A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第52話


「……?」

ザッザッザっと地面を踏みしめる足音が複数でそれも大人数、それから人間の話し声もかすかに聞こえる。

プラス、ガチャガチャと何か金属が擦れ合う様な音も聞こえて来た。

おそらく何かのグループがこの山道を登って来ているのだろうとエヴェデスは解釈したが、その正体までは分からない。

山を下り始めてからかなり時間が経過しているが、ペースを上げられないせいでまだ半分にも到達出来ていないだろう。

と言う事は下から登って来ているグループの方が早い時間に出発したか、自分を超えるだけの速いペースで

ここまで登って来たかだとエヴェデスは思った。

(登山客だよな? まさか、俺が噂でしか聞いた事の無いジャンルの生き物である魔物……!?)

でも、何を話しているのかまではハッキリ聞き取れないものの話し声が聞こえて来ると言う事は人間だと言う事になる。


じゃあ、その金属が擦れ違う音は?

(この世界はファンタジーな世界だから、武器を持ち歩くのが当たり前だし防具だって身に着けるのが

当たり前だってあの図書館の冒険者3人組は言ってたな)

ならば下から登って来ているのはそうした冒険者や傭兵のグループの可能性が非常に高くなって来た。

もしそうしたグループならば、麓まで後どれ位の時間が掛かるのかを聞いておいた方が良さそうだ。

大体の時間の目安にもなるので、エヴェデスはそのグループが上って来るまで景色が見える絶壁の

ポイントから動かずに待つ。

その「動かずに待つ」と言う行動が、エヴェデスの運命を変える事になる。


結論から言うと、その近づいて来た足音や話し声は冒険者では無かった。

しかし魔物と言う未知の存在でも無かった。

複数の足音と金属の擦れ合う音がヒントになっていたのだが、エヴェデスはそれに対して自分で予想が全く出来なかった。

なので予想が出来なかった分その場所から逃げるのも遅れてしまい、結果的にその足音の主達と

エヴェデスは戦っていたからである。

「ぬおあああっ!?」

エヴェデスの引き抜いたナチスの短剣が、向かって来る男の首筋に突き刺さる。

こうして何時戦闘に入っても良い様に、短剣だけは2つの制服を取り換えてもしっかりとズボンのベルトに

括り付けていたのが功を奏した。


それから狭い狭いと思っていた登山道も、今の状況ではエヴェデスに対して上手い具合に味方してくれている。

人がすれ違うのにも、すれ違う2人が身体を横に傾けてすれ違わなければ通り抜けられない程の狭さであるが故に、

相手が団体でやって来ても必然的に1vs1の状況になってしまうのだ。

多人数に囲まれる心配が無い以上、エヴェデスは目の前から向かって来る相手に対してだけしっかり相手をすれば良い。

その上、エヴェデスがその相手をして殺した人間の身体を下に向かって蹴り落としてやるだけで、後ろから続いていた

他の人間の身体を巻き込んでドミノ倒しの如く落ちて行ってしまうのだ。

そのグループが上からやって来ていれば話は全く変わっていたが、こればっかりは重力と位置関係の問題で

エヴェデスが有利になる。

しかもこの狭さなので、グループの後ろから遠距離射撃で矢を放てば前の同じグループの人間に当たってしまう。


この様に矢の攻撃に対しても自然と壁が出来ているので、エヴェデスは近距離戦闘で1人ずつ確実に

向かって来る相手グループ……王国騎士団の人間達を短剣で殺害し、それから蹴り落とされた人間を

乗り越えて向かって来る新たな敵を横の断崖絶壁の絶景ポイントから下に向かって投げ落とす。

これがフラットな場所で広い場所であったならば、エヴェデスはあっと言う間に人数差を利用して囲まれ、

捕まってあの城へと連れ戻されてしまっていたか殺されてしまっていたかであった。

自然の道を切り開いたとは言え、その地形が原因でこれだけ狭い道になってしまった登山用のルートで

あったが今はその自然の地形に感謝するしか無い。

自然現象は人間の敵だけじゃ無く、時として人間に味方してくれる存在になりうる事もあるのだと言う事を

エヴェデスは思う存分実感しながら、更に王国騎士団の騎士団員や魔術師達を駆逐して行く。


だが先頭の女を下に向かって蹴り落として次の人間がやって来るまでの間に、エヴェデスは2つのある事に疑問を抱いた。

(あれ、そう言えば魔術師魔術師って言ってる連中の割には俺……魔術なんて物を1度も見た事が無い気がするぞ?)

魔術のテクノロジーの文面はさっきの資料で嫌と言う程見せて貰ったが、人間が魔術を使っているシーンは

今まで1度も見た事が無い気がしていた。

そしてその魔術師に対しての疑問から、エヴェデスは更にもう1つの事に疑問を抱いた。

(……こいつ等の中に、あのドミンゴと銀髪の奴が居ねーな?)

この騎士団と魔術師のグループを操っているのは間違い無くその2人の筈なのだが、だったら何故ここに居ないのだろうか?

その疑問を考えている内にまた敵がやって来てしまったので、エヴェデスは短剣片手にバトルを再開した。


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