A Solitary Battle Another World Fight Stories 9th stage第12話
だけどそう言われても、アーシアの方もむやみやたらにアイヴォスを外に出す訳にも行かなかった。
「私としても貴方が地球って言う世界に帰れる様にしたいのは山々なんだけど、今のこの国は
カシュラーゼの支配下に置かれているからねぇ……もしカシュラーゼに貴方の存在がバレちゃったら、
貴方は本当に人体実験をされても何ら不思議じゃないわよ」
「それは魔力関係か?」
このヴァーンイレス王国の北の方に存在している、魔法王国カシュラーゼ。
その魔法に強い事を活かして常に最先端の魔術のテクノロジーを研究・開発し、
そしてそのテクノロジーを餌にして他の国に協力関係を結ぶ様に要求し、最終的に
このヴァーンイレス王国を壊滅させたと言う、この世界でメインの9つの国の内で最も小国ながらも
世界に対してのその影響力は多大なものを持っている王国。
魔力関係、と聞いたアイヴォスにアーシアは再び首を縦に振った。
「そうね。魔力が無い人間が現れました、なんて話がカシュラーゼの連中に伝わったりしたら
きっとカシュラーゼの連中は全力で貴方を捕まえに来てもおかしくは無いわ。そう言う未知の
テクノロジーとか出来事に対しての研究意欲は世界トップの実力だし、執念深くしつこく
追い回すでしょうね。向こうは特定の場所から特定の場所に移動出来る転送装置って言うものも
開発しちゃった位だから、貴方が居る場所の近くに転送装置があるのなら、その転送装置の場所に
騎士団の人員をワープさせて、そして一気に捕まえに来るって言うのが簡単にイメージ出来るわよ」
「……転送装置?」
その装置の事については初耳である。
「ああ、転送装置って言うのはその名前の通り人間を始めとした生き物、それから大きな荷物を
かなり遠くまで送らなければいけない様な時に一瞬で運ぶ事が出来る装置ね。
これも魔術のテクノロジーの賜物だってカシュラーゼが自慢していたのを他の人間から聞いた事が
あるのよ。でも転送させるには距離が遠くなるに従って魔力を使うから、魔力をまた溜めるまでに
時間が掛かるのがネックね」
「つまり、一瞬で違う場所に向かう事が出来る装置と言う訳か?」
「そうそう、そう言う事よ」
そんな装置がこの世界では開発され、すでに実用化されている。
もしかしたら地球のテクノロジーなんて比べ物にならない様なテクノロジーがこの世界にはある様だ。
異世界にはとんでもないテクノロジーがあるのかも知れないと考えると、心なしか自分の気持ちが
高ぶって来るのがアイヴォスにも分かる。
(もしかしたら、地球に帰る事が出来る様なテクノロジーが見つかる可能性もあるかもな)
でも、このヴァーンイレス王国で情報を集めるのはそのカシュラーゼ云々の話で難しそうである。
「だったらどうすれば良い? この王国……いや、そのさっきから聞いている口ぶりだと私は何処まで
行っても異端な存在として追われる可能性があると言う事になるな?」
「え、ええ……うーん……」
アーシアにとってもこんな事は初めてなので、彼女もどう対処して良いのか分からないし
良いアイディアもなかなか浮かんで来ない。
とにかくこのカシュラーゼの息が掛かった国に居るのが危険だと言う事で、アーシアは苦渋の決断をアイヴォスに提案する。
「だったら……ここからだと結構時間が掛かるけど、東の隣国のエスヴァリーク帝国に行ってみるのはどうかしら?」
「東?」
確かに地図を見る限り、東の方にはエスヴァリーク帝国と言うこの国よりも少しばかり大きい位の国が存在している。
そこならカシュラーゼの息が掛かっていないと言うのだろうか。
「こっちの帝国はカシュラーゼ関係は平気なのか? この地図で見る限り、このヴァーンイレス王国と
同じ様に北の方でカシュラーゼと接している国らしいが」
こっちの方にもカシュラーゼの連中が入り込んでいる可能性は高いとアイヴォスは考えるが、アーシアは
アイヴォスのその疑問に首を横に振る。
「ううん、こっちは大丈夫。さっき話した戦争の事……貴方がそこにメモしている通り、カシュラーゼの息が
掛かっているのは農耕に秀でていて食糧支援をしていたアイクアル王国、カシュラーゼの西隣に存在していて
ヴァーンイレスに援軍の騎士団を送り込んだソルイール帝国、それから武器と防具のバックアップをしていた
イーディクト帝国だから、エスヴァリーク帝国はこの戦争には無関係なのよ」
「ああ……そうなのか」
だからカシュラーゼの息が掛かっていない場所であれば、魔力を持たない人間であれども地球に帰る為の
調べ物を出来る可能性はかなり高い。
西の方のアイクアル王国が駄目、北のカシュラーゼは戦争の元凶なのでそれ以前の問題。
だとすれば、残るは東の方にあるそのエスヴァリーク帝国しか行き先が無い。
そっちに行けば地球へと帰る事が出来るヒントを見つけ出す事が出来るかも知れないし、図書館も少なくとも
このカシュラーゼの息が掛かっているこのヴァーンイレス王国よりは安全に利用出来る可能性が高い。
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