A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第23話


「騎士団長と言うのはそれだけの肩書きを持っているから強い人間なのだろう? どんな人物だ?」

「騎士団長は……確かまだ若いぜ。20代中盤だった筈だ。確か元々傭兵で、国から任務を請け負って

その手柄と武術大会の成績で騎士団長になったって話だ、5年前にな」

20代半ばと言う若さならば余程の実力を持っているのだろう。

しかも騎士団長になって5年と言う事は実戦経験も部隊の指揮の経験も豊富だろうと考えるアイヴォスだが、

考え方を変えてみるとまた別の可能性が頭の中に生まれる。

(騎士団長だからと言って絶対に「騎士団の中で1番戦いが強い」とは言えないかもな。勿論武術の腕も

あるだろうけど、「強い」って言うのは統率力に判断力、それから機転の利かせ方に部下の士気を上げる

カリスマ性等、全てをひっくるめた上でトータルバランスが高いクオリティで纏まっているからこそ、

騎士団長になれたのかも知れないし……)


でも、先ほどコルネールが「元々傭兵で、国から任務を請け負ってその手柄と武術大会の

成績で騎士団長になった」と言っていたからやはり実力はあるのだろうと考え直す。

「それだけの実力を持っている騎士団長に圧勝するなんて、どう言う人物なのかやはり興味があるな」

「ああ、俺もある」

20代半ばの人間の動体視力や身体の動きのキレと、40代位の動きを考えてみると確実に40代の方が衰えている筈だ。

ならばそれを経験とテクニックでカバー出来る程の実力差だったのだろうか?

ますます謎は深まるばかりだ。

しかも、その男についての謎はまだあるらしい。

それはアイヴォスのこの質問が発端だった。

「その後の男の足取りは分かっているのか?」

「いや、それが武術大会の後に姿を消しちまったらしくて……しかも今もまだ見つかっていないんだとよ」

「姿を消した?」

「ああ。だから噂でしか聞いた事無いんだよ俺も。その後の話だとエスヴァリーク帝国中に手配書が配られたって言うから

何かやらかして逃げ出したんじゃないかと思うけど、これだけ時間が経ってたら見つかる可能性はもう低いんじゃねーのかな」

もしかしたら物資を届けに行った先で会えるかも知れねーけど、と最後にコルネールが付け足したものの、

そのコルネールのセリフが願わくば現実のものとなって欲しいのがアイヴォスの今の気持ちだった。


続いてもう1つの魔力を持たない人間の話に移る。

「それじゃ次……このソルイール帝国だったか。こっちの方でも魔力を持たない人間が現れたらしいと

言う話だが、それは同一人物なのか?」

コルネールは首を横に振る。

「こっちも噂だけだからなー。同一人物かどうかは分からないけど、共通する部分ならあるぞ」

「ふむ。それは?」

何かと思って聞いてみたまでは良かったが、この後にとんでもない事実がコルネールの口から明らかになる!!

「帝国騎士団長を倒したんだ」

「え、また?」

「そう。しかも武術大会じゃなくて実際の戦場で、ソルイール帝国の英雄とまで言われていた若い奴と一緒に、

何らかの理由でその魔力を持たない人間を追い詰めたまでは良かったんだが返り討ちに遭って2人とも殺されてしまったらしい」

「え……っ?」


アイヴォスも絶句してしまう。

「それは確かエスヴァリークの武術大会よりもずっと前の話だろう? となればそこで殺人を犯してしまったから

その男がエスヴァリーク帝国に流れて来たと言う話か?」

そう考えるのが自然だと思うアイヴォスだが、コルネールが言うにはどうもそうでは無い様だ。

「ん……そこまでは分からないけど、その2人を殺したって言う男はもっと違う戦い方をしていたらしいから

また別の人物じゃないかなーと俺は思ってるけど」

「別の? それは肘と膝を使う戦い方では無いのか?」

その話だと、魔力を持たない人間は過去に2人居たと言う事になってしまう。


これはもっと詳しく聞いておかなければならないなとアイヴォスは思うのだが、その詳細は今まで男2人の会話を

ずっとそばで聞いていたアーシアの口から語られる。

「あれ……それって何か独特なポーズが特徴的な戦い方をしていたって言う人の話じゃない?」

「知ってんのか、アーシア?」

「うん。ソルイールで傭兵の活動をしていた知り合いが話してたよ。その人が今まで見た事の無い独特な

構えって言ってたわ。結局の所は私も又聞きだけど、その私も未だに覚えてるから」

「では、私にその構えを見せてくれないか?」

アイヴォスの要望にアーシアはスッと椅子から立ち上がり、未だに覚えていると言うその構えを聞いた話の

イメージだけでやってみる。

「えっと確か……右腕をこうやって内側に、左腕を外側にして両腕をクロスさせ、それぞれ反対側の手で

耳を覆うってものだったわよ、私が聞いたのは」

「……何だ、その構えは……」

アイヴォスが思わず口に出してしまう程、確かに独特なそのポーズ。

空手ともボクシングともムエタイとも違う、アイヴォスでさえも今までに見た事が無い構えのポーズだった。


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