A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第44話


エスヴァリーク帝国へ向かう事だけが目的の筈だったのに、何時の間にか気がつけば

麻薬の運び屋に利用されていた。更に麻薬の存在を知ってしまったのと、金が少ない事への

八つ当たりで殺されそうになった為にアイヴォスは襲い掛かって来た人間を全て返り討ちにした。

だからさっさとこの国を脱出してしまいたいのと、黒幕を突き止めてこれ以上自分に火の粉が

降りかからない様にしたい気持ちがアイヴォスの心の中でぶつかり合う。

(とにかくもうこの町に用事は無い。さっさと町を出て次の近い町へと向かおう。

そう思って馬を預けた場所へと向かおうとしたのだが、家の外の死体のそばに転がっている武器を

見た時にふと思い出した事があった。


(そうだ、あの斧……)

宿屋でのあの怪奇現象。斧を触った時の音と光とそして痛み。

あの斧がここにあると言う訳では無いが、今あの死体のそばに落ちている武器をそれぞれ

触っても大丈夫なのだろうか?

そんな疑問が急速に湧いて来たアイヴォスは、出発する前に少しだけ実験をしてみる。

(少しだけ……)

早く立ち去らなければまずいので、本当に少しだけ……と思っていたのだがどうやらそうも

行かないらしいと言うのはこの後の出来事で判明する。


手始めに、最後に倒したあの弓使いが持っていた弓を持ち上げてみようとその弓をギュッと握ってみる。

するとその瞬間、アイヴォスの身に思いがけない出来事が!!

バチィィィッ!!

「うぐぉ!?」

また、起きた。

あの宿屋での襲撃時と同じ、何の前触れも無くいきなりアイヴォスに襲い掛かって来た何かが破裂する様な

音と光、そして腕全体に伝わって来るしびれる様な痛み。

そんな衝撃を受けながらもアイヴォスがまた絶句してしまう程の強烈な体験を再びさせて、アイヴォスの

手から落ちたその弓は音を立てて地面に落ちた。

「な、何だこれは……!?」

自分は何もしていない。何もしていないにも関わらずこんな事が起こってしまうのは何故なのか。

(何もしないでこんな事が起こる訳が無い筈なのだが……)

しかし本当に自分は何もしていない。ただ単に弓を手に取っただけである。

未知の出来事に冷静なアイヴォスは珍しくパニック状態になりながら、とにかくもう1度試してみる事にする。

(腕に結構なショックがあるから、本当はやりたくないんだが……)

そう思いつつも、この超常現象を解明する為には自分でもう1度確かめてみるしか無い。


だから弓をもう1度握ってみたのだが、その瞬間アイヴォスにとって3回目となる超常現象が襲い掛かった。

バチィィィッ!!

「ぐうっ……!!」

どうやら何度やっても結果は一緒らしい。

 だが、そうなると今度は別の疑問がアイヴォスの頭に浮かび上がる。

(この現象が起きたのは、あの宿屋での斧とこの弓だけ……。しかし、この弓に限って言えば特別何か

加工されている訳でも無さそうな、何処にでも売られている様な雰囲気の弓だな。だが、他の武器なら……?)

嫌な予感しかしない。

しないけど、この疑問を解消する為にはこの場に落ちている武器全てを試すしか無い。

黒手袋をはめていても手袋越しにこの現象が起こるので、手袋をはめていようがいまいがそれは関係無い様だ。

もうこうなったら、身体へのダメージ云々は今の所考えずに全て実験しようとアイヴォスは決心して、それぞれの

死体のそばに落ちている武器の元に向かって歩き出した。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

駄目だった。

結論から言ってしまえば、アイヴォスが手に触れられる武器は1つも無かった。

腕が痛くてすでに限界に近い状態なので、その落胆ぶりは身体へのダメージも相まってかなり大きなものだ。

全ての武器で同じ反応が現れてしまった。

これで「自分は武器の類が一切使えない」と判明してしまった訳だが、そんなアイヴォスの脳が

もう1つの疑問を生み出す。

(待てよ……武器が使えないのは分かったが防具はどうなのだ?)

武装したこの死体達が着込んでいる防具。

武器が駄目でも、防具なら自分が触っても大丈夫かも知れない。


それでもここまで身体を酷使したのは久しぶりなので、防具の実験の前に少しばかりの休憩を挟む。

(これでは戦いになった時、日本刀が使えなくなってしまったら私はかなり不利になるな)

素手でも限界がある。武器が全く使えないのではかなりきついだろう。

だが、休憩しているアイヴォスの頭の中にまた新たな疑問が。

(あれっ、そう言えば私は何故言葉が通じているのだ?)

ここは地球とは違う異世界。しかしこの国では普通に自分が日常的に使っている言葉で話す事が出来ている。

それに言葉だけでは無く、街道の町へのルートを案内する立て看板やさっきの事件の内容を

書いてあるメモも読む事が出来ている。

家の中から回収した、あの捻くれた男が書いたと思しきメモをもう1度取り出してアイヴォスは検証する。

(最初は訳の分からない文字だが、数秒経つと普段私が使っている文字に見えて来るのか……)

その訳の分からない文字の形が徐々に変わって行き、スーッと読める様になる。

例えるならばアラビア語の文章が数秒で英語の文章に切り替わる様なものだろう、とアイヴォスは自分の頭で解釈した。


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