A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第54話


「あ〜〜〜〜〜、長かったぜ……」

やっとの事でキヴァルス山を下り切り、疲れた身体を座り込んで休ませるエヴェデス。

すでに陽は沈み、肌寒い風が吹いて来ている。

(あのワイバーンの男によれば、確かこの山を下り切ったらすぐ先に港町があるって話だったな)

その情報にプラスして船は夜にも出ていると言っていたのだが、その港町でまずは腹ごしらえを

してからでも遅くは無いだろうとエヴェデスは考える。

ほんの僅かにだが潮の匂いが鼻に漂って来るので、キヴァルス山から海はすぐそこらしい。

アクセスが近いと言う事はなかなか便利な場所に町を造ってくれたと言う事でもあるので

その点に関してはありがたかったが、欲を言えばあの登山道をもっと広くして欲しいとも思ってしまった。


(まぁ、その狭い登山道のおかげで俺は助かったんだけどよ……)

あの騎士団員と魔術師達の返り血や自分のかいた汗、戦った時に着いた土や泥等でドイツ軍の

制服として着込んでいるワイシャツはもうドロドロだ。

それにズボンも負けず劣らずでドロドロだが、1番酷いのはナチスのブーツである。

ナイフだけじゃ無くてキックを繰り出したりしていたのもあるし、そもそもそれ以前にこのブーツで

山を1つ超えて来た訳だからかなり汚れが酷い。

だから今はせめて靴だけでも履き替えておこう、とエヴェデスは袋の中から現ドイツ軍の短くて

黒い革靴を取り出してそれに履き替える。

(エスヴァリーク帝国でもクリーニングに出させて貰うか……)

そのクリーニングサービスがエスヴァリーク帝国にもあれば、の話だが。


(もうちょっと休むか……あ、そうだついでに金がどれだけあるのかも確認しておくか)

今の所持金を計算しておけば、山越えをする前の町で食料品を少ししか買えなかった時の様にひもじい

思いをしなくて済むかも知れない。

港町に着いてからでも数えられるんじゃ無いかなぁと自分に突っ込みを入れながら、あのバトルの後に

奪い取って来た多くの袋からガサゴソと金を取り出しては、横にある岩の上に出してみる。

しかし、ここでエヴェデスはある事に気が付いた。

(……やべ、この世界の金の価値が俺自身良く分かんねーよ!!)

今までも「これで買える分だけ」とか「これで足りるか?」と言いながら袋の中身を見せると言う

凄くアバウトな買い方をしていた為、この世界のこの国で流通している金の価値が良く分からないエヴェデス。


だったらせめて袋が沢山あるとそれだけでかさばってしまうので、纏められる分だけ纏めて置くべくジャラジャラバサバサと

幾つもの皮袋から金を取り出しては、その奪い取った袋の中で1番大きな袋に手当たり次第に突っ込んで行く。

やはり騎士団の人間はエリート揃いなのか進軍時でもそこそこ金を持っている人間が多い様で、エヴェデスの

予想を超える位に袋がパンパンになって来た。

硬貨のゴツゴツとした感触が袋越しにも伝わって来る。

しかもその袋だけでは全ての金を纏め切る事は出来ず、結局もう1つの袋も使う事になった。

空になった袋を除くのならばこれでエヴェデスが持っている袋は、最初にトランクを入れて持って来たあの町で

拝借した大きな袋、それから今こうして月明かりの下でスマートフォンの明かりも併用して金を纏めた2つの袋で

合計3つになった。


とりあえずこれでしばらくの食い扶持には困らなさそうなのでエヴェデスも一安心だが、別の方向では

まだまだ安心出来ないのが現状だ。

(騎士団と魔術師部隊が何処に居るか分かんねーからな。とにかくさっさとその港町に向かって、

船でエスヴァリーク帝国に行くのが手っ取り早いからやっぱり急ぐか)

腹は確かに減っているものの、その空腹感をこうして覚える事が出来るのだって自分の命があるからこそなのだ。

だが、自分が今狙われてしまっている王国に居る以上はその命が何時失くなってもおかしく無いので

このまま夜の船便で脱出を図るだけである。

最終便が出発してしまったらまた明日の朝まで待たなければならないので、エヴェデスは今日の船便に何としても

乗り込むべく金の入った袋の口をしっかりと縛って、左右のズボンのポケットに突っ込んで歩き出す。


(船に乗ったらナチスの一式に着替えるか……)

現代の地球のヨーロッパでナチスの、それも親衛隊の制服を着て堂々と歩けばそれだけで非難の対象になるし

最悪殺されてもおかしくない。

そもそも別にエヴェデスはナチスに対して信仰心は持っていないし、どちらかと言えば現代のドイツ軍の軍人としての

立場から考えてみると余り振り返りたくは無い過去である……のだが。

(確かにナチスはオリンピックの聖火リレーを始めたり、数年で完全雇用を達成したり、農業の生産性アップの為に

農場世襲法とかやったり、週休2日制と週40時間労働を決めたりしたけどよぉ……)

エヴェデスが軍人になってから少しだけナチスの事について調べた事があったのだが、こうした功績を残した事でも

ドイツでは有名だ。

1937年にはドイツ史で最も偉大な人物としてぶっちぎりの人気を博していたが、それでもWW2の事を考えれば

エヴェデスも素直に喜べないのが事実だった。


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