A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第25話
「あー、そりゃ危険だぜ」
「何故だ?」
理由も言わずに危険だ、と言われれば疑問が出て来るのは当たり前の話である。
その疑問の答えはギルドのシステムそのものにあった。
「ギルドの登録の時には色々と個人情報を提出しなけりゃならねーんだけど、その中にギルドで
測定して出た魔力の数値を書く欄があるんだよ」
「……成る程な」
それだけでアイヴォスは理解出来てしまった。
「要は、その欄に書く為に魔力の検査をしてそこで数値を出す。だが私の身体には魔力が無いから、
そこで検査をすればそれがばれてしまう。そうなると今度は怪しまれ、私はカシュラーゼの人間達に目を付けられてしまう。
つまり地球に帰る為の行動を取るどころか、カシュラーゼの人間に捕まってしまい人体実験を
される事になる……その可能性があるんだろう?」
コルネールはアイヴォスの回答に頷く。
「俺が説明しようと思ってたのに……まぁ良いや、お前の言った通りだよ。ギルドで登録を済ませなければならない必須条件として
魔力の測定があるから、そこにお前みたいな魔力を持っていない人間が向かえばどうなるか予想出来んだろ?」
「つまりそう言う事か……」
やはり何でもかんでもそうそう上手くは行かない様だった。
「俺が頼んだ物資の運搬依頼はギルドを通していない。個人的にそうした依頼を頼む連中も多いんだが、大多数の人間は
人手が集まるのを期待してギルドにそうやって依頼を頼むんだ。だけど俺達ヴァーンイレス解放軍は結構追い詰められている
状況だからな。人員はどんどん減って行くしその人員を補充する為の金も無い。かと言ってギルドに依頼を出すのは金が掛かる
システムになっているんだ。仲介手数料って言う名目でギルドの連中は掻っ攫って行きやがる」
段々と愚痴になって来たコルネールの脇腹を、アーシアがストップを掛ける意味も込めて脇腹でつつく。
それに気が付いたコルネールはハッとした顔つきになって愚痴を止めた。
「あーわりぃわりぃ。どんどん話が逸れちまったな。つまりそう言う事だから俺達はお前に物資の運搬を依頼しようと思う訳だ。
金が無いって言ってもお前が少しの間は生活出来る位の金は渡すつもりだぜ?」
「……ああ、それならそれで私は一向に構わないが」
「それじゃ交渉成立だな」
仕事の当てはひとまず出来たが、ギルドに登録出来ないと言う事は自分でその依頼の後は仕事を
見つけなければいけないと言う事になる。
「ギルドの仕組みは理解出来たが、そこを通せないと普通に仕事を請け負う事が出来ないって言うのも厄介な話だ……」
ポツリとそう呟き、それでは出発しよう……と思ったアイヴォスだったが今の話を聞いていたアーシアが
ふと思い出した事があるらしい。
「……あれ、そう言えばさ。魔力が無いって言うその人の話ってこの人にも当てはまるのかな?」
「何の話だ?」
この人と言われたアイヴォス本人がそう問い掛けてみると、アーシアはソルイール帝国に現れたと言う殺人犯について
さっきと同じく傭兵の知り合いから聞いたと言う事を伝える。
「ソルイール帝国の騎士団長殺しと英雄殺しの男に関して、ちょっと気になる情報を聞いたのよ、私。ソルイール帝国で
騎士団長と英雄が死んでいた場所は、色々と研究をしていた帝国所有の施設の地下にある地下水路の、
更に奥にある扉の向こうだったらしいの。その扉って言うのが、普段は魔力で封じられている筈の開かずの扉……つまり
部外者の侵入を防ぐ為に高度な封印魔術を掛けていたらしいんだけど、その男は扉を普通に開けて中に侵入して
そこで騎士団長と英雄を殺したって話なのよね」
コルネールがアーシアの話に対して自分の予想を疑問形でぶつける。
「え? と言う事はそれって魔力の封印が破られたって事なのか?」
「そう……なるのかな。私もその傭兵の知り合いから聞いただけの話になるからハッキリと確かな事は言えないんだけど、
魔力で封印されている筈の扉を開ける事が出来たって言う事はその男は封印魔術を解くだけの魔術を使えるのか、
あるいは魔力が無いから封印魔術も意味が無いのか……と言う事位しか可能性としては考えられないわね」
アーシアは腕を組んで自分の聞いた話を纏めたものの、横で聞いているアイヴォスにとってはこうした話は
さっぱり疎い情報なので何とも言えない。
ただ、この話から分かるのはもしかしたらその魔力云々の話が自分にも同じ事になるんじゃないのか……と言うものだった。
「もし仮に、私がその男と同じ様に魔力がどうのこうのと言うのであれば……それを調べた方が良いのか?」
「その方が良いかも知れないけど、でもどうやって調べようかしら?」
この後に自分が旅立つのは良いとしても、もし旅立った後で自分の身体に色々と不都合や謎の現象が出て来てしまう様な
事態があればそう言う事はなるべく避けておきたいのがアイヴォスの本音だった。
(敵を知り己を知れば百選危うからず、か……)
日本語の勉強をしている時に知った「KOTOWAZA」を、アイヴォスは頭の中で思い出していた。
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