A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第43話


残りは後2人……と思ったアイヴォスの背後から近づいて来ていた、捻くれた男がさっきの

お返しとばかりにアイヴォスの首に左腕を回して裸絞めにした。

「死ねやあああっ!!」

右手の錆びたナイフをアイヴォスの首に突き立てようとしたが、アイヴォスは咄嗟に後ろに飛んで

男の背中を地面に叩き付ける形で着地。

「ぐあ!?」

反動でナイフが自分に当たるか当たらないかのギャンブルでもあったが、ナイフは全然違う場所で

男の右手に握られたまま宙を泳いでいるので問題は無かったらしい。

それでも裸絞めはまだ解除されない。凄い執念である。

このままではまた同じ事の繰り返しで埒が明かないと思うアイヴォスの視界に、今の状況を

打破出来そうな光景が飛び込んで来た。

なので身体全体の力をフルに発揮し、男ごと自分の身体を起こして立ち上がる。

次にその男の身体ごとクルッとその場で180度ターンしたアイヴォスは、背中から「ぐえっ」と

男の呻き声が聞こえて来たのと、男の腕から力が抜けるのを同時に確認。

男の背中には、2人とは少し距離がある場所から射られた矢が突き刺さっていた。


こうして男の裸絞めから解放されたアイヴォスだが、最後の1人である弓使いに

息つく暇も無く素早く接近。

その弓使いが次の矢の準備を終える前にアイヴォスは距離を詰めつつ、左手の刀を

弓使いに向かって投げ付ける。

「っ!?」

いきなり投げられた刀をギリギリで回避したものの、それによってますます弓使いが

矢を準備するのが遅れてしまった。

結果としてアイヴォスの接近を許してしまい、接近戦に持ち込むべく自分も短剣で応戦しようとした

弓使いを上段からの振り下ろしでアイヴォスは斬り裂いた。

「うぐぅっ……」


これで6人全員を倒し終えたアイヴォスだったが、ただ1人……まだ息がある人間が地面に転がっている。

息があると言っても、さっきの弓使いの矢を背中に受けて既に虫の息である、あの捻くれた男だった。

投げ付けた日本刀を回収して、もう1本の刀と一緒に思いっ切り振って2本とも血糊を振り払ってから鞘に収める。

刀を収めながら男の元へと歩いて行き、胸倉を掴んで男の身体を引きずり起こす。

「貴様等の目的は何だ。背後に誰が居る!?」

この男が指揮を執っている可能性は高いが、かと言ってあの袋の中身がこの男の言っていた通り大量の麻薬と

引き換えにした金だとすれば、自分自身は麻薬の運び屋になってしまったと言う事に他ならない。

アイヴォスはその為にも何としてでも情報を手に入れたい所だが、男の命は既に尽きようとしていた。

「くそっ、奴め……」

「奴!? 奴とは一体誰の事だ、おい!!」


そのセリフは自分に向けられたものなのか、それとも他の誰かに向けられたものなのかは正直に言えば

アイヴォスにも判断が出来なかった。

結局そのセリフを最後に男の命も尽きてしまい、6人の死体が町外れの家の外に転がった。

町外れと言う事もあってか人通りが全くと言って良い程無いのが救いだったが、今ここに居ては自分が

この6人を殺した犯人だと言うのが公になってしまう。

なのでまずは家の前から離れ、その家の「中」へと上がりこんで何か証拠やヒントになりそうな物が無いかを探して行く。

早くここから逃げなければいけないのは分かっているが、謎を残したまま立ち去る事が出来ないのもまた事実。

だから最悪で10分をタイムリミットとして家探しをスタートするアイヴォスだったが、その家自体が1階部分しかない

平屋の上に4部屋しか無い家で余り広くないせいもあった為かすぐにその証拠物件とメモが見つかった。

証拠物件はあの教会で見せられた、金のドッサリ入っている袋がそれである。


そしてメモは部屋の中にあるテーブルの上に無造作に置かれていた物で、内容を読んでみるととんでもない事が書かれていた。

(ヴァーンイレス王国の人間がカシュラーゼ軍に寝返ったので、俺達も寝返って名前を売るチャンス。だからまずは

王国内で流通している麻薬の代金を横取りする。あの教会の男の元へとひそかに赴き、そしてまだ俺達の事を仲間だと

思い込んでいる教会の人間を皆殺しにして金を奪い去る。だけど最近は麻薬の代金が少ないからもっと代金を寄越せと

次に交渉してみるつもりだ。……俺達はあの人の部下になるので、少しでもあの人の足しになる様に軍資金にするつもりだ……か)

そのメモは忘れない様にする為か話し言葉で書かれているものであったらしく、「麻薬の代金が少ない」の

文面からあの捻くれた男が書いた物であるとイメージ出来る。

このメモからはこの一連の流れが見えて来た。

見えて来たと言ってもそのメモの内容に書いてある通りで、ヴァーンイレス王国を裏切ってカシュラーゼ側に付く人間が

多数居ると言う事はこの国を見限る人間が多くなっていると言う事でもある。

この国の実情はまるで分からないが、裏切りの連続の背後にはまだ黒幕が居るらしいので、その黒幕の部下を

殺した事でアイヴォスはとんでもない事に巻き込まれてしまったと確信した。

(更なる調査が必要だな……)


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