A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第37話


クーノベリアの町に辿り着いた時には、もう時刻は既に夕方から夜になろうとしていた。

町に辿り着く少し前からアイヴォスの腹の虫が鳴っているし、馬も歩き通しで疲労を覚えている様だ。

(ここで報酬を貰ったら夕食を摂って、宿も取るとしようか)

しっかり食べてぐっすり寝る。

それが健康の秘訣であり、軍人である以上体調管理にはやはり気をつけるのがもはや癖になってしまっている。

軍の訓練ではわざと過酷な条件下で体力、気力、そして精神力を限界まで追い込んでから行軍する等の

ハードトレーニングがあったりするのだが、元々エリート養成コースの学校での訓練の毎日を

思い出してみればこれ位の空腹等アイヴォスにとっては何て事は無い。

しかし、それでも人間が活動するのならエネルギー補給に睡眠は大事だ。

人間の3大欲求の内の2つである食欲と睡眠欲を満たさなければ、突然死んでしまってもおかしくは無い。


なのでさっさと物資を届けて依頼を終わらせるべく、アイヴォスは町の入り口に向かってあの砦の男から

言われた通りにメモを見せる。

するとあっさりと町の入り口の門番は町の中に彼を通してくれたので、配達先の場所を聞いてから歩き出した。

その配達先である教会に向かう途中で、この町の町並みをじっくりと見る事が出来るので

アイヴォスは町の景色をその目と心に焼き付けておく。

(やはりと言うか……魔術がある事以外はヨーロッパの中世時代の様な町並みだな)

コルネールの武器が槍だった事、それからあの林の中のアジトで武装していた女の装備や、

砦の人間達の格好からして中世時代のヨーロッパの服装をイメージしていたアイヴォスだったが、

実際にこうして町並みを見る機会が出来た事でそのイメージをより強くする切っ掛けになった。


夕暮れ時と言うだけあって早めの店仕舞いを始める人間も居れば、夜の仕事帰りの人間達を

ターゲットにして今の時間から開き始める店もある。

所々では露店が出ていて何かの本やアクセサリー等を売っていたりするのだが、別に何かの

イベントが行われていた……と言う訳でも無さそうである。

町並みを見る限りではそこそこ大きな地方都市の規模らしいが、アイヴォスにとっては余りそう言う事は関係無かった。

食事を摂れる場所があって、眠る事が出来る場所があれば彼の場合はそこまで気にしないタイプだったので、

今は町並みを見て回るよりも先に物資であるこの薬を届けてからまたじっくり見れば良いと考えて教会に向かう。

(また何か依頼されるのか?)

依頼されるならされるに越した事は無いと思うのだが、今すぐに出発してくれと言うのはこの時間からでは

NGだったのでそう言った場合は断ろうと思っている。

とにかく行ってみなければどう言う展開になるかも分からないので、それなりの量の薬が入っているこの袋を

アイヴォスは肩に担ぎ直して確実に教会へと足を進めて行った。


「……捻くれてる?」

教会でアイヴォスが聞いたのはそんな情報だった。

「ああ。そいつは結構捻くれてるって言うか……ストレートに言えばこの世でも類を見ない程の

バカって言っても良いだろう」

配達先の教会で出会った男……何とトラの頭と尻尾を持っている、いわゆる「獣人」のその男も

その人物にはうんざりしているらしい。

そもそも何故こんな会話をアイヴォスと獣人の男が繰り広げているのかと言うと、この獣人の男から

また新たなミッションを頼まれたからであった。

そのミッションの内容は、あの薬が入っていた袋に今度は何と大量の札束を詰め込んで

それを次の町まで届けて欲しいとの事であった。


それは流石にセキュリティ的に意識が低過ぎるし、そう言うものこそ転送装置で運ぶべきでは無いのかと

アイヴォスは訴えたのだが、その転送装置が何と故障中なので止む無く札束を運ぶ事に同意せざるを得なかったのだ。

アイヴォスは金の入っている袋に目を奪われはしたものの、真面目な性格の為にその金に手を付けようとは思っていない。

そうなれば自分が今の今まで築き上げて来た信用がガタ落ちになってしまうからだ。

そして、今受け取ってしまうのは大金が近くにあると言う事で気が落ち着かないのでアイヴォスは

次の日の朝になってからと言う約束を取り付け、その日は宿へと向かう事にした。

(大量の薬に、大量の金か……)

この状況はそれこそドラマや映画等でありきたりな、麻薬を運んだ運び屋や売人がその麻薬と

引き換えに金を渡す展開そのものでは無いか、とアイヴォスは考えてしまう。


この世界にも麻薬があるのかどうかは不明だが、もしもそうだとしたら自分はとんでもない事に

加担している事実だと今更ながら考えてしまう。

かと言って詮索すればまずいだろうと思ってしまうので、そのちぐはぐな感じがストレスだった。

(さっきの薬が満載の袋、それこそこのヴァーンイレスの騎士団に渡すべきだったか……?)

でも、ヴァーンイレス騎士団の制服が分からない。

ヴァーンイレス騎士団の制服とカシュラーゼ軍の制服の情報がまだ手に入っていないし、その他に傭兵の類も

居るかも知れないので武装している人間達を一目で見分けるのは今の段階では無理な話だった。


A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第38話へ

HPGサイドへ戻る