A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第60話(最終話)


リーチはあるが取り回しの利き難いトライデントを操るドミンゴと、素早さと取り回しのしやすさは

あるけれどリーチの短い2本の短剣を使うライマンド。

この2人はそれぞれが肩書き相応の実力を持っているだけでは無く、お互いの欠点を上手く

カバーする様な戦い方をして来るのでかなり連係が取れている。

エヴェデスは身軽な動きでその2人の連係から逃れるべく、右に左にそしてしゃがみ時にはジャンプで

攻撃をかわし続ける。

けど、やはり避けてばかりでは勝てない。

どうにかしなければと焦るエヴェデスのそんな心が、自分の身体の動きを数テンポ遅らせてしまう。


その乱れた心のエヴェデスの腹にライマンドの回し蹴りがクリーンヒットして、エヴェデスの身体は

後ろにゴロゴロと転がってしまった。

「ぐへっほ!?」

だが、そこで休む暇なんか当然この2人は与えてくれない。

追撃を掛けるべく走り寄って来るライマンドに、エヴェデスはフリーランニングのアクロバティックな動きを

活かしてブレイクダンスの様な足払いを繰り出す。

ナイフ等を持った相手ならば制圧術で床に引き倒すのが基本なのだが、今の状況でそんな事をしたら

もう1人にその隙を突かれてやられてしまうのがオチだ。


だからこそ投げ技はともかく、関節技は封印して素早い動きで立ち向かうしか無い。

エヴェデスの足払いを上手く足を上げて回避したライマンドだが、そのブレイクダンスの動きから

エヴェデスは立ち上がってライマンドに前蹴り。

そして前蹴りを食らわせてから間髪入れずに身体を捻りつつ飛び上がり、前方に向かって身体を捻る

ロールオーバージャンプで足を繰り出してライマンドの胸にヒットさせる。

「がはっ!!」

1人が転がっても安心出来ない。

その横からドミンゴがトライデントを繰り出して来るので、ギリギリでしゃがみつつ身体を捻ってエヴェデスは回避。

その体勢を利用してドミンゴに足払いを掛け、地面に転がったドミンゴの胸を踏み潰してから

続けて顔面も2回踏み潰す。

「うぐぅお……」


顔面を押さえて唸るドミンゴに構う暇無く、エヴェデスは再度ライマンドに目を向ける。

「……っ!!」

目の前にギリギリで迫って来ているライマンドを視界に捉えて、100パーセント反射的にエヴェデスは

突き出されたその短剣を持つライマンドの右腕を自分の右腕で脇に挟む。

そのままエヴェデスは自分の右手から左手にナチスの短剣を持ち替えると同時に、ラリアットの要領で

地面にライマンドを押し倒して素早く彼の顔面を右足で踏み潰す。

「ぐう!?」

痛みで動きが止まったのは大きな隙になる。

隙は最大のチャンスとなり、そのチャンスを見逃さなかったエヴェデスの短剣がライマンドの心臓に

5回連続で突き立てられた。

「……!!」


声も出さずに絶命してしまったライマンドを尻目にエヴェデスがドミンゴの方へと向き直ると、視界に

顔面の痛みから立ち直ったドミンゴが後ろからやって来るのが見えた。

短剣をライマンドの胸から引き抜き、ドミンゴに対して迎撃態勢を取ろうとするものの……。

「貴様あああああっ!! 良くも、良くもライマンドをおおおおおおおっ!!」

リーチの長いトライデントを縦横無尽に振り回し、悪魔かと思う位の鬼気迫る表情でエヴェデスに

襲い掛かるドミンゴ。

何とかかわし続けるものの、そのラッシュに対してエヴェデスは反撃のチャンスを見い出せない。

(くっ……そ!!)

後ろには倉庫の壁が迫って来ている。短剣でのブロックも出来そうに無い。


ならばとエヴェデスは後ろの倉庫の壁に向かってジャンプし、そのまま右足でその壁を蹴って右のキックをドミンゴに叩き込む。

「ぐおっ!!」

よろけたドミンゴに対して追い討ちを掛けるべく近付こうとするエヴェデスだが、ドミンゴも打たれ強いのか

すぐにまたラッシュを掛けて来る。


「かわし続ける」からダメなのだ。ここは一か八かで受け止めてみるべきか。

横っ飛びでまた離れ、それから後ろにバックステップで回避しながらトライデントの軌道を見極めてそのトライデントが

再び突き出されて来た瞬間、エヴェデスは身体を捻って回避しドミンゴに近付きながらトライデントの柄を掴む!!

バチィィィッ!!

「うおっ!?」

「ぎゃっ!?」

その瞬間2人の腕に痺れる様な痛みが走ったかと思うと、同時に何かが破裂する様な音とまばゆい光が

エヴェデスの掴んだ柄の部分から襲い掛かる。

思わず2人ともトライデントから手を離してしまうが、エヴェデスはその現象を前に1度経験していた。


(……これは!?)

我に返ったのはエヴェデスの方が先。

まだ現状を呑み込めていないドミンゴを見て、エヴェデスは一気にそのドミンゴに近付いて首に左腕を回して羽交い絞めにしつつ、

右手に持った短剣をドミンゴの首に突き立てた。

「ごふぅ……っ!?」

ドミンゴの口からそんな奇妙な声が漏れ、短剣を引き抜けばその身体からズルズルと力が抜けて地面にうつ伏せに

倒れ込んで行き、ゆっくりと赤い血溜まりを作り始めた。

「……終わった……」

長い様で短かった様な気もするが、これでエヴェデスの逃走劇は幕を下ろした。


……いや、まだ終わってはいない。

また王国騎士団や魔術師達がやって来る前に、さっさとこの港町から船を出して貰わなければ。

エヴェデスは短剣の血をドミンゴの服で拭ってベルトの鞘に戻し、荷物の入った袋も回収してから

この町の住人の誰かに船を出して貰えないか頼みに回る。

するとグッドタイミングで夜の漁から戻って来た船乗り達が数人居たので、その船乗り達にあのキヴァルス山で

ゲットした金の一部を使い、エスヴァリーク帝国まで乗せて行って貰う事で手を打った。


その船の中でドイツ軍の将校は親衛隊の軍服に着替え、安堵の息を吐きながら新天地へと進んで行く。


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