A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第44話


転送陣と言うこの世界独自のテクノロジーを駆使して騎士団がエヴェデスを追撃している間、

そのエヴェデスはワイバーンの上で風を感じながら大空を飛んでいた。

飛行機に乗った経験はあれども、今まで生きて来た中でワイバーンに乗った事なんて当然無い。

最初はもっとスピードが出るものだと思っていたのだが、今このワイバーンをコントロールしている牧場の

職員の話によればタクシーの場合は安全第一で運転を心掛けているのでそこまでスピードは

出せないのだとか。

その上、今はもうほとんど夜になりかけの状態なので事前に話を聞いていた通りカシュラーゼ国内までの

輸送になってしまうらしいが、それでもカシュラーゼ国内の町であれば何処でも飛んで行ってくれると

言うので贅沢も文句も言える立場では無い。むしろ大助かりである。


その大助かりなワイバーンタクシーを利用して飛んでいたエヴェデスはこのまま順調に行くものとばかり

思っていたが、この世界の自然が彼の行く手を邪魔する事になると言う事をすぐにこの後に知る。

「……そう言えば、何処の町に降りるんだっけ?」

「ニーフリックの町だ。そこから国境を越えるなら山越えになるから朝になってから出発した方が良いだろうな」

「えっ、山?」

まさかここに来て山が自分の行く手を邪魔するなんて。

そのニー何とかと言う町の先にも町があればそこまで行って欲しいとエヴェデスは職員に申し出たのだが、

職員は首を横に振った。

「あるにはあるんだけど、そこは港町でワイバーンが下りられる様なスペースが無いんだ。丁度山の川から

流れ込んで来る川が広くなって海に繋がってるんだけど、その海のそばにある小さな土地のスペースを上手く

港町にしたって感じだからな」


国単位での地元の人間、しかもタクシーライダーで国内の事を良く知っていそうなこの職員にそこまで言われれば

エヴェデスも納得するしか無かった。

「そうか……じゃあ、その何とかの町って所から行ける山ってどう言う場所なんだよ? 超えるのに結構な時間が掛かったり、

かなり険しかったりするのか?」

少しでもその山の情報を手に入れておけば、山を越えるに当たっての不安は幾ばくか解消されるので自分から話を

振ったのもあって真剣に話を聞く事にした。

「キヴァルス山って言うんだけど、そこを超えるなら足元には注意した方が良いな」

「足元?」

「ああ。さっきほら、川が流れてその川が海に流れ込んでいるって話をしただろ? 非常に自然の川がその山には多いから、

とにかく足元が悪いんだ。地盤もあんまり良くないから土砂崩れも起こりやすいし、雨が降ったら泥でぬかるんで

まともに歩く事も出来ないからな」


「……道幅は広いのか?」

せめて道幅に余裕があれば少しは歩きやすくなりそうだと思ったエヴェデスだが、その質問にも男は首を横に振る。

「逆。凄く狭いしその上傾斜もきつめだ。人が2人すれ違うのもやっとって所が大部分だからな。川が多いから道も

狭くしなきゃいけなくなって、結果的に登山道もそんな造りになったんだ。それで良かった所と言えば、その道幅だから

魔物達が全然寄り付いて来ない位かな。狭いんだから結構人間が狙われやすいのかと思ったけど、魔物達も

狭い場所は窮屈らしいんだ」

魔物と言う存在にエヴェデスは全く馴染みが無いものの、その魔物が例え居なかったとしても山越えはかなり

きついものになりそうだと言う事が今の話の中で予想出来た。

「その町から山までの時間と、山に入ってから超えるまでの時間は大体どれ位掛かるんだ?」

「町からなら歩いて10分位だからすぐ目の前だ。山越えをするなら半日は見ておいた方が良い。キヴァルス山自体は

そこまで大きな山じゃ無いけど、さっきも言った通り狭いし傾斜はきついし足元も悪いし、そもそもその登山道は山越えを

したいって言う連中の要望で国が間に合わせで造った様なもんだから、時間が掛かってしょうがないんだよ」


何だか愚痴を言われている様なその口振りに、やっぱり地元民だから詳しいんだなーと思うエヴェデスだがそれ以外にも

思う事があったので聞いてみる。

「もしかしてあんた、その山に登った事あんのか?」

その質問には首をどう振るのかちょっと興味がエヴェデスにはあったものの、またしても職員の男は首を横に振った。

「俺は無いよ。だけど結構長い事このワイバーンの仕事してて、それで冒険者とかを色々乗せる事も多いから

そう言った時にそう言う情報が入って来るって訳だよ」

「ああ、そうなのか」


それだったら納得出来るエヴェデスは、自分がこれから向かう山の情報を仕入れる事が出来ただけでも

大きな収穫になったと感じていた。

だけどまだ質問は終わっていない。

「そのニー何とかって町は広いのか?」

「いいや全然。あれは町って名乗ってはいるけど実質村みたいなもんだよ。山の麓の町だから山で採れた山菜とか

果物とかが有名だし、山を越えるならその町で売ってる保存食を買っておいた方が賢明だろうよ」

「あ、保存食……」

そう言えば食事の事をすっかり忘れていたので、この情報もエヴェデスにとってはまたありがたかった。


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