A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第16話


「だったら他の……その貴族以外に借金をしてまで買った様な人間の知り合い等は居ないのか?」

今の話の中でそうした知り合いを見かけた事がある、との話だったのでそっちの方からアプローチを

掛けてみるアイヴォスだが、アーシアはまた首を横に振った。

「そっち方面の知り合いは居た事は居たけど、侵略されている時にカシュラーゼ軍に駆逐されてしまったみたいで

そのまま一家全員皆殺しでね……。だからその知り合いの家もカシュラーゼ軍に占領されちゃったらしいし、

貴族の方でもカシュラーゼの占領が進んでいるから転送装置は無理ね。それにもし利用出来たとしても

かなりのお金が掛かる筈だから、どの道スピーディーにこの国から出るのには逆に遠回りをする事になったと思うわ」

「そう、か……」


だったら転送装置を使えないのも納得が行く、との事で続いては転送陣と言う謎の単語についてだ。

「では、転送陣と言うのは一体何なのだ?」

「転送陣って言うのはいわば一時的な転送装置ね。高位魔術なんだけど、魔法を使って色々な物を

別の場所へと転送する事が出来る魔術。魔法陣を地面に描いて、あらかじめ転送したい場所に

同じ文様を描いた別の魔法陣を作っておくのよ。そうすれば2つの魔法陣が繋がり合って転送がされる

仕組みって訳。転送装置はそれを固定して効率をより高めた物ね」

「ほぉ……」

思わずアイヴォスは感心してしまった。

宅配便と電子メールの機能がミックスされた様なシステムで、しかも人間までワープさせる事が出来る。

と言う事は地球のテクノロジーをこの時点ではるかに凌駕していると言えるだろう。


「便利なシステムなのは分かったが、例えば転送出来る距離や送る物の制限はあったりするのか?」

アーシアはその質問に首を縦に振った。

「ええ。基本的にはこのエンヴィルーク・アンフェレイア中のあらゆる場所からあらゆる場所に、魔法陣を

しっかりと繋いでおけば物を移動する事が出来る様になっているわ。勿論城の中だったり立ち入り禁止の

場所だったりみたいに転送陣を描いてはいけない、と言う場所の制約はあるけど、エンヴィルーク・アンフェレイアなら

何処でも大丈夫と思ってくれれば」

後は……と次の質問にもアーシアは答える。

「転送可能な物は人も、物も、それから動物も大丈夫。でも、転送陣の大きさで魔力の消費量が

変わるからそこに注意が必要よ」


消費量、と聞いて先程の魔力補充の話をアイヴォスは思い出した。

「そう言えばそんな話をしていたな。魔力が少ないと近場にしか送れないと言う事か」

「ええ。だから魔力を多く注ぎ込めば込む程、より遠くにその魔力で転送が出来るのね。それと転送先の情報も

しっかり聞いておく事。転送する時に荷物が大き過ぎて転送先がパニックになったり、転送した先の住所が既に

空き地になっていてそのまま荷物を盗まれるって言う事もあり得るんだから」

「そうそう都合良くは行かないものなのだな」

完璧なシステムと言う訳でも無い様だが、それでもワープ出来ると言うだけで地球よりも進んだテクノロジーなのは間違い無い。

「そうなのよ。だから先に転送先の情報を聞いておいて、荷物のサイズを測って転送陣の大きさを決めてから送るのが正しいわ」

「なら、その転送陣を使える人間を探し出せば……」


そうアイヴォスは考えたが、ここでアイヴォスに絶望的な情報がアーシアから伝えられる。

「あ……でもやっぱり貴方は転送陣を使うのは無理ね」

「何故だ?」

ここに来て今更、しかも散々期待させるだけさせておいて転送陣も使用するのはやっぱり無理だと言う

アーシアのセリフにアイヴォスは若干カチンと来た。

アーシアはアーシアでその理由をしっかりと自分の言葉で説明する。

「貴方の身体には魔力が無いのがその理由ね」

「私の身体に……」

「そう。転送陣って言うのは、その物体や生物が持っている魔力に反応して転送機能が反応する仕組みなのよ。

前にも少し話したかも知れないけど、この世界の魔力って言うのは例えばこの林の中にある木の枝1本や石1つにも

必ず存在しているものなの。魔力が元になって生まれた世界のそう言うテクノロジーだから、魔力が無い物を

送る事は出来ないのよ。それは魔力を持たない貴方でも同じ。だから転送陣を利用する事は無理ね」

長々としたセリフで細かく説明してくれただけあって、かなりの説得力をアイヴォスに与えるアーシアの魔法陣の話。

それを聞いて、それなら……とカチンと来ていた気持ちを和らげさせて諦めざるを得ない程にアイヴォスも納得してしまった。

「分かった……。では、他の方法もあるのだろう? さっき言っていたドラゴンやワイバーンや、それこそ馬とか」

「まぁそっちの方が妥当かな……。でもワイバーンもドラゴンもそう言う移動の為の商人が居るから結局お金が掛かるわね。

馬だったら知り合いのツテで何とか調達出来るかも知れないけど、国境を越えるまでのエサとかはそっちで持ってね」

しかし、この後のアーシアの一言がアイヴォスの心に不信感を芽生えさせる事になってしまうのだった。


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