A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第46話


店主の女は店の中をグルリと見渡し、エヴェデス以外に客が居ない事を確認してから改めて口を開く。

「その魔物が大量発生したって言う話だけど、結論から言えばこの王国の実験が原因なのよ」

「実験……って言うと、それこそ魔法の?」

「そう。魔法王国って言う名前は、その魔法を土台として成り立って来た国と言う事でつけられた名前だしね。

他国よりも魔術の研究が進んでいて何時の時代でもその時代の先端を走って来た様な国だし、

私も40年以上前からこの国で生まれ育った人間だからその恩恵は色々と受けて来たもんさ」

だけど……と女の声のトーンが一気に落ちる。

「時代の先駆者って言われてる様なこの国は、時としてその魔術の力を信じ過ぎて暴走を

起こす事もあったのよ。例えば魔術の実験で国内の山を1つ消し去ってしまったりとか、他国に魔術の

テクノロジーを高額な値段で売りつけたりとかってね」

「……後者はまだ分からないでも無いけど、前者は相当だな……」


地球で例えれば史上最悪の原子力事故となってしまったチェルノブイリみたいな

ものなのか、とエヴェデスは考える。

「そう思うわよね。でも、この世界の人間にとっては魔術と日常生活は切っても切れない関係なの。

そうした魔術のテクノロジーでこのカシュラーゼは世界一と言っても良い位だから、そうした暴走は大方

目をつぶって来たって言うのもあるのよね。この国の国民も、それから他の国も」

ここで少し話が逸れる事は分かっていても、エヴェデスはどうしてもその疑問を出さない訳には

いかないと思って口を動かす。

「それが例え、この国が引き起こしたって言う大きな戦争でもか?」

その疑問に対して女は首を横に振る。

「それに関しては最初に非難を浴びて大変だったわよ。私も戦争なんて反対だったからもちろん抗議したけど、

結局戦争が始まっちゃってね。最終的にはカシュラーゼの勝ちになったから良かったと言えば良かったのかも

知れないけど、もし負けてたって考えるとああやっぱりダメね、考えただけでも恐ろしいわ。全く、国民の意見なんて

殆ど無視してまでリスクが高すぎる行動をしてくれたわよね、この国は」

段々腹が立って来ている様な口振りの女だが、エヴェデスがその話を振ったので黙って聞くしか無いと

彼自身は思っていた。


しかし、その話の流れで話題が少しずつ元に戻って行く。

「それでね、その戦争に勝ったからこの国の上の人間はまた調子に乗って行ったのよ。この国そのものは

領土の拡大を目論んでいたって言うのもあるみたいなんだけど、それ以上に自分達の魔術のテクノロジーの

高さを他国に見せつけたかったみたい。自分の国だけじゃ無くて、他の国にも援軍や物資の要求を

求めていたからその国々の前で勝てば大きな宣伝になるでしょ?」

「まぁ、俺もそう言う考えはあると思うぞ」

戦争は様々な事が原因で起こるものだが、大抵の場合は第2次世界大戦の様な領土拡大やら、

アメリカで起きた同時多発テロ等の報復活動としてアフガニスタン紛争やイラク戦争等が有名だろう。

いずれの場合にしても、自分達の力を誇示する為の戦争と言うのは普通にあり得る話だ。

「やっぱりそう思うかしら。まぁそれはそうとして、その戦争で勢い付いたもんだから更に色々な研究をする様に

なったカシュラーゼで、ある実験の話が持ち上がってね。それが最初に言った実験の話よ」


ここでその話にようやく繋がるらしい。

「その実験が原因で、またこの国が非難を浴びる原因になったのか?」

「……正確に言えば、浴びかけたと言う所かしらね」

「って事は、非難を浴びる前に国が色々と動いたって訳か?」

「そうなるねぇ。それでも全部は隠し切れなくて、結局私みたいに国民の3割位にはバレちゃった訳だから」

今の話を聞いていて、エヴェデスには何と無くだがピーンと来るものがあった。

「とすると、その実験の影響でこっちにまで被害が出たって話だったり?」

「へぇ、なかなか鋭いのねぇ。と言っても南側のこっちはあんまり問題無かったわ。酷いのはそれこそ

ソルイール帝国側の西方面ね。その実験の影響は他国にまで影響を及ぼしたって事で、今度は

このカシュラーゼが攻め込まれそうになったんだけど、結局上の人間が証拠を揉み消してなんとかなったって

噂もあるわね。あくまで噂でしか無いから私も本当の所はどうなのかは分かんないけどね」


しかし、エヴェデスにはそれ以上に気になる事があった。

「この国は結構タイトロープを渡って来てるのは分かったけどよ、肝心のその実験の内容って一体何やらかしたんだよ。

魔物が大量発生してるとかさっき言ってたけど、それ関係の話か?」

何をすれば、そんな攻め込まれる1歩手前までの話になってしまうのかと言う事をエヴェデスはまだ聞いていない。

そう言われて、女はああ……と言う顔をした。

「そう言えばそうだったわね。じゃあそれも教えるけど、余り他人にベラベラ喋っちゃダメよ」

「説得力ねーよ。別に俺は喋らねーから離してくれ。ってかあんたもあんまり喋んなよ」

「そ、それもそうね。それじゃ話すけど、その実験の内容って言うのはね……」


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