A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第22話


「それではまず、なるべく多く覚えている方から説明が欲しい」

「それだったらまずはエスヴァリークの奴だな。こっちの奴は武術大会に出場したんだよ、エスヴァリークで

1年に4回行われている奴にな」

「武術大会か……」

「ああ。魔力を持たない人間と言う事で最初は怪しまれたらしいけど、武術大会自体は一般参加も可能だから

特に参加する事自体に問題は無かったらしい。けど、そいつの戦い方はこの世界の人間とは明らかに違っていた」

「どんな?」

そこまで言うのであればさぞかし凄いのだろうな、とアイヴォスは話の続きを期待して待つ。

「この世界の人間が戦う時は一般的に剣や槍や斧等の武器を持つのが当たり前だ。あーっと……でも、軽い喧嘩や

酔っ払いのいざこざとかなら素手での取っ組み合いとか殴り合いとかもある。けど、ここでの戦うって言う意味は戦場に立つ

騎士団員だったり各地を放浪している傭兵だったりの話だ。武器の扱いに慣れていない奴は魔術を使う。

両方出来るなら両方とも使う。でも……」


そこまで話を引っ張ったコルネールは一旦セリフを切って、やや興奮気味な口調でその人間の戦い方をアイヴォスに伝える。

「その男は素手で決勝トーナメントを勝ち抜いたんだ。武器を持った相手にも1歩も退かずに、むしろ攻撃をスルリと

かわしてから反撃に移るまでが凄く上手かったらしい。あれは武器を持っている相手と普段からやり合ってなければ、

そうそう出来ない動きだとその男の試合を観戦した奴が言ってたぜ」

「男か。どんな容姿だった? 背格好とか年齢とか髪の色とか……」

武器を持っている相手に素手で立ち向かうのはかなり難しい。

それこそ後ろから一気に近づいて抑え込むか、こちらも複数人で一気に抑え込むか等で

対処するべきなのだが……と考えつつも、アイヴォスはなるべくその男の情報を聞き出しておいた方が後々

出会える可能性が高くなると踏んで更に質問をする。


だが、コルネールからの返答は「曖昧にしか分からない」だった。

「あーそれなんだけどな。俺は実際にその闘技場で武術大会は見てないんだよ。丁度終わった後にその武術大会の

話を聞いてその中で更にその素手で戦った奴の話も聞いたんだ。だから不確定情報になるけど良いのか?」

「構わん。情報はあるに越した事は無いからな」

何のためらいも無く貪欲に情報を求めるスタイルのアイヴォスに、コルネールは「じゃあ全部話してやるよ」と言って

話せるだけの情報を提供する。

「その男を近くで見た奴の話によると、男は短めのオールバックの茶髪で40代後半位。背格好は引き締まった

感じだけど余り身長は高くは無い奴で、戦う時には肘と膝をかなり使ってスピードとパワーを両立させていたらしい」

「肘と膝……」


この時点でアイヴォスが真っ先に思い浮かべたのが、東南アジアのタイで発祥したムエタイだった。

ムエタイは他の格闘技と比べて圧倒的に肘と膝を使う事が多く、アイヴォスの習っている空手の膝蹴りとは

フォームもまた違うものなのだ。

肘による攻撃も空手にはあるものの、実際の試合ではフルコンタクト空手や極真空手で認めている団体や

流派もあれば反則技として使用禁止となっている流派もあったりするので流派によって肘への考え方は違う。

正式には猿臂(えんぴ)と言い、アイヴォスも猿臂に対しては苦い思い出がある。

記念すべき……とは言えないかも知れないが、最初の1度目の肘のテクニックの思い出は師範にアイヴォスが

ハイキックを出して、師範が肘で受け止めると言う動きを「軽く」やって貰った事だった。


勿論最初なので師範の肘でのブロックには手加減があるものの、なかなかのハイキックを繰り出したアイヴォスが

肘で軽くブロックされただけでもかなりの衝撃を「アイヴォスが」食らったのは今でも覚えているらしい。

アイヴォスが習っていたのはフルコンタクト空手なので、実際に試合で肘でのブロックやカウンター……それこそ

アイヴォスの思い出の様にハイキックだったり回し蹴りを肘で迎撃するテクニックも存在する。

この様に肘だけでもかなりの威力があるのだが、空手はその肘を多用しない。

むしろ使うのは拳による突きの方が多いので、その男が使っていた素手の格闘術は空手では無いと

アイヴォスは考えていた。


しかし、その武術大会の話にはまだ続きがあるらしい。

「でな、その男は結局トーナメントを制覇して優勝したんだけどその後がまた凄かった。トーナメントの優勝者には

特別戦として、エスヴァリーク帝国の騎士団長と戦う権利が与えられるんだ」

「騎士団長とか。そしてその口ぶりからすると、まさかその男は……」

アイヴォスの先を見越したセリフに、コルネールも頷いて結果から話す。

「ああ。勝っちまったんだよ騎士団長に。それもそいつの圧勝で」

「……」

その相手になった騎士団長については情報が無いのでアイヴォスは全く知らない。

地球の軍隊の階級で言えば将軍クラス、それも大将を務める存在なのは間違い無い。

と言う事は引退した老人の騎士団長なのか? と思いつつエスヴァリークの騎士団長についてアイヴォスは聞いてみる。


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