A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第11話
けど、幾ら地元の利を活かすと言ってもやはり限度と言うものがあるだろうと思ってしまうアイヴォス。
圧倒的な戦力差を目の前にして身体がすくまない人間と言うのは、余程自分に自信がある人間か、
それとも自暴自棄になってしまった人間か、あるいはただのバカか。
そんなイメージを持っているアイヴォスに、アーシアは戦争の話の続きをする。
「このヴァーンイレス王国もかなり持ちこたえたんだけどね。それでなかなか戦争に決着が着かなくて、カシュラーゼの
西にある……ここなんだけど、そのソルイール帝国が帝国騎士団から人員を大量に送り込んで止めを刺す事になったの。
そうなったらもう強行作戦って感じで、結局最後には数の差でヴァーンイレス王国は負けてしまった。
これが今から最も1番近い時に起こった、領土拡大とは名ばかりの一方的な侵略戦争よ」
と言う事はこの王国は、現在はカシュラーゼのものと言う事になるらしい。
「そうなると、この王国はすでにカシュラーゼの領土になってしまったと言う事なのか?」
「ええ。ヴァーンイレスって言う名前はもう名ばかり。それでもこのイレイデンみたいに王都「だった」場所から
凄く離れている町なら、まだ領土になり切れていない場所もあるんだけどね。でもカシュラーゼの領土として
そうした場所にそのカシュラーゼの人間が辿り着くのも時間の問題かな。悔しい結果だけど」
本当に悔しそうな顔をするアーシア。
領土になり切れていないと言う事は、まだこのヴァーンイレス王国全体にそのカシュラーゼの侵略自体が
行き届いていない場所もある様なので、その点に関してはアイヴォスもホッと胸を撫で下ろす。
全て侵略されてしまっていたらそれこそ身動きが取れなかっただろう。
それでもアーシアのそんな表情を見て何処か気まずくなってしまうアイヴォス。まずい事を聞いてしまっただろうか?
そんなアイヴォスは、まだまだこの世界について彼女には聞きたい事が沢山ある。
しかし、その前にまずはアーシアが質問をする番だった。
「それじゃ、今度はそっちの世界の話をして貰いましょうか?」
「……ああ、そう言えばそうだったな。しかし私もこちらの世界の全てを知っている訳では無いし、言葉だけで
説明するのは無理があるからイラストも使わせて貰う」
絵の才能はゼロに等しいアイヴォスだが、それでも紙とペンをわざわざ用意して貰ったので地球の事を説明するにあたって
世界地図位は描けなければどうしようも無い。
なのでその拙くはあるものの本人からしてみれば精一杯なイラストと、分かる範囲での自分の言葉や
体験談等を駆使して地球の出来る限りの事を教えた。
「科学のテクノロジーかぁ……それに沢山の機械があって、こっちの魔術の代わりに便利な事が色々と
出来る様に生活に役立っているのね」
「その通りだ。もし実際に君がこちらの世界に来る事があったとしたら、その時は私が地球を案内しよう」
そこまで言ったアイヴォスが自分でふと気が付く。
「……そうだ、その話なんだが……この世界にそうした言い伝え等は無いのか?」
「言い伝え?」
「私の様に、異世界から来たと言う人間が他にも居ないのかって話だ。魔力を持たない人間は初めて見たと先程聞いたが、
私と同じ様に違う世界からこの世界に来たと言う人間や生物が居たかどうかについてはまだ聞いていない気がするからな」
少しの期待も込めてアイヴォスはアーシアに尋ねるが、聞かれた方のアーシアは首を横に振る。
「ううん、私はそんな話は聞いた事も無いわよ」
「そう、か……」
「異世界人って言う存在だって私は今でも信じる事が出来ない程に嘘臭いし、ひとまず貴方の正体はなるべく
黙っておきたいけど……」
歯切れの悪い口調にアイヴォスが訪ねる。
「けど……何だ?」
「けどやっぱりそれは無理に近いわね。魔力が無いって言うだけで異端な存在に見られるだろうし、私みたいに
魔力がある人間と一緒だったら少しはごまかせると思うけど、1人きりだとすぐに怪しまれるわね」
しかしそう言われた所で、はいそうですかと諦めるつもりはアイヴォスには毛頭無い。
「ふうむ……それならば私は自分1人ででも地球に帰る為の手掛かりを集めるつもりになった。この世界がどんな世界かを
知れば少しは情も湧くかも知れないが、今の気持ちはやはり自分の生まれ育った地球に帰りたい。現代の地球に」
例えばこの状況が、自分から望んでこの世界にやって来た上でそう言っているのならただの
「自分の主張に一貫性が無い人間」である。
だがこの世界にやって来る事なんてアイヴォスには当然予想出来なかった訳だし、勿論今まで生きて来た人生の中で
全くの未経験の出来事だ。
それでも冷静に状況を判断しなければ、この世界から地球に帰る事は出来なくなってしまうだろう。
だからこそ今はこの世界の事を少しでも多く知ると同時に、地球に帰る手掛かりを何としてでも見つけ出さなければならない。
もしかしたらひょんな事が切っ掛けで地球に帰る事が出来るかも知れない。
そのひょんな出来事が何時訪れるかと言う事は、それこそエスパーでも無い限りアイヴォスにはこれも全く分からない訳なのだが。
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