A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第45話
そのニーフリックの町に辿り着いたエヴェデスは、ワイバーンタクシーとここでお別れする事に。
「色々世話になったな」
「ああ。気をつけてな」
「そっちこそ」
職員と握手を交わして別れようと思ったエヴェデスだったが、その前に職員から彼に対して渡す物があるらしい。
「あ、そうだこれを忘れる所だった。持って行け」
そう言いながら職員がゴソゴソとポケットから取り出したのは、何と数枚の札と硬貨だった。
「え、何で俺に? これってこのタクシーを使う為に俺の払った代金なんだろ? 渡されたって困るよ」
当然エヴェデスには疑問が湧く。
本来ならばタクシーを利用した側のエヴェデスは金を支払わなければならない筈なので、
金を渡される様な事はしていない。
だから受け取れないと思って突き返そうとしたのだが、この金を職員が渡すのにはきちんとした理由があった。
「いや、俺の方が持って行ってくれないと困るよ。本来なら歌手らーぜ国外までって約束でこの金を
代金として支払って貰ったけど、時間も時間だし結局国外には出られなかった訳だから、国外に出るのに
必要な割り増し料金の返金だよ」
「あっ……」
そう言えばその事をすっかり忘れていた。
契約プランが時間の都合で最終的に変更になってしまったのだから、その分の返金をされるのはむしろ当たり前である。
だったらチップとして取っておいてくれよとエヴェデスが断ったのだが、それも職員は首を横に振った。
「良いよ別にチップなんて。俺はそう言うのが目的でこの仕事やってる訳じゃ無いし。それにこの先で山を超えるなら
保存食を買っておいた方が良いぜ? それも俺が前に言ったけどよ。だから持ってけよ」
「……あ、ああ。感謝する」
多少強引な素振りでエヴェデスは職員から金を渡されたが、宿に泊まるだけの金は無いにせよ保存食を買う位の
金はあるのだと言う。
「じゃあ俺はもう帰る。これ以上遅くなるとまずいからな」
「ああ、色々世話になったな」
ブンブンと手を振ってエヴェデスはワイバーンタクシーと別れ、ニーフリックの町に入ったエヴェデスはまず食料品店を
探すものの、この時間帯はもうどの店もどの家も明かりが消えている状況だった。
(こんな時間じゃあなぁ……)
唯一開いているのはそれこそ宿屋位だったが、宿屋に泊まってしまうと保存食が買えなくなってしまうと言う話を
職員の男から受けていたので、エヴェデスはこの町の中で野宿をすると言うまさにホームレス状態だ。
(あーあ、何かひもじいな)
こんな事なら屋台で買ったあの時の食料を少しでも残しておけば良かったぜ、と思いながらエヴェデスは
空腹に耐えつつ眠りに就いて行った。
何だか眩しい。
「……う……」
なるべく目立たない様に町の端にある民家の裏、それも人目を避ける様にして陰になる場所で眠っていた
エヴェデスだったが、それでも太陽の光はしっかりと自分の姿を照らしてくれるものだと理解しながら起き上がる。
(うー……あんまり眠れてないぜ……)
腹が減っていたせいもあって、自然に目が覚めたのが半分で空腹で目が覚めたのが半分の感覚だった。
人間の身体は正直だなーと感じつつ、頭をブルブルと振って意識を覚醒させると共に服の汚れをパンパンと手で払った。
(まずは食料の調達だな)
出来れば多めに買っておきたいので、昨日の夜に貰った差額分で買えるだけの食料を買いに行こうと
エヴェデスは決意して歩き出した。
ついでに山を越える前に少しだけでも情報収集をしておこうと思い立つ。
あの図書館で聞いた話が衝撃過ぎたエヴェデスは、それ以外の情報収集が余り捗らなかったと言うのもあって
このキヴァルス山の麓でこの国で最後の情報収集をスタート。
しかし、その情報収集がエヴェデスに更なる衝撃をもたらす事になるのだった!!
「……戦争の原因以外にも、かなり大きなトラブルを起こした国がここだって?」
その衝撃と言うのは、この魔法王国カシュラーゼにまつわる話だった。
かなり前に起こった大規模な戦争の原因がカシュラーゼにあると言う事は、あの飲食店のマスターから
聞いたのでエヴェデスも良く覚えている。
だが、それに匹敵するトラブルをこの町の食料品店で聞く事に。
「そうなんだよ。余り大きな声じゃ言えないけど、この国は良く揉め事を他の国と起こすからうんざりしてるのよ。
あーあ、店仕舞いして別の国に行きたいけど、なかなか地元の繋がりとかお金とかの面でそうもいかないのよねぇ」
食料品店の店長である中年の女はエヴェデスを他所から来た旅人だと言う認識で、魔力が無いと言う事には
触れる事無く世間話の様な雰囲気で、しかしかなりの衝撃の事実を教えてくれた。
「西の方にソルイール帝国って言う国があるんだけど、そこを筆頭にして魔物が大量発生しているって
言う噂は知ってるわよね? 旅人の貴方なら」
「えっ? いや……知らないな。気の向くままに旅をしているから余り情報収集はしてないんでね」
「あら、そうなの? だったらこの話は覚えておいて損は無い筈よ」
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