A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第53話
短剣の血を振り払い、それからそばに転がっている騎士団員達の制服でしっかりと血糊を落としてから
エヴェデスの戦いは幕を下ろした。何度か身体に傷を負ってしまったものの、大したダメージでも無い上に
服もそこまでボロボロになっていないのでエヴェデスは一息吐く。
そんな彼の目の前である登山道の斜面には、既に事切れてしまっている騎士団員達と魔術師達の
死体が血の匂いと共に転がっていた。
(欲を言えば着替えたいけど、こいつ等の服は結構な血と汚れでズタズタだから無理だな……)
かと言って素手だけでここまで勝てる訳が無かったので仕方が無い。
着替えは確かにナチスドイツの制服で袋の中にもう1着あるし、この数多くの死体から探せば
使えそうな服もあるかも知れない。
しかし着替えを探したり、着替えが見つかってそれに着替えている最中にまた増援がやって来る可能性がある。
更にあのワイバーンタクシーの男が言っていた「魔物」がもしここにやって来たりした時に自分が着替えを
していたら……と考えると、やっぱりしばらくはまだこのドイツ軍の制服姿で移動するしか無いだろうな、と思って
エヴェデスは死体の山を踏み越えて先を歩き出す。
が、エヴェデスはその死体の山を踏みしめている途中でふと思い出した事があった。
(あ、そうだ金を!!)
所持金が限りなくゼロに近い状況なので、自分が殺したこの騎士団員達と魔術師達の衣服から次々と
金の入っている袋を奪い取って行く。
それをナチスの制服が入っているトランクを入れてある袋の中にポイポイと投げ込んで行き、それなりに
ずっしりと重くなった袋を背負ったのだが反対にエヴェデスの心は軽くなった。
(ふぅ、これで当分食い扶持には困らねー筈だぜ)
ふと考えてみれば、今の金を回収している時間の方が着替えを奪ってそれに着替えている時間よりも
間違い無く長かった様な気がするのだが今更そんな事を気にしても仕方が無い。
それに着替えに関してはやっぱり血や泥や砂まみれだったし、いちいち脱がせている時間を考えれば
このまま下りてしまってエスヴァリーク帝国に逃げる方が良いだろうとドイツ軍の軍人は考える。
だけど何故、こんな場所に騎士団と魔術師の連合軍がやって来たのだろうか?
山を再び下りながら考えるエヴェデスが弾き出した予想は3つだった。
(最も可能性が高いのは、俺の情報を聞きつけた騎士団と魔術師達が先回りしてるって事だろうな。確かあの緑の
髪の奴は筆頭魔術師だか何かだった筈だから、国全体の魔術師を動かすのは簡単だろうし。2つ目はただ単純に、
俺の事を聞いていた騎士団員と魔術師達が移動していてその途中で俺の姿を見つけて襲い掛かったってとこだろう。
3つ目は俺の事がかなり怪しく見えて、理由も聞かずに襲い掛かって来たか……)
今の所、エヴェデスの中では1つ目が最も可能性が高い。
2つ目の可能性は単独でも考えられるが、1つ目と2つ目のドッキングを考えてみればその可能性は更に高くなる。
3つ目は単純に怪しい人間を捕らえようとしていただけの話だろうが、それにしては明らかにやり過ぎなので
その選択肢はエヴェデスの頭の中からスーッと消えて行った。
とにかくこの山にこれ以上留まっていては、また何時騎士団と魔術師の連合部隊がやって来るか分からないので、
戦いで疲れた身体に鞭を打ちながらも少しペースアップしてエヴェデスは山を下り始めた。
昼食を食べ終わり、ライマンドとドミンゴの2人はあの魔力を持たない男がこの国で最終的に辿り着きそうな
場所へと先に着いていた。
転送装置のある町から馬を駆けさせ、キヴァルス山を越えた先にある海沿いの小さな港町ギリスルス。
部下として連れて来た騎士団員と魔術師部隊の一部はこちらに回しており、30人の精鋭達を連れてギリスルスの
港町を半ば強引な形で待ち伏せ場所として使わせて貰う事にした。
勿論一部の住民からは反対されたが、国の非常事態だと言う事で強引に押し通してしまった。
騎士団と魔術師部隊はそれだけ、一般人には到底逆らえない機関でもあるのだ。
なので準備はこれで整った訳だし、あの男を捕まえたと言う連絡が入ればこの港町から騎士団も
魔術師達も撤退するつもりでいる。
「抜かりは無いか?」
「騎士団は問題ありませんね。既に見張りの人員配置と武器と防具のチェックも終わっています」
「それなら安心だな。こちらも魔術師達が攻撃隊と防御と回復隊に分かれているからあの男を迎え撃つ準備は終わったぞ」
ライマンドもドミンゴもお互いに顔を見合わせて、その顔に自然と笑みがこぼれる。
あくまでここに待機させているのは、山に向かって進軍させている部隊のバックアップとしてである。山に向かわせた
部隊だって腕利きを集めて来ている訳だから、そうそう簡単に負ける筈が無い。
ましてや相手はたった1人、しかも魔力を全く感じない人間なので魔術を使えない可能性が高い。
そこで数に物を言わせて一気に潰してしまえば、それだけで終わりの筈だろうとライマンドもドミンゴも考えていたのだった。
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