A Solitary Battle Another World Fight Stories 1st stage第48話


随分前の話になるが、鉱山跡であの女に負わされた頬の傷はコートの内ポケットに入れておいた

応急処置用のガーゼと消毒液で鉱山跡から脱出して林を抜ける前に治療しておいた。

その治療跡までスーッと消してくれる予定だったのだが、どうやら自分の身体には魔術が通用しないらしい。

(ん? これっていわゆる……俺がこの世界で戦いぬくのは厳しいと言う話か?)

そうリオスは思ったのだが、もっと良く考えてみて……やっぱりそうだと言う結論に達した。

(例えばご都合主義だったらそれこそ色々な魔法が使えたり、武器をもっと上手く扱えたり、謎のパワーで大量の敵を

圧倒する位の話になると思うがな。そう言う類の映画とかも地球に無い事は無いけど、俺はそうじゃない。

あの謎の現象で武器が使えないし、魔術も縁が無い。しかも治癒魔術? とかの効果も無いのであれば……)


今までの事を思い返してみた上で何かを悟ったリオスは、魔術が使える人間にこんな事を頼んでみた。

「聞きたいのだが、治癒魔術があると言う事はその……敵の攻撃を防ぐ事の出来る魔術も存在しているのか?」

「あるよ。もしかしてそれをかけてみて欲しいの?」

看病してくれた男がそう聞いて来たので、間髪入れずにリオスが頷く。

「ちょっと実験してみたい事がある。魔術が出来る人間が俺に付き合ってくれないか」

「なら私がやろう」

その話を聞いていた騎士団員の1人がその類の魔術も使えると言う事なので、リオスの実験に協力してくれる事になった。

と言ってもまだ満足に動ける状況では無いので、ベッドから起き上がってそのベッドのすぐ横で軽く実験。

「具体的には如何すれば良い?」

「ではまず、俺にその防御魔術をかけてみてくれ。これは相手の物理攻撃を無効にするのか?」

「そうだ。格闘戦は元より、剣とか槍の武器の攻撃も大丈夫。ただし効果は3分だ」


そう言って呪文を唱えて貰い、その魔術をリオスがかけて貰って実験開始。

「それじゃあ軽くで良いから俺のみぞおちにパンチをくれ。ああ、その手の防具は外さなくて良い」

「……分かった」

それでは行くぞ、と言ってその騎士団員は手甲をはめたままの右手で望み通りにリオスのみぞおちにパンチ。

「ぐっ……!」

「え……?」

明らかに苦しそうな呻き声と表情をしたリオスに、パンチを繰り出した騎士団員が1番驚いていた。

「ま、まさか効いたのか?」

「ああ……なかなかのパンチだ」

「そんな……まさか詠唱を間違え」

「いや、それは無いだろう」


かぶせ気味に騎士団員の驚きの声をリオスは否定し、今度は逆の立場として実験をする。

「では次。俺がパンチを出すから、あんたは自分に防御魔術をかけてくれ」

「……良し」

詠唱が終わって、騎士団員のゴーサインが出た事を理解したリオスは鎧を外した騎士団員のみぞおちを

目掛けてボディブロー。

「ぐふっ!?」

「な!?」

先程のリオスと同じく苦悶の表情と声をあげる騎士団員に、リオス以外の村人達は2回目の驚きの表情になった。

「な、何故……!」

苦悶の中に疑問の色が混ざり合ったそんな表情で、殴られた騎士団員がそう呟いた。

「俺も正直驚いている。イメージのみのただの思い付きだったが、まさかそれが的中するとは」


リオスと村人達が出した結論は、どうやらリオスは魔術が使えない代わりに魔術の影響も受ける訳では無いし、

相手の魔術も自分の攻撃では無効になると言う事だ。

だが、それはリオスも同じで自分に防御魔術をかけても全く意味が無いし、治癒魔術も使えないので戦闘では不利になる。

「つまり良い所と悪い所の両方がある、と言う事になるのか」

何処か感心した様に看病をした男が言う。

相手の魔術の影響をまるで受けないと言う事はそれだけで大きなアドバンテージになるかと思いきや、そのアドバンテージを

帳消しにする……いや、むしろ不利になる様な逆アドバンテージも存在していた。

「世の中、甘く無いな」

苦笑いをしながら、ポツリとリオスがそう呟いた。


そんな出来事の3日後に、約束通り調査を終えて村の人間達がリオスに報告にやって来たのであったが

結局ホルガーの行方は掴めず仕舞いだったらしい。

魔術が通じない云々の話で終わった、「簡単な事情聴取」と言う名目のあの話もしていたので改めてリオス自身に危険性は

無いと判断され、晴れてリオスはこの村から出発出来る事になった。

「世話になったな」

「別に。こちらこそ力になれなくて悪かったな」

ホルガーを探し出せなくて済まなかった、と謝罪の言葉を述べる村人達にリオスは手を振って答える。

「いや……大丈夫」

探し出してくれる姿勢を見せてくれただけでもリオスは嬉しかった。

怪我をした自分の看病をしてくれて、あの便利屋を探す為に山に向かってくれて、自分の実験にも付き合ってくれた。

規模としては最初のあの町とも、自分が騎士団に捕まった醜態を晒したあの町とも比べ物にならない程の広さしか無い

小さな村ではあるが、それに反比例するかの様に村人の心の器は大きかったのだと改めてリオスは感謝の気持ちと共に再認識したのである。


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