A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第50話


「私は元々、その大火事が起こったと言う屋敷の使用人でね。家庭の事情でそこの屋敷を

辞める事になってしまったのだが、そんな私を「戻りたくなったら何時でも戻って来い」とそこの

旦那様は送り出してくれたんだ。まずそこまでが2年半前までの話になる」

ここまでは良いな? とマスターが聞くのでリオスは無言で頷いて続きを促す。

「それから半年後、私は家庭の問題も片付いたのでその旦那様にもう1度仕えようと屋敷に向かった。

しかし……旦那様に挨拶に行った所で、私は旦那様が目の前で殺される場面を目撃してしまったのだ」

「殺された?」

「そうだ。喉をナイフで一突き。しかもかなり手馴れた動きだったよ」

そうなると、あの時自分が聞いたあの事件とはまた違うのだろうか? とリオスは頭が混乱して来る。

そこで、単刀直入に聞いてみる事にする。

「気を悪くしたらすまないが……実は、俺もこの町に来る前に似た様な話を聞いているんだ」

「そうなのか? 似た様な話……だと?」

「そうだ。だが、今の貴方の話に似ている部分もある。もしかしたら同じ事件なのかも知れない」

「……もし良ければ、その聞いた事件の話をこちらの話をする前に聞かせてくれないか?」


そう来ると思い、リオスは飲み干したお茶のお代わりを要求してから話し始める。

2年前に屋敷で大きな火事があった事、壁の向こうの死体の話、火災から逃げ出す時にそこの屋敷の主人や

使用人達が襲い掛かって来た事。そしてその話をしてくれたのが、自分と一緒につい先日まで行動していた便利屋の男だと言う事。

「話を聞いてから時間が経っているから曖昧な部分もあると思うが、その男は大体こんな感じの事を話していたんだ」

そこまで話し終えてまたお茶を飲むリオスに、神妙な顔つきになったマスターが衝撃の一言を。

「あの屋敷には壁の向こうの死体なんて物は一切無かった。そもそも、そんな隠し部屋すら無い」

「え?」

「と言うよりも、そもそもあの屋敷では権力争いなんて血生臭い事は起きていない。と言うのも、その旦那様を筆頭にして

代々1人っ子しか生まない様にその屋敷の一族では決まっていたんだ。そうすれば無駄な権力争いも無くなるからって。

それに、実際に6年もの間その屋敷に私は勤めてありとあらゆる屋敷の構造を知っていたからな」


それを聞いたリオスの頭には当然疑問符しか浮かんで来ない。

「と言う事は便利屋の嘘……? じゃあ、あいつは一体何のつもりであんな大胆な嘘を俺についたんだ?」

まさか……あの便利屋は、何か知られたく無い事を隠しているんじゃ……」

そんなリオスの様子を見て、マスターはこう切り出した。

「その便利屋の事、もっと詳しく聞かせてくれないか」

「え、あ……」

嫌な予感を抑えきれないリオスは、便利屋のホルガーの事を自分が知っているだけマスターに話した。

「壁の修理か。確かに、あの屋敷は色々と老朽化が進んでいたしそう言う依頼をしてもおかしくは無いだろうな」

だけど、とマスターは続ける。

「旦那様にはそうした場合に備えて、腕の良い職人にも何人もツテを持っていた。通りすがりの便利屋に作業を頼む等と

言う事は絶対にしない筈なのだがな?」

「……」

何だか段々と話が変な方向に転がって行っている気がする。


「もしそのホルガーと言う便利屋が、旦那様の知り合いの所から派遣されて来た職人だと言うならまた話は変わるだろうがな。

半年間私が屋敷を離れている間に色々と変わった部分もあるだろうしな」

不安そうな表情を見せたリオスをフォローするかの様に、落ち着いた口調でマスターはそう締める。

「今まで貴方に協力して来たんだろう。その便利屋は。その貴方が頼れる人間を悪く言う様で済まないが、屋敷の構造で

変な嘘をつく所とかに私はその便利屋にきな臭さを感じるのだがね」

「……ああ。俺もそう思うよ」

やっとリオスが吐き出したセリフがそれだった。

「気の毒な話だから本人の目の前では全て言えなかったが、色々とその火災の話にはつじつまが合わなかった。

だから、機会を見てまた問いただすつもりではいたんだ」

「しかし、あの山の滝つぼで離れ離れになってしまってその機会も失ってしまった……か」

リオスの言いたい事をマスターが続ける。


そうなると、リオスはこの事についても聞いておかなければならない。

「その屋敷の主人が殺された瞬間を貴方は見たのだろう? 犯人もその時に当然見ている筈だが、容姿は覚えていないか?」

しかし、屋敷の元使用人であるマスターは首を横に振った。

「見た事は見たが、全身黒ずくめの衣装を着ていたし顔も黒い布で目の部分だけ出している風貌だったから、どう言う人物なのかまでは

私も分からない。……でも、他にも仲間が居たよ」

「仲間が? ……何故分かる?」

「その主人を殺した人間は素早く逃げてしまったのだが、他の部屋を見回っていたら屋敷に火が放たれてね。その火を放ったのは

赤い髪の毛が同じく顔を隠していた黒い布の間から出ていた人間だった。そして胸の部分が大きく膨らんでいたから恐らく女だろう。

実行犯の体格は細身だったけど、胸の小さい女なのか男までかは分からない。その他にも書斎を荒らしていた大柄な体格の

侵入者も居たから、複数犯だと言う事だけは分かったんだ」


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