A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第45話
言葉が通じるのと文字が読めるだけでもまだ良かった方だ。
そう思い直して防具の実験をやり始めるアイヴォス。
まずは同じく弓使いの男の防具から触ってみる。
とは言ってもさっきの現象が最早トラウマになってしまっているアイヴォスは、恐る恐ると
言った動作でまずは指1本でツンっと胸当てをつついてみる。
……が、何も起こらない。指1本だとこの現象が発生しないのだろうかと思い、今度は両手のひら
全体で一気に触れてみる。
「……ん……!?」
今度も何も起こらない。これは紛れも無い事実なので、と言う事は防具は身に着ける事が
出来るらしいとの希望が出来た。
しかしこれだけではまだ確信が持てないので、とりあえず他の死体の防具もそれぞれ触ってみる。
(これも……これも、それからこれも何も起こらないみたいだ。するとやはり、さっきの現象が起こるのは
武器だけの様だな)
それだったら、これ等の死体から使えそうな防具を貰ってしまおうとアイヴォスは考えた。
真面目な性格の為に他人の物を奪い取ると言う事に躊躇してしまったものの、良く良く考えてみれば
戦場で武器が無くなってしまったら現地調達……つまり敵から奪い取ってそれを使うのは普通にある事だ。
それに既に死体となって転がっているこの6人組は、最初は自分を殺そうとして襲い掛かって来た人間なので
むしろ気後れする事も無いだろうとアイヴォスは考え直して、いそいそと弓使いの男の防具を取り外し始める。
体格を見る限りでは、この男が自分の体格とそっくりな気がするのでまずは試しに防具を着けてみる事にした。
とは言うものの上段から斬り裂いてしまったので、着けられそうなのは足の部分だけだとちょっと後悔していた。
もう少し防具を残した殺し方が出来た様な気がしながら、アイヴォスはその防具……金属製のレガースを
慣れない手つきで取り外して自分の左脚にフィットするかどうか押し当ててみる。
バチィィィッ!!
「あがあっ!?」
完全に油断していたアイヴォスは、またしても起こってしまったその謎の現象に身体を踏ん張りきれずに
後ろに転がってしまった。
「な……」
自分の手から離れて、ガランガランと金属音を立てて虚しく地面に転がったレガースを見て
再び呆然となるアイヴォスの顔。
(何故だ、私は触れるかどうか確かめた筈だぞ!?)
そうは言うものの、自分に起こった今の現象は間違い無くさっきの武器の時に起こった現象と同じものだった。
何で。どうして。
そんな疑問がアイヴォスの頭の中をグルグルと駆け巡るが、それを確かめるなら全部の武器を試したのと
一緒に全部の防具も試してみないと気が済まなかった。
正直に言えば血の付いている防具を触るのは気が引けるが、実験の為にはそんな事も言ってられない。
意を決してアイヴォスは、弓使いの男以外の人間達が身に着けている防具の中で損傷が激しくない物だけに
絞って確かめ始めた。
「ぐぅ……やっぱり駄目か……」
結果として防具に触る事は出来た。しかし身に着けようとしてみるとあの現象がまたアイヴォスの身体に襲い掛かって来る。
だからアイヴォスは防具を身に着けられない。肩当て、胸当て、脛当て等全てでこの結果が出たからである。
これは武器の時とは違う結果になったと言える。
アイヴォスは全身に疲労感と痛みを覚えながらも、自分の頭の中で考えを纏め始めた。
(武器の場合は私は触る事すら不可能な様だ。戦った時に一瞬だけ触れた事はあったが、本当に一瞬だけなら
問題は無いみたいだ。それから防具の場合は触るのは問題が無くても、自分の身体に着ける事は
出来ない……一体これはどう言う事なのだ?)
そして自分の日本刀の場合は普通に触れるし、全力で振るってさっき戦えただけあってますます不思議な結果となった。
何故自分の日本刀だけが扱えるのか、流石のアイヴォスの頭脳でもこれは理解出来ない現象だ。
幾ら考えても結論は出そうに無いので、一先ずこの町からさっさと退散する事を選ぶ。
いずれ、この現象の詳細が分かる時が来るかも知れないから……。
それに今の段階で武器と防具が使えないと分かって良かったのかも知れないし、でもやっぱり悪かったと言う気持ちもある。
今回は6人相手に何とか勝てはしたものの、次に同じシチュエーションになったとしたらまた勝てる保証は無い。
それに、自分が今使っている日本刀は血糊を完全に振り払い切れた訳では無いので今のまま使い続けていると
いずれ駄目になってしまうのは目に見えているアイヴォス。
だから何処かで手入れをしたいのだが、今の自分が着込んでいるローブには所々に返り血が
付着しているのでかなり目立つ。
それに手入れをしている時間も無い状況なので、ここは応急処置としてもう1度日本刀を鞘から両方引き抜いて
ローブの裾で血を出来るだけしっかりと拭い去っておく。
満足な手入れが出来る環境に無いこの状況でも、出来る事があるならばやれるだけやっておく。
それは日本刀の手入れだけでは無く、人生の色々なシチュエーションでも同じなのだから。
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