み所があると感じた。
「それもどうかな。実際に君は傭兵を通してその英雄の話もそれから魔力を持たない人間の話も聞いた訳だろう?
だったら色々と噂を集めたりしてそれをその場で聞いた様に自分で言えば、幾らでもごまかしはつくと思うが」
だが、この世界の住人では無いアイヴォスは今までどうやら知ったかぶりで物事を話していたらしい。
「それが、案外そうでも無いのよね」
「ん?」
「その鷹に付いていた手紙、その国々で貰えるスタンプが押されているのよ。観光名所を回って集めるスタンプが。
特にそれを全部の国で集めたからと言って何があるって訳でも無いけど、その国に行って来たって言う一種の
証みたいな物かしらね」
それが押されていたから証拠としては十分、と言うのがアーシアの予想だ。
だけどそうなると、今までアーシア本人が言って来た偽装工作の跡がコルネールによるものでは無いと言う事になる。
「うーむ、すると……偽装工作の準備が出来ない場所に居たって事になるから、可能性があるとすれば各国で
部下を集めて、そしてその部下達にこのヴァーンイレスに先に来て貰って色々やっていた可能性があるかもな……」
自分でも頭の中がこんがらがって来てしまって、何をどう考えて良いのかアイヴォスは自分で自分が分からなくなってしまった。
(駄目だ、これ以上考えると頭がショートしそうだ……)
文字通り頭を抱えてしまったアイヴォスだが、そんな時にふとアーシアが思い出した事があった。
「転送陣……」
「えっ?」
「そ、そうだわ転送陣よ!! それさえ使えば何時でもヴァーンイレス王国に戻ってすぐに元の国へ戻る事が出来るわ!!」
頭から手を離してキョトンとするアイヴォスに、テンションアップ状態のアーシアは早口でまくし立てる様にして自分の推理を伝える。
「ほら、王都イレイデンの転送装置はカシュラーゼの連中に占領されてるから使えないって話をしたわよね?」
「……ああ、確かに」
「そう。確かに使えないんだけど……でも転送陣ならヴァーンイレス王国の人目のつかない所にその転送陣をセットしておいて、
そして魔力を溜めさえすればすぐにその国からこっちに来る事も出来るしその国へ戻る事も出来るわ」
アーシアの推理には、やはりこの異世界の人間だからかなかなかの説得力がある。
ならばとアーシアにアイヴォスは質問をし始めた。
「その魔力を溜めるのは時間が掛かるんだろう?」
「そうね。でもAランクの冒険者のコルネールなら一晩横になって休めばそれ位の魔力は溜まっちゃうもの。別にそれなりの量の
魔力が必要って言っても、身体の中の魔力がすっからかんになるまで使う訳じゃ無いし、そもそもそんな事をしたら人間の身体が
崩壊しちゃうわ。魔力はこの世界の生物を構成しているものだから、魔力が無くなるって言う事はすなわち死ぬって事なのよ」
「つまり、この世界の人間からしてみれば私はすでに死んでいると言う事になるのか?」
「ええ。でもそっちの世界は魔力が無い世界で、貴方はずっとその身体で生きて来たんでしょ? そっちの世界で。
だったらこの世界で魔力が無い人間は死んじゃうって事だけど、魔力が無いのに生きていられるって言うのは
この世界の人間じゃないって事になるわね」
何だか余り嬉しくないセリフなのだが、異世界の人間であると証明されただけでもこの自分に起きている出来事が夢じゃない、と
再確認出来ただけでもアイヴォスは安心感を覚えてしまった。
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