A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第50話


そのカシュラーゼサイドの人間が失くしてしまった書類を持って来てしまった当の本人は、

太陽が高く昇る位の時間まで歩き続けて来た。

「うああ〜〜〜っ……流石に、流石に俺はもうダメだぜ……あてて……」

流石に、と2回も口に出す程に自分の疲れを強調しつつエヴェデスは頂上付近の広いスペースに横たわる。

思えば朝からこうしてずっと飲まず食わずで歩き続けて来たのだから無理は無い。

それも、アップダウンの多いこの登山道をブーツで踏みしめながらである。

実際にはアップが9のダウンが1位の割合で、重力に逆らってアップし続けていた時間の方が

長かった事もあってエヴェデスの足にはかなりの疲労と乳酸が溜まっていた。

それに今の服装はブーツを履いているとは言え、ドイツ軍の制服なのだから野外活動にはそもそも

適していないのも脚にダメージを蓄積する原因となった。

しかもそれにプラスする形で、幾ら軍人として身体を鍛えているからと言ってもエヴェデスは

もう40歳が目前に迫って来ている年齢だけあって若くは無い。

だけどもしこれが10代や20代の若者だったとしても、これだけの険しく長い山道を歩き通しで

体感時間4時間は流石に身体に答える筈だとエヴェデスは自分の脚をマッサージしながら思ってしまった。


そのマッサージをひと段落させ、袋の中からゴソゴソと麓の町で買って来た干し肉とパンを取り出してかぶりつく。

近くには自然の湧水が流れているし、頂上までやって来たので汚れも少ない筈だと思いエヴェデスは

食べ物と飲み物で胃の中を満たして行く。

「はぁ、うめぇ……」

腹が減っている時の食べ物、それから身体が水分を失っているに飲む飲み物は何時もより何倍も旨く感じられる。

その食事を楽しみつつ、袋の中を再び漁ってエヴェデスはグチャグチャになっている資料を取り出した。

あの時、馬車の中で見つけたものの良く分からなくて結局こうして袋の奥底にしまった結果、長い様で

短かった今までの旅路の中で他の荷物に潰されてしまっていたらしい。


それでも別に読み取れない訳では無いし風も無いので、バサバサと紙をめくりながら資料に

再び目を通し始めるエヴェデス。

(もう1度最初から読んでみっか。ええと……他国へのウイルス散布についての

実験結果……これはあの馬車の中で読んだよな)

馬車の中は暗かったので良く資料の内容も見えなかったが、その驚愕の内容が書かれていたのは

今でもエヴェデスの記憶にしっかりと刻まれていた。

そしてその資料を読み込んで行けば行くだけ、この国が考えている恐ろしい計画が浮き彫りになって来た。

空気清浄機の名を借りた、恐ろしい兵器の開発と他国への流通をさせる為の計画書だったからである。


(つまりこの資料に書いてある事を整理すると……あの3人組が言ってた空気清浄機って言うのは

見かけにはそう見えるけど、実際にはその辺りの空気を吸い込んでそれを機械の中で無味無臭の人体に

悪影響を及ぼす気体にさせると。で、その排出した有害物質満載の気体がジワジワと長い時間を掛けて

人間や動物達の身体を蝕んで……最後には死に至るって訳かよ!?)

地球でも見掛けた事のあるマウスの動物実験の様に、実際に動物を使って実験してその効果は

1年後に証明されているらしい。

しかし、この資料によれば空気清浄機自体は国内への流通よりも国「外」……つまり、カシュラーゼ以外の

国へと輸出して売り付けるのが目的と書いてあった。

開発は魔術師達がして、流通は王国騎士団が行なうとも書いてある。


そこまで書いてあれば、考える事が苦手なエヴェデスでもこの壮大な計画の目的が大体読めてしまった。

(こいつ等の目的って、もしかすると……!?)

その考えは個人としてでは無く、軍人としての目線で考えるとかなりしっくり来てしまったのだ。

(こう言う物こそ、俺みたいな奴の目に触れない様にこっそり運ぶべきだろうに……)

詰めが甘いと言うのか、それともただ単にそう言う所は馬鹿なだけなのか。

理由としては後者の方がしっくり来てしまったエヴェデスだが、何はともあれこうしてこんな資料を

自分に渡した事である感情が芽生えていた。

(こんな人間の事を人間とも思わない王国なんて、いっその事潰れちまえば良いんじゃねえのか?)


とは言え一般の国民達に非は無いので、少なくとも騎士団と魔術師達は痛い目を見て貰いたい。

そんな思いがエヴェデスの足を動かした。

干し肉とパンの残りを胃の中へと収め、水を飲んで水分もたっぷりと補給。

この王国にとってもそうなのだが、この国以外の他の国にとってはもっと重要な事が記載されている

その資料を袋の中に戻し、しっかりと口を縛ってエヴェデスは山を下り始める。

どっちから登っても、始め登りでこの頂上を境に途中から下りになるのでその下り方面へと進み始めた。

(この情報を俺が握ったままなら、いずれあの騎士団員達と魔術師達は俺を殺しにやって来るだろうからな!!)

他国の運命もそうだが、自分の命の方がもっと大事なのだ。

その自分の命をこんな世界で終わらせない為にも、エヴェデスは確実にそしてスピーディーに険しい山道を下って行った。


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