A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第34話
そんなフルコンタクト空手を習い始めて、今でも軍の非番の時にはたまに空手の動画を見たり
自分の入門している空手道場に向かったりと言う様に今でも空手のトレーニングは怠っていない。
……のだが、そうした休日の使い方をしているアイヴォスはもう1つ興味があるものと習得しているものがあった。
(私は剣の扱いもそこ等の者には負けないと自負しているが、ヨーロッパの剣術と日本の剣術は
また違うからな。それから忍術はまた日本に行った時に再び体験したいものだ)
日本人では無い自分は、外国人が全員揃って「忍者」と言うキーワードに反応して喜ぶと
思って欲しくないとは思っているものの、日本の文化に興味があるアイヴォスが言っても説得力が
まるでゼロなのは明らかだった。
剣の扱いに慣れている、と言うのはアイヴォス自身が空手以外にも習っている武術があるからだ。
それは空手と同じく日本発祥の剣道。
しかもただの剣道の道場では無く、習い始めてから知ったのだがスポーツ用では無く実戦用のものだった。
そこの道場師範はアイヴォスが習っている空手道場の師範である日本人の知り合いである、これまた日本人。
その日本人は警察官ご用達の道場を日本で開いていたが、人間関係のもつれで日本を離れて
ヨーロッパまで単身渡って来てヴィサドール帝国で剣術道場を開いているのだと言う。
アイヴォスが空手を始める時に「日本の文化に興味がある」と空手道場の師範はアイヴォスから
聞いていたので、それならばと空手を始めて1年経過した時にその剣術道場の日本人を紹介したのだ。
そして空手と一緒に剣道も習い始めたと思ったアイヴォスだったが、初めてから半年後に「これは厳密に言えば
スポーツとしての剣道では無く、実戦用の剣術なんだ」と師範から教えられてびっくりしたものだった。
今でこそ剣道はスポーツとしての側面が強いものの、その日本古来の剣術をスポーツにしたものなので
元々実戦用だと言うのに変わりは無い。
現代の日本の武道である剣道のベースとなった古武術の1つとして知られており、60cm以上の刃長がある刀を
両手で持つ。そして自分も相手も盾を用いずに戦うスタイルは非常に珍しいもので、それこそ中世のイタリアや
ドイツ等の両手剣による剣術位しか他には無いとまで言われている。
勿論あくまでも剣術の道場である為、今のアイヴォスが腰のベルトからぶら下げている様な
真剣を使って稽古する事は無い。
日本で武器としての刀剣が制作され始めたのは紀元1世紀以降とされているが、その時代は詳しい事が
分からないので詳細は不明である。
分かっているのは古墳時代中期に、今の茨城県に日本初の剣術の流派が生まれた事だ。
そこから7人の神官が東国を中心にして、古くから伝わる剣術を広めて行った。
平安時代になるとそれまでのストレートな形状の剣から、人を斬りやすい形状で少しカーブしたシルエット、
更に馬の上でも戦いやすくする為の品質改良がなされた、今の日本刀の元になる剣が登場し始める。
平安時代の中期になると今の様に柄が長くなり、それまでの片手持ちから両手持ちのスタイルへと
剣術も変化していった。
この頃にこうして剣術は確立されたが、この時代は弓術や馬術が重要視されていたので剣術はそれ程
重要なものだとは思われていなかったのだ。
剣術が前面に押し出される様になったのは、長い戦いの歴史である室町から戦国時代にかけての事。
足軽や雑兵と言う様に軽い装備で動き回る歩兵が戦場に登場し、刀や槍で白兵戦が至る所で生じた事に
よって本格的な剣術の登場となったのだ。
だが、それでも剣術が「前面に押し出されただけ」で「主体」となった訳では無い。
戦場ではやはり飛び道具、それから槍や薙刀と言う様にリーチのある武器が優先的に活躍の場を与えられていた。
今の戦場でも白兵戦で戦うより銃火器を駆使するのと同じ事である。
そして戦国時代も終わり、安土桃山時代に刀狩りが行われたもののその後の江戸時代にようやく剣術が
飛躍的に発展し始める。
この頃は既に流派が700以上存在しており、それに加えて300年以上の平和な時代が続いた事で精神鍛錬に
重きを置く流派が出現した事で武術が昇華する切っ掛けになった。
木刀の試合では死傷者が出ると言う事で幕府が禁止令を出し、形稽古が中心となった後に竹刀と防具が発明されて
安全性が重視される様になった。
これが剣道の今のスタイルに繋がっていると言える。
また今の剣道は一般人も多数習っているものの、この頃以前は武士の特権とされていたのが剣術だったので、
農民や町人の間で広く剣術を学べる環境が出来た事も今の剣道の始まりであると言っても過言では無い。
こうして江戸時代が過ぎて行くと、幕末になり倒幕運動が盛んになった事で斬り合いや暗殺が多発し、
アイヴォスが習っている様な剣術が実用性を帯びる時代になった。
しかし明治時代に入ると武士階級が廃止され、それから欧米の文化が入って来る様になり剣術は不要だとして廃れて行く。
それでも1877年の西南戦争で抜刀隊が活躍して剣術の価値が見直された他、警察で剣術が盛んになったり
帝国陸軍ではフランスから教官を招いてフェンシングを習ったり、日本の剣術を元に片手軍刀術を制定したりと
剣術にも様々な動きが生まれた。
そして20世紀目前の1895年には「大日本武徳会」と呼ばれる日本武術振興の為の団体が設立され、
段位や学校の授業でも行われる指導法やルールが整備されて今日(こんにち)の剣道に繋がったのだ。
ちなみに剣道も空手と同じく1度はGHQによって武道禁止の命令で出来なくなってしまったが、禁止令が解かれた後の
1952年に「全日本剣道連盟」が発足し、剣術が稽古出来る環境に再び戻った事で今も剣道の歴史が続いているのである。
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