A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第52話


マスターとの会話も終了し、宿屋の部屋に向かうリオスの足取りは何処か重かった。

(何なんだ、この得体の知れない不安感は……)

帝都に近付くに連れて、何故か足が遠退く様な感覚にリオスは疑問を感じていた。

これもこの世界特有の不思議な現象の1つなのだろうか?

それとも、軍人としての直感なのだろうか?

はたまたそれ以外の理由が原因だったとしても、帝都に向かう自分の身体が重い事に変わりは無かった。

(……俺、疲れてるのか?)

今日はもう、久しぶりのベッドで寝られるから寝るとするか……と思いながらリオスは就寝。

(何事も起きなければそれで良いのだがな)


そんな不安を抱えながら目覚めたリオスは、あの滝壺での怪我が原因で帝都に着くのは

少し遅れてしまいそうなので少し早めに行動する事にする。

昨日の夜にマスターと会話をしていた、酒場にもなっている宿屋の食堂で早めの朝食を摂ってすぐにチェックアウト。

そうしてあの山の村から自分を乗せて来てくれていた馬車に向かい出発しようとした時だった。

「……あれ」

「おや、貴方は……」

何と偶然にも昨日のマスターと再会してしまった。

「もう出発するのか?」

「ああ、帝都に向かえば何か分かるかもしれないからな」


だが次の瞬間、リオスが自分の耳を疑う様なセリフがマスターの口から飛び出て来た。

「貴方の身体に魔力が無い理由を知りたいなら、帝都に行くのがやはり手っ取り早いかもしれないな」

「……気づいたのか」

そうか、今は周りに他の人間がちらほら居る程度だから気が付かれたのかとリオスは納得したが、実際の所はそうでは無いらしかった。

「いや、昨日貴方を一目見た時から気付いていたよ」

「えっ……」

何で分かったんだ、と言う顔をするリオスにマスターは続ける。

「私も伊達に歳を取ってはいないから、目の前に現れた生物の魔力の大小がどれだけか位は分かる。

しかし、貴方は魔力が自分の身体に無いのに、その事を気にしていない様子だった。何か深い事情があるのだろうと言う事までは

分かったが、そこに私が理由を聞きに疑問を突っ込むのは野暮と言うものだろう」


そう言いつつ、マスターはズボンのポケットから1枚の折り畳まれている紙を取り出してリオスに差し出した。

「……これは?」

その紙切れはただの紙切れでは無い。むしろリオスがこれから向かう場所に必要な物だった。

「帝都に審査免除で入る事の出来る通行証だ」

「は?」

色々な感情がリオスの頭を駆け巡ってそんな声が口から漏れる。

「何でこんな物を貴方が? それよりも何故俺にこんな物を……まさか偽物……」

「帝都に最近用があってな。その時に発行して貰ったんだ。名前は書かない様になっているから貴方でも通れる様になっている。

心配は要らない。私の分はまた発行して貰えば良い。これはれっきとした本物だ。疑うなら今から騎士団に一緒に行って聞いてみるか?」

そこまで言うならトコトン……と言う事で、マスターとリオスは一旦馬車に乗り込む。


そしてこの町の騎士団の詰め所へ向かった。

「……本物だったとは」

リオスは物凄く複雑な表情になっていた。

「だから言っただろう」

「疑って済まなかった」

何処か勝ち誇ったかの様にそう言うマスターに、リオスは疑惑の念をかけた事を謝罪。

「いいや、こちらもいきなりだったから疑わない方がおかしいだろう」

だけど、こんな大層な物をポンと他人に渡してしまうマスターの意図が分からない。幾ら何でも都合が良過ぎ無いだろうか。

「……しかし分からん。俺に何故これを? まだその答えを聞いていない」


馬車に再び乗り込んでから出て来たその疑問に、マスターはストレートにこう質問で返す。

「貴方はもう気が付いている筈だ。自分がこれから何をするべきなのか」

「俺が?」

意味深なセリフに戸惑うリオスにマスターは続ける。

「そう。帝都に行って、貴方が如何言った行動を取れば良いのか。もうあなたは薄々それに自分でも気がついているんじゃないのか?」

「俺の取るべき行動、か……」

「うむ。私はその行動が少しでもスムーズに行く様に手助けをしただけ。だから、帝都に辿り着いた貴方が何をするかは、

昨日の夜に色々とお話を聞かせて貰ってから大体分かったよ」

貴方は頭が切れそうな人間だからな、とマスターは薄く笑った。


「……ひょっとして、俺と同じ事を考えていたりするのか?」

「さあ? それは私も人間の心を読める訳では無いから分からないさ。けど、今までの事件や事故をもう1度洗いなおしてみては

いかがだろうか。そうすればもっと自分のやるべき事が見えて来る筈だ」

「……重ね重ねの心遣い、感謝する」

そう言って白い手袋を外して右手を差し出したリオスの握手に、マスターはしっかり応じた。

「私は別にこの通行証以外何もしていないさ。貴方は自分が最も信じる事の出来る道の為に行動しなさい」

自分が信じる事の出来る道。

それを見つける為に、宿屋の目の前でマスターを降ろして貰った馬車の窓からその降りたマスターに手を振ってリオスは別れる。

そんな道が、自分がこれから向かうチェックポイントの帝都にある事を信じて。


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