A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第38話


だったらその見分けがつく様にすれば良いだろう、とアイヴォスは町並みを見物しつつ宿屋への道を

近くの町人に聞くついでにそれ等の情報も手に入れる。

「ヴァーンイレス王国騎士団は青い軍服が目印だよ。ほら、あそこに立っているのがそうだし。

カシュラーゼの連中は灰色の軍服に銀色の鎧を着てるのがそうさ。その鎧の胸当てには紋章が

入っているからすぐに分かるよ。……ほら、あれがそうだよ」

宿屋へのルートを聞いた露店の女主人にヴァーンイレス王国とカシュラーゼの服装の話を振ってみると

そんな答えが返って来た。

その女が視線を向ける先をアイヴォスも見てみれば、確かに女が言う通りの服と装備を身に着けている

それぞれの国の人間達や獣人達が居る。

ちなみに獣人と言うのは動物と人間の合体種族だと女は教えてくれた。

(となれば、獣人は地球で言う所のハーフやクォーターのジャンルに分類されるのか)

頭の中でそう結論付けたアイヴォスは、やはりここは地球では無いとますます確信する。

少なくとも、地球で動物と人間が合体して生まれた子供なんて見た事が無いからだ。

やはりここはファンタジーな世界なのだな、と実感しつつ女に礼を言って宿屋へと向かったアイヴォスだったが、

その宿屋で思い掛けない事件に遭遇する事になろうとはこの時点では知る由も無かった。


カシュラーゼの連中に目を付けられない様に、ローブに付いているフードを被って早足で町中を駆け抜けてから

宿屋へと辿り着いたアイヴォスは、今はそのフードを取ってローブも脱いで与えられた宿屋の酒場になっている場所で

食事を摂っていた。

地球で言う所の、ホテルの中で営業しているレストランの様なものだろう。

経営者が違うのかどうかは知らないが、一般企業で働いた事の無いアイヴォスは経営学に関しては

「ランチェスターの法則」が経営学に応用されている事位しか分からないのだった。

別に誰がどうやって経営していようが、しっかり食事が摂れてそれなりのサービスをしてくれるのであればアイヴォスはそれで良い。

一流ホテルには遠く及ばない内装の汚さも、それから酒場のウェイトレスの不愛想さも別に気にしてはいない訳だし、

コルネールから受けた依頼とあの砦で受けた依頼の報酬で泊まれる部屋と食事を用意してくれれば文句は無い。

勿論これから先の事を考えて、最低限のランクと食事で構わないとアイヴォスは願い出たのだが、この2つの依頼を

クリアして得た金はその最低限のランクの料金をギリギリで上回っているだけだった。

だから今の所持金に余裕は無いが、それでも依頼されたあの金を明日受け取って盗む……なんて事はアイヴォスは

自分のプライドが許さない。これ以上追い詰められてしまってどうしようも無くなったのならまた心境の変化は

起こるかも知れないが、今はそこまで追い込まれていない。

そうして最低ランクではあるもののきちんとしている料理を堪能し、同じく最低ランクではあるが個室となっている

宿屋の部屋へとアイヴォスは向かった。


最低ランクにふさわしく、掃除しきれていない部屋に薄汚れたままのシーツではあるものの寝られるだけマシだと思い、

そのベッドの前に立ち軍服のジャケットのボタンを外して上着を脱ぐ。

それから刀を軍服のベルトから外してベッドの脇に2本とも立て掛け、手袋も外してズボンのポケットに突っ込んで

靴のままベッドで眠る事にする。

「ふう〜っ」

短い様な、でもやっぱり長かった1日。

しかしその1日の内容は、今まで自分が生きて来た人生の中で最も濃密で未体験の事ばかりで

思考回路が追い付かない事の方が沢山だった。

この世界に居る限りは今まで当たり前じゃなかった事が段々当たり前になって行って、そしてどんどん

この世界に自分も馴染んでしまうのだろうか?

アイヴォスはそう考えてしまう。


(この世界で生き続けると決めた人間なら話は別だが、あいにく私はまだまだ地球でやりたい事が沢山有るのでな)

だから「馴染む」のは良いとしても「この世界の住人として生きる」事とはイコールでは無い。

地球で言えば、それこそ旅行で向かった日本で「日本は凄い!」と思った事はあっても「日本に住みたい!」とは

ならなかったのがその証拠であった。

全く「住みたくない」と思わなかった訳では無いが、やはりヨーロッパで生まれてヨーロッパで育った人間なので気候も

食べ物もそれから食事も生活習慣も、全て自分が今まで生きて来たヨーロッパの水が合っているのだとアイヴォスは

感覚で分かっていたから「日本に住む」とは思わなかったのである。

この異世界エンヴィルーク・アンフェレイアも同じだ。

そもそも魔術に関しては一体何をやっているのかが分からないし、魔術を使われても自分には効果が無いと

判明した所で異世界の魅力に関してはアイヴォスの中で半減してしまった。

それにこの世界に自分から望んでやって来た訳でも無ければ、何故自分がこの世界に呼ばれたのかも分からない以上

この世界で住み続ける理由が見当たらない。

「2度と地球に帰る事が出来ない」と分かったら、その時はその時で住み続けなければならないと言う事になるのだが……。


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