A Solitary Battle Another World Fight Stories 8th stage第40話
ひとまず町の中をなるべく目立たない様に歩き回ってみる。
色々と立ち話に興じる町の人間や、朝から色々と仕事に精を出している商人等でそこそこ活気付いている。
そんな人間達を横目にエヴェデスは何処に行くかを考えていたのだが、サッパリ見当が付かないので
適当に何処かで時間を潰そうと思っていたその目の前に大きな建物が見えて来た。
その建物の入り口には「市立図書館」の文字が。
(図書館か……)
思えば自分はこの世界の事についてはまだ「さわり」程度にしか知らないのでこうした場所なら静かで
落ち着けるし、本を読むのは好きでは無いけどウロウロ町中を歩き回るよりは断然騎士団に
見つかる可能性は低くなる筈だとエヴェデスは思い、その図書館の中に足を運んだ。
(こんなもんかな……?)
余り広く無い図書館だが、それでも図書館と銘打っているだけの事はあるので色々な本がある。
その中から自分でも理解出来そうな本ばかりを持って来て、この世界の事をもう少し知っておくのも悪くは
無いだろうと勉強の意欲が湧いて来たので、その持って来た本をまずは1冊目からペラペラとめくり出して読み始める。
知らない世界の本と言うだけの事はあり、当然エヴェデスの知らない事ばかりが記載されている。
軍の勉強に関しては頭を悩ませる事が多かったものの、それは自分が昇進の為に必要だったからで半ば
強制されていた様なものである。
だが、今のエヴェデスが読んでいる本は自発的……つまり自分から読み進めている本なので自分の
知らない世界の知識を沢山吸収出来る事に無意識の内に喜びを感じていた。
なのでその図書館の本を気が付けば夢中になって読んでいたエヴェデスだったが、ふと聞こえて来た会話が
その読書を中断して聞き耳を立てる切っ掛けになった。
「なぁ、聞いたかよ……あの話」
「あの話って?」
「ほら、新開発の空気清浄機の話だよ。噂によるととんでも無くヤバイ効果があるんだってよ」
「何それ?」
(……静かにして貰えねえかなぁ)
ある程度のボリュームまでは許せるが、少し声が大きい気がする。
せっかく楽しく読書をしていたと思ったのに、何だか水を差されてしまった気分なので思わず顔をしかめて
エヴェデスはその話し声が聞こえて来る方向に顔を向けた。
その方向には明らかに冒険者の様な格好をしている3人の男が、1つの丸いテーブルを挟んで何やら話し込んでいた。
「それがよぉ、その空気清浄機の中に汚れた空気を吸い込ませて綺麗な空気にして排出するって話だったから、
こりゃー良いやって事で俺の知り合いの知り合いが1年前に買ったんだよ。けど、その空気清浄機を使い始めた
そいつが日が経つに連れて変になってったんだって」
「変に?」
その会話を横で聞いていたエヴェデスは何時声の大きさについて注意をしに行くかタイミングを見計らっていたのだが、
空気清浄機の使用者の異常と言う話題に本の内容が自然と頭に入らなくなる。
それはこの先のエヴェデスにとって、聞かなければ良かったと思う話であった。
「ああ。最初は軽い風邪みたいな感じだったらしいんだけど、次第にだんだん歩くだけでもきつい状況になって行って、
今じゃあもうベッドに寝た切りになっちまってるらしい」
「何だそれ、すげー怖い話じゃねえか。ちなみにその買った人ってのは一体どんな人間だったんだよ?」
「別に今まで何も病気をした訳でも無いし、身体の丈夫さだけなら誰にも負けない自信があるって本人も言ってた上に
周りの人間もそれを認めていたんだ。だからそんな人が急に倒れるってなったから信じられねーって大騒ぎさ」
「その空気清浄機が原因って事か?」
話をしていた男に仲間の男がそう投げ掛けてみたが、男は首を横に振った。
「その人の身内も同じ事を思って医師であり魔術師でもある人間を呼んで聞いたんだけど、
サッパリ何も分からないんだってさ」
「それじゃ、その空気清浄機が原因じゃ無いかも知れないって話になるのか?」
「どうもそうらしいぜ……」
(何か段々無茶苦茶な話になって来たなー……)
隣で聞いているエヴェデスの感想はそれだった。
空気清浄機で人間がおかしくなるって言う事は少なくとも彼が生きている中では聞いた事が無い話だし、医師でも
分からない原因があると言う事はそもそもその空気清浄機の使用を止めれば良いんじゃないんだろうかと思ってしまった。
と言うかそんな空気清浄機が出回っていると言う事は、この王国で問題視する様な事態になってはいないのだろうか?
(……まさか、ここの図書館にもその空気清浄機が使われているんじゃねえのか?)
この世界のテクノロジーを使って開発された空気清浄機なのであれば国が注意喚起をしなければいけないと思うし、
魔法王国と言うだけあってそうしたテクノロジー関係のトラブルには最も注意を払わなければいけないんじゃ無いかと
思ってしまったエヴェデスは気付けば身体が動いて本を閉じ、その隣の3人組に話しかけていた。
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