A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第35話
そんな事を考えながら馬を進ませていると、意外と早めに地図の場所に着いてしまったのでアイヴォスは拍子抜けだった。
それ程までに色々と考えていたのか、あるいは自分が予想する以上に近い場所にその目的地があったのか。
アイヴォスの体感時間ではあの抜け道のそばから出発して約30分位しか経っていないそのアジトは、
アイヴォスが進んでいた大きな街道から脇道に逸れて行くと見えて来た古い砦だった。
(あそこだな……)
脇道に逸れると言っても街道からその砦は十分大きく見える距離だし、大きさもそれ程では無いみたいなので、
さっさと用事を済ませて報酬を貰うべく馬を止めて砦のそばにある木に括り付ける。
そして馬から降ろした荷物を持ち、砦の前に向かう。
(入り口はあそこか?)
若干薄暗くて分かり難いものの、確かにそこには砦の入り口となっている木製のドアが存在していた。
そのドアをコンコンとノックすると、10秒程経過してようやく1人の男が姿を現した。
「……何だお前は。何か用か?」
寝起きなのかは知らないが何だか不機嫌そうだ。
しかしそんな事はアイヴォスには関係無いので、手早く用件を済ませるべく口を開いて簡潔にその内容を伝える。
「コルネール部隊長の使いで物資を届けに来た。一緒に確認して欲しいのだが」
「物資……あーそう言えばそうだったか。取りに行くからちょっと待ってろ」
そう言って再び砦の中に引っ込んだ男は、今度は1分位経って物資を運ぶ為の人員と一緒に戻って来た。
「準備は良いぜ。何処にある?」
「あそこに繋いである馬の所だ」
と言う訳でアイヴォスが案内して、そして馬に乗せていた木箱を最初に出て来た男の仲間達が持って行く。
「コルネール部隊長からのメモは見た。ほら、これが約束の報酬だ」
男はポケットから丸めて紐で括ってある数枚の札をアイヴォスに手渡す。
「どうも。では私はこれで」
そう言って馬に乗ろうと踵を返したアイヴォスだったが、男からストップの声が掛かる。
「あーちょっと待ってくれ。俺達からも頼み事をして良いか?」
「何だ?」
アイヴォスにもし仕事があったら回す様に、と木箱と一緒になっているメモの内容に書かれていたのだろう。
その砦の責任者であろう男はアイヴォスに次のミッションを依頼する。
「この砦からずっと東……つまりエスヴァリーク方面に馬で半日掛けて行った場所にある、クーノベリアの町に
向かって、そこに荷物を届けてくれないか」
「どんな荷物だ?」
「薬が入ってるんだ。色々と物資が不足してるから俺達も運んでるんだけど、なかなか手が空かなくてな。
だから丁度良いんだけど……引き受けてくれるか?」
「分かった。それなら私が旅の途中に寄るつもりだった町だからついでに届けよう」
「そうか、助かる!」
旅の途中と言うのは嘘だが、行く当ての無い旅だからこそ行く当てが出来たのならそこに向かおうと思うアイヴォス。
目的地がある方が行動する気が明らかに起きるので確かに丁度良かった。
なのでこの依頼も2つ返事で引き受けたアイヴォスは、男が砦の中から持って来た薬が満載の大きな袋を
受け取って再び馬にまたがる。
「そいつは町の外れにある教会でガキどもの面倒を見ている筈だから、この袋をそのまま渡してくれりゃそれで大丈夫だ」
「ああ分かった。それと質問なんだが、その町はカシュラーゼの連中に占領されている状態なのか?」
これだけは聞いておかなければ、もし届けに向かった先でカシュラーゼの連中に下手に目をつけられるかも知れないのだ。
だから下手な行動は取れないのだが、男は予想外の事を言い出した。
「ああ、そこなら俺達が既に勝ってるから問題無いぜ」
「そうなのか?」
「ああ。だからこのメモを町の入り口に居る門番に見せてやれば何の疑いも無く通してくれる筈だからよ」
男が差し出したメモを受け取り、その中身をアイヴォスはとりあえず確認してみる。
「薬は袋の中に入っている。この男は運び屋として雇っているので教会まで案内してくれ……か」
「ああ、それなら問題無いだろ?」
「大丈夫だな。それでは私はこれで」
「ああ、気を付けてな」
運び屋と言うと映画とかで良くある何か怪しい品物を運んだりするイメージが強いが、考えてみれば今の自分が
やっている事も運び屋の仕事に変わりは無いとアイヴォスは考える。
もっと言えばファーストフードのデリバリーの人間も運び屋の一種と言えるだろう。
だったらその運び屋の仕事を自分はしっかりこなすだけだと思い、再びアイヴォスは馬を走らせる……筈だったのだが。
ぐぅ〜〜〜〜〜〜……。
「……………………」
「……………………」
「……す、すまないが食べ物を少し分けてくれないか。持って来たばかりで悪いのだが……」
「……ああ、待ってろ」
そう言えばアーシアのログハウスで目覚めた時から……いや、それ以前に執務室で書類整理をしていた時から
何も飲まず食わずの状態だった事を、自分の身体がこうして腹の虫と言う形で気まずさと同時に知らせてくれたのだった。
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