A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第20話


「魔力が無い人間の噂は前々から聞いていたが、まさか本当に実在するなんて思っても見なかったぜ」

「え……?」

「ちょ、ちょっとそれってどう言う事よコルネール!?」

アイヴォスは思わぬコルネールのセリフに呆然としていたが、アイヴォス以上にビックリしていたのは

コルネールの元彼女のアーシアだった。

「どう言うって言われてもそのままの意味だ。前に別の国で、魔力を持たない人間が現れたって言う話を

俺は聞いた事があるんだよ」

コルネールも槍を下ろし、目の前に立っているアイヴォスを訝しげな目つきで見つめている。

「……こりゃあ、相当な事情があるみてえだな。やっぱり話し合いすっか」

「あ、ああ」

魔力が無いと言う事はそんなにも珍しい事らしいのだが、今のアイヴォスにとっては自分の他にも魔力を

持たない人間の存在がコルネールの口から出て来ただけでかなりショッキングな出来事だった。


アイヴォスがコルネールを軽くあしらって終わった手合わせはそこで終了。

再びログハウスの中に戻り、改めてお互いに自己紹介をする。

「私はヴィサドール帝国陸軍所属、アイヴォス・ソリフォードだ」

「俺はコルネール。コルネール・シュトルンツだ。ヴァーンイレス解放軍の第1部隊長だ。よろしく」

改めて自己紹介を終えたは良いものの、やはりコルネールからしてみればアーシアと同じ様に魔力を

持たない人間のアイヴォスに興味津々の様である。

そのアイヴォスが先に口を開く。

「よろしく。それで先程、私以外にも同じ様に魔力を持たない人間の噂を聞いた事があると言っていたな。

それは何処で聞いた? どれ位前に聞いた? 色々とその辺りの事情を教えて欲しい」


アイヴォスは自分らしく無いややせっかちな態度でコルネールにその情報を求めるが、コルネールは

そんなアイヴォスを手で制した。

「おいおいちょっと待ってくれ。いきなり色々と聞く前に、まずはあんたが一体何者なのかって事を

俺がもっと聞く方が先だぜ。えーっと何だ……ヴィサ何とかって言う国の軍人なのか?」

「ああそうだ。ヴィサドール帝国陸軍所属。しかしそのヴィサドール帝国はこの世界には

存在していない国だから、私はどうやら違う世界からこの世界に何らかの原因でやって来てしまったらしい」

何処か淡々とした口調で、しかししっかりと自分の身分を明かして今までの出来事を話すアイヴォス。

「何らかの原因って?」

「それは私にも分からん。それが分かれば苦労しないのだが……分かる事と言えば私は自分の執務室で書類の

整理をしていた。そしてその時に机の下で何か光り輝く物を見つけ、それを取ろうと手を伸ばしたら輝きが

大きくなって大きな光になり、私を飲み込んだ。それで気がついたらそこのベッドに寝かされていたんだ」


椅子がもう1つ追加された丸テーブルの椅子の1つに座りながら、左の親指で背中越しにベッドを指し示すアイヴォス。

「何か信じがたい話だぜ」

「私が1番信じがたい。今だって半信半疑の状態だがここまで覚めてくれない夢はそうそう無いだろうし、

夢にしては感覚もリアル過ぎるからな。その前に私はこの外に倒れていたらしく、アーシアが私をベッドまで

運んでくれたらしいから感謝している」

「ふぅん、なる程なぁ。それで帰る手段とかは分かっているのか?」

コルネールの質問にアイヴォスは首を横に振る。

「まるで分からない。そもそも私がこの世界で目を覚ましてからまだ1時間位しか経っていないのだし、行動範囲も

このログハウスの中と周りだけだ。アーシアに相談してみた所、色々と案を提示してくれてな。これから私は旅立って

エスヴァリーク帝国に行く予定だ」

「エスヴァリーク……それはカシュラーゼ絡みか?」


アーシアの方に顔を向けてコルネールがそう尋ねると、アーシアは首を縦に振って肯定する。

「ええ……ほら、カシュラーゼの連中はこの人みたいに魔力を持たない人間が居る……なんて事になったら

真っ先に狙いそうな感じがするから。だからそう言う人達に狙われたら色々と大変そうだし、エスヴァリークなら

この国から陸地で行けるルートで1番安全かなって」

「そっか。それもそうだよな。でも何で陸地なんだよ? ワイバーンとか使えばひとっ飛びじゃねえの?」

心底不思議そうな口調でコルネールがまた質問するが、アーシアは何処か哀れみの色が混じった視線を

アイヴォスに向けて理由を話す。

「違う世界から来ちゃった人みたいだから、この世界のお金を持ってないんだって」

「あ……」

納得した表情でコルネールも頷くが、頷いた所で金や食料が手に入って来る訳でも無かった。

「働き口も無いみたいだから、せめて移動手段だけでも……と思って余っている馬をこの人に渡そうと思ってるの。

乗馬の経験もあるみたいだし。そして余り大っぴらに魔力が無い人間だとか違う世界から来たとか話しちゃうと、

カシュラーゼの耳に入ったら大変だからそっと出て行かせようと思ってね」

「うーむ……」

腕を組んで考え込むコルネールだが、1つ頷くとアイヴォスに提案をし始めた。


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