A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第17話


「……まぁ、今のエスヴァリークなら大丈夫か……」

「え?」

アイヴォスに聞こえるか聞こえないかレベルの声のボリュームで言ったつもりだったらしいアーシアだが、

アイヴォスにはその彼女の呟きがハッキリと聞こえていた。

「何だ、その今のって言うのは?」

「え? ああううん別に……」

「別にでは無い。エスヴァリークに行くと何かまずい事でもあるのか?」

自分がこれから向かう予定のエスヴァリークの事が、はっきりと自分に伝えられないままで向かうと言うのは

非常に気になる。

凄く真顔で、しかし有無を言わせないと言う雰囲気を存分に醸し出しているアイヴォスがじりじりと

迫って来るのを見て、耐え切れずにアーシアは口を開く。

「……この国は今滅んでいるけど、その前にも1度滅ぼされているの。そしてその時に滅ぼしたのが

エスヴァリーク帝国なのよ」

「な、何だって!?」


冷静なアイヴォスもこれには思わず声を上げて驚く。

「それじゃ私は何処にも逃げられないんじゃないのか? そもそもエスヴァリークがこの国を滅ぼしたのなら

先にその事を話すべきだろう!!」

冷静な口調で、しかし語気は強めにアーシアにそう言いながら詰め寄るアイヴォス。

怒鳴っている訳では無いのだが明らかに怒っているそのアイヴォスの剣幕に、アーシアは口をまともに

開けず「あう……あう……」としか言えない状況だ。

アーシアに対して不信感を持ったアイヴォスだが、今のこの状況では彼女しか頼れる人間が居ないのもまた事実。

一旦彼女から離れ、でもこのエスヴァリークの話になってからの冷たい目のままでアイヴォスは再度口を開く。

「……今のエスヴァリークの事を色々と聞かなければいけないが、まずはその滅ぼされた云々の話を

まず話して貰おうか。このヴァーンイレス王国を滅ぼしたのは何時頃の話だ?」

「え……っと、6年前よ」

「6年前だな。そうなるとヴァーンイレス王国を滅亡させて一旦自分の領土にして、そしてまたヴァーンイレス王国が

解放運動をしてエスヴァリーク帝国からまた王国として復興したと言う事か?」


6年前と言う事は数字だけ見るとそんなに遠い昔の話でも無い筈だが、そんな短期間で2回もこうして

滅ぼされていると言うのは余程このヴァーンイレスに問題があったのか、それとも狙われやすい国だったからなのか、

あるいはヴァーンイレスがエスヴァリークに対して攻撃を仕掛けたのかは定かでは無い。

その辺りをハッキリさせるべくアーシアに事の真相を訪ねてみると、どうやら3番目の予想が当たっていたらしい。

「今みたいに攻め込まれて滅ぼされたんじゃなくて、そのエスヴァリークの時の戦争ではヴァーンイレスから

攻め込んで行ったのよ。だけどその時の国力で言えばエスヴァリークの方が圧倒的に上だったから、最初こそ

優勢だったんだけどドンドン形勢逆転されちゃって、しまいには王都を滅ぼされそうになって降伏して終わりね」

「ああ……私の世界でもそう言う国があるな」

その国と言うのは、アイヴォスが今まさに軍服の腰のベルトに括り付けている刀の故郷である日本だった。

日本の文化を勉強して行く内に、その第2次世界大戦で日本がアメリカに先制攻撃を仕掛けた事も頭に入る様になる。

そして大きな反撃を受けてしまい、島国だった故に物資も資源も底を尽き、最後には原子爆弾を広島と

長崎の2つに落とされてしまって壊滅状態で終わってしまった。


その事を思い出しながら聞いていたアイヴォスに、アーシアは更に続ける。

「そして降伏したヴァーンイレスに対して、エスヴァリークは領土の拡大に興味は無かったらしくそのまま撤退したの。

そして今までの長い時間を掛けてようやく復興したんだけど、今度はそこに領土拡大を目論んで

カシュラーゼが……って言う話の流れよ」

「1度目はこっちから仕掛けて敗北し、2回目はこっちが攻め込まれて敗北か。タイミングが悪かったんだな」

「そうかも知れないわね」

率直に感想を述べたアイヴォスに、何処か自嘲気味にアーシアは笑った。

しかし、これから先の行動をするに当たってアイヴォスが本当に聞きたいのはそこの話では無かった。

「それは分かった。しかし私がヴァーンイレスの方からエスヴァリーク帝国に向かった所で、そのカシュラーゼの

連中の様に変な興味を持たれる様な事はあるのか?」


これに対してはアーシアが首を横に振る箏で「NO」の意思を示す。

「いいえ、それは無いわ。元々エスヴァリークに攻め込んで行ったのがこのヴァーンイレスだけど、そもそも

今のエスヴァリークはその領土内に幾つもの小さい国を持っているの。そして、それを全部ひっくるめて

地図上ではエスヴァリークって扱われてる訳」

「ふむ、何かややこしいな」

それこそヨーロッパが実に50の国の集合体であり、それを全て総称してのヨーロッパと言う呼び方と

似た様なものなのだろうかとアイヴォスは自分を納得させる事にした。

まずは先立つ物……金を稼ぐ手段を見つけないといけない様である。


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