A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第55話


だからこそ、そんなナチスの制服を着る事に対して抵抗が無い訳では無かった。

何故なら今のドイツにとってはもう蒸し返されたくない歴史であり、ナチスをたたえればそれだけで

処罰の対象になってしまう事も普通にあり得るからである。

でも。

それでも、この世界でそのナチスの親衛隊の制服を着込んだ事で彼が今ここまで逃げて来られたのも

エヴェデスにとっての事実だっただけに、親衛隊の制服を着ていた事に対してはかなり複雑な気持ちになっていた。

(さっきのキヴァルス山を越えたのだって、ロングブーツを履いていたから無用な怪我を防げた訳だし……)

歩きながらうーんと悩んでいたエヴェデスだったが、やがてその感情も吹っ切れてしまった。

(でもよ、考えてみれば地球じゃ無いから別に構いやしねーよなぁ?)


そう、ナチス云々で色々咎められるのは地球の世界での話である。

だけどここは地球とはまるで違う、名前の通り「異世界」のエンヴィルーク・アンフェレイア。

まだこのカシュラーゼの事しか分からないが、中世のヨーロッパの世界観のイメージが強い世界である。

となれば地球とは違う世界なので、ナチスやヒトラーの事を知らない人間「しか」居ない筈なのだ。

(他の国に行って似た様な制服のデザインが忌み嫌われていたらそれはそれでまた問題だけど、

その時はその時でまた考えるだけだよな)

異世界だけど、この国しか知らない以上は他の国でそうした事が起こりえる可能性もあるかも知れない。

でもいちいちそんな事を気にしながら旅は出来ないだろう。


世界は広い。

ここだけじゃ無く他の国も色々と見回って、その上で地球に帰る為の手掛かりを集め回って、そして地球に無事に帰る。

それがエヴェデスにとっての最終的な目標なのだが、今は目標そのものがまだスタートしていない。

何故ならエヴェデスはこの国の人間達から命を狙われている為、この国から脱出した時にこの世界で

活動するその大きな目標のスタートラインに立ったと言えるのだ。

少なくともエヴェデス自身はそう思っている。

今は全身ドイツ軍の制服だけど、いずれは何処かでリペアも頼まなければならないだろう。

だから無事に国を出られたら、その時からはナチスの服装をまた解禁する。

この世界を冒険する時だけは、自分はナチスの軍人の格好をして行動してやると決めたエヴェデスの前に

その最後の関門である小さな港町が見えて来た。


(あれか……)

キヴァルス山からストレートに向かう事の出来る港町で、港町の近くに立てられている看板によれば今のエヴェデスが

向かっている出入り口以外にも別の出入り口もあると言う。

ならば他の町や村にもアクセス出来る道も繋がっているのだろう、とエヴェデスにはイメージ出来たのだが、

良く見てみると何だか様子が変だ。

(……妙だな?)

看板から町の入り口まではおよそ200メートル位しか無いのだが、そこから見える限りでも物々しい雰囲気が伝わって来る。

これは長年軍人として活動して来たエヴェデスの勘だが、今の港町は何かがおかしくなっているのかも知れないと思ってしまう。


何故ならその入り口のゲートのそばには、明らかに武装している騎士団員2人の姿が見えていたからだ。

(あれって騎士団の奴だよな? ここからでも分かる位に目立ってるから威圧感と存在感はたっぷりあるんだが、

何で騎士団の奴等がここに居るんだ?)

そこまで考えて、ブルブルとエヴェデスは首を横に振る。

(いやいや落ち着け俺。普通に考えて、港町の警備の為に騎士団員が常駐してるって考えるのが1番自然だろうよ。

ここはまだこの国の中だし、それにこうした港って言うのは色々と密輸とかが起こったり密入国があったりってのがあり得るから、

そうした連中を取り締まる為にここに配備したのかも知れないだろ?)

ちなみにドイツの沿岸警備隊は連邦警察の管轄となっており、国境警備隊や税関と言った組織がそれぞれ各々の官庁に

分割されて存在しているので、沿岸警備隊そのものとして統一された組織は存在していないのが特徴的だ。

なのでその辺りについては、ドイツ連邦国陸軍所属のエヴェデスはほんの少ししか知らない。

それでも国の治安を守る為の組織だと言うのは軍人も警備隊も同じだ。


その理論で行けばこの魔法王国の王国騎士団も治安維持の為に組織されている団体なので、職務を忠実に

遂行しているのは当たり前の話。

……なのだが、今のエヴェデスにとっては不真面目にやっていて欲しいと思ってしまうばかりだ。

(このまま進むとあいつ等の目の前に出ちまって、絶対に見つかるからな……)

だから何処か別の出入り口が無いかを探してみるが、ゲートとしての出入り口はキヴァルス山方面からだとその2人の

騎士団員が見張っている場所以外に見当たらなかった。

つまり一旦港町の中に入らなければ、さっきの案内表示板に書かれていた出入り口に辿り着く事は出来ない様である。

海から陸に上がってそのまま色々な方面にアクセス出来るのは、確かに「一般の」人間にとっては親切かも知れない。

しかし今のエヴェデスにはやっぱり不親切な要素であった。


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