A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第49話
「それより良いのか、馬車を出してくれるどころか路銀まで貰ってしまって」
元の自分の服装……所々破れていたので補修作業までしてくれた自分の軍服に着替えたリオスの、
その白手袋をはめた左手で掴んでいる路銀の入った小袋を村人達の目前に差し出しつつ尋ねる。
「平気だよ。自分達では処理しきれなかったあの落石の処理を手伝って貰ったからな」
「こちらこそ、何とお礼を言って良いか」
「そうか、ではありがたく頂いておく。あと、俺の魔力の事は……」
「分かっている、これだろ?」
人差し指を縦に口に当てて、口外しないと言う意思表示を看病してくれた男が見せる。
どうやらこの世界でもこのジェスチャーは地球と変わらない様だ。
路銀の入った袋をコートのポケットに仕舞い込み、リオスは決意の表明とでも言うかの様にしっかりと
ワイシャツのボタンを1番上まで留めてネクタイもぎゅっと締める。
「また会えると良いな、その黒髪の便利屋に」
「そうだな。ではこれで失礼する」
頭を下げて礼をしたリオスは、そのまま村人が用意してくれた馬車に乗り込んだ。
目指すは引き続き帝都だ。
以前説明された様に帝都まで2週間かかる、と言う事なので、まだしばらくは馬車の旅になりそうだ。
そして帝都に行った所で、自分は一体如何すれば良いのだろうか?
リオスは段々と不安になって来た。考えてみれば知らない世界で独りぼっちの今の状況。
ホルガーともあの山で滝つぼに落ちてしまってはぐれてしまった今のこの状況。
あのギローヴァスについては、さっきの村で騎士団員達が討伐に成功したと言う話をしていたのでもう襲われる心配は無いだろう。
しかし、そのギローヴァスに襲われた時に馬車の御者ともはぐれてしまった為にそちらとも消息不明だ。
(でもこれは現実だ。認めざるをえない)
再び馬車に乗り込んだリオスは寂しさを紛らわす様に、窓の外の夕暮れが始まった景色を見ながら黙り込んでいた。
そうして、帝都近くの町へとリオスは5日後の夜に辿り着いた。
(やっと着いた。そろそろ食料も無くなり掛けてるし、この街で買い込んで行こう。路銀は……大丈夫。あの落石除去で幾らか貰えたからな)
ここから帝都までの時間はもう少しかかるのだが、その前に出す物を出して手に入れる物を手に入れなければ如何しようも無い。
なのでこの町で食料品を売っているショップに向かいたかったのだが、こんな時間ではもう開いていないので先に宿屋へ。
そして、リオスはこんな事を酒場のマスターも兼任する宿屋のオーナーに言い出した。
「身体を洗いたい。ここには何処かそう言う場所はあるかな?」
考えてみれば前の町を出発してから何日も風呂にすら入っていないので、長い銀髪も身体も汗でドロドロになっているだけじゃなくて
ベタベタして気持ち悪いし頭もかゆい。
山の滝壺から奇跡的に生還した後に身体を洗ったとは言え、時間が経っているからかゆくなるのも当たり前である。
なのでそのマスターが教えてくれた洗い場へとリオスは足を運んだ。
「ふぅ……」
まさか、この世界で唯一頼りになる存在になっていたホルガーとこんな形ではぐれるなんてショックだった。
でも、自分も人間なのでこうして負けてしまう事だってある。
(まぁ、言い訳だけどな)
軍人としてトレーニングを積んできた事が功を奏したのか、あの足場が悪い場所で自分もホルガーも登山で疲れていた状況で
そこそこ健闘出来たのか、とリオスは自分自身を慰めてみたが、やはり悔しさは拭えない。
自分が信頼していた、あの男の事を守れなかった事に。
(……ええい、キリが無いわ!!)
ブンブンと湯につかりながらリオスは頭を横に振り、まずは頭を洗おうと湯船から立ち上がった。
そして、湯上がりに水分補給をしようと酒場へ向かう。
酒を頼んでも良かったのだが、余り自分は酒を呑まない方だしホルガーとはぐれてしまったショックもあって冷たいお茶を貰う事にする。
「あんた、旅人だね?」
「分かるか?」
「見て分かるよ。私は色々な町で色々な人間を見て来たからね」
宿屋のオーナーでもある酒場のマスターは、リオスの目の前に冷たいお茶の入ったコップを置きながらそう口を開いた。
他の客もわんさか居るので、自分が魔力を持っていない事にはどうやら気が付かれていない様だとリオスは一安心。
ふとその時、行く先々の町で何らかのトラブルに巻き込まれて来たリオスは気がついた事が1つ。
「この町では特に何も起こっていないみたいだな」
そのリオスの発言にマスターも何かを感じた様だ。
「ああー、何か他の町じゃ大変らしいな。色々殺人事件が起こってるんだって? 他の旅人から話は聞いてるよ。
おかげで今はこの町の騎士団の連中もピリピリして大変さ」
しかし、次の瞬間酒場のマスターから思いもよらないセリフが!!
「でもさぁ、以前起こった大虐殺からの放火事件に比べりゃーまだ可愛いもんだよ」
「……え?」
何だか凄く聞き覚えのある様な事件内容に、思わずリオスはカウンターに半身を乗り出す位の勢いで答える。
「何だあんた、知らないのか? この国じゃあ凄い有名な事件だよ」
「知らないな……俺は初耳だ。一体どんな事件だったんだ?」
どうやらその事件の真相を知っていそうなこのマスターの話の続きを、リオスは興味しんしんで促した。
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